●平成13(行ケ)332 実用新案権 行政訴訟「ドア用電気錠」

Nbenrishi2008-09-27

 今日は、長女の小学校の運動会があり、頑張ってビデオやカメラで撮ってきました。午後3時過ぎに家に帰ってきて、さすがに疲れていましので、ビールを飲んでソファーで昼寝をしました。 


 さて、本日は、『平成13(行ケ)332 実用新案権 行政訴訟「ドア用電気錠」平成15年04月08日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2513E0F8817D27A649256D6D002D9211.pdf)について取上げます。


 本件は、実用新案登録無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、旧実用新案法5条4項の実施可能要件違反、すなわち本件明細書には当業者が容易にその実施をすることができる程度にその考案の構成が記載されていないと判断された点で、参考になるかと思います。


 つまり、東京高裁(第6民事部 裁判長裁判官 山下和明、裁判官 設樂隆一、裁判官 阿部正幸)は、


『1 原告は,本件明細書の考案の詳細な説明には,本件考案の「ドアの端面に露出する側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ」との構成について,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構成が記載されていない,審決は,この点の判断を誤った,と主張し,その理由の一つとして,ボルトを動かすことができるソレノイドは,大出力で大きなものとなり,ドア用の錠箱には収納できない,乙1文献に記載されたような多数のソレノイドを使用するものは,消費電力が大きいことから,電池駆動の電気錠には採用することができない,本件模型に使用されたラッチングソレノイドは,本件明細書に記載されたソレノイドとは異なるものである,と主張する。


(1) 従来のドア用電気錠は,ドアロックを開閉するアクチュエータと,カード等により入力された開施錠データを照合し,この照合結果に基づきアクチュエータを駆動制御する制御部とを備え,その電源である電池を室内側のドアノブを固定する長座に収納していたのに対し,本件考案は,上記のアクチュエータと制御部を備えるドア用電気錠において,電池をドアの内部に収納するとの構成により,長座をコンパクトにし,ドアとノブの間隔を小さくすることができるとの効果を奏するものである。請求項1に記載された本件考案の内容を簡単に要約すれば,本件考案は,ドアロックを開閉するアクチュエータと,制御部とを備えた本体をドア内部に収納するドア用電気錠において,電池を収納した電池ホルダを着脱自在とする電池ケースを本体と一体にドア内部に設けたことを特徴とするドア用電気錠である,ということができる。(甲第2号証の2)


  本件考案は,このように,ドアの内部に収納される電池によって稼働することができるアクチュエータと制御部を備えたドア用電気錠に係る考案であるから,本件明細書の考案の詳細な説明においては,ドアの内部に収納される電池ホルダ等の構成のみならず,このような電池によって稼働することができる,ドアの内部に収納されるアクチュエータと制御部を,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構成等を記載しなければならない(旧実用新案法5条4項)。


  もっとも,当業者が当然に知っている技術常識に属する事項についての記載は,場合によってはこれを省略することもできるから,上記の記載要件を具備しているかどうかは,本件出願時において,当業者が当然に知っている技術常識をも考慮した上で,判断しなければならない。


(2) ドア用電気錠のアクチュエータとその駆動力伝達機構について,本件明細書に記載されているのは,単に,「このドア用電気錠本体31の内部にはソレノイドSOL1が収納されている。ソレノイドSOL1は図外の機構を介してラッチボルト33およびトリガボルト34を側板38から出し入れする。」(甲第2号証の2第4欄18行〜21行),「この制御部に対して前述のソレノイドSOL1が図示しないコネクタを介して、後述する電池ボックスとともに接続される。」(同4欄25行〜27行)」,及び,「電池ケース35には制御部およびソレノイドに接続された端子35a,35bが設けられているため、電池ホルダ32をこれらと直接接続する必要がなく」(同5欄2行〜5行)との文言,並びに,錠本体中にソレノイドが配置されることを示している図(第1図)だけである。


  審決は,本件明細書のこの記載状況の下で,本件出願時の技術常識につき,「ソレノイドは,往復の駆動力を発生するアクチュエータとして周知であり(例えば電磁弁において周知),その駆動力を伝達手段を介して往復動作する被駆動体に伝達することも技術常識である。このことは,被請求人が提出した乙第1号証(特公昭53−47756号公報),乙第2号証(実願昭46−53787号のマイクロフィルムフィルム)に,ソレノイドの駆動力を利用してボルトを出し入れしてドアロックを開閉する電気錠,及びソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が記載されているように,本件考案の属する技術分野においても周知技術である。」と認定した上で,「本件考案が「側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ」に関して,この構成以上に格別の機能を有する構成として規定しているわけではないし,考案の詳細な説明に設計書のような詳細な説明をすることが求められているわけではないから,本件考案の「側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ」に関して,考案の詳細な説明中に「ソレノイドSOL1は図外の機構を介してラッチボルト33およびトリガボルト34を側板38から出し入れする」とあり,第1図に電気錠本体31中にソレノイドSOL1がボルトに隣接して配置されているものが図示されていれば,当業者ならばそれに基づいて容易に具体的なドア用電気錠を作ることができるものである。」と判断した。


  しかし,審決のこの判断は誤りである。


  本件考案は,上記のとおり,いずれもドアの内部に収納される電池によって稼働することができるアクチュエータと制御部とを備えたドア用電気錠に係る考案であるから,当然のこととして,本件明細書の考案の詳細な説明には,このようないずれも電池によって稼働することができるアクチュエータと制御部につき,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構成等を記載しなければならない。


 しかし,本件明細書には,アクチュエータとその伝達機構については,上記のような記載しかなく,このような考案の詳細な説明の記載では,本件考案に適用することができるソレノイドとその駆動力伝達機構が存在するか自体がまず明らかでなく,仮に客観的には存在するとしても,当業者は,それを既存の技術の中から探し出してこなければならないのであり,当業者が本件考案を容易に実施をすることができる程度に記載されたものということは困難である。


 もっとも,このようなソレノイドとその伝達機構とが,明細書の詳細な説明に記載されていなくとも,当業者にとって容易にその実施をすることができるような技術常識に属する事項であるとすれば,その記載を簡略にすることが許容され,少なくとも,明細書の記載不備を理由に実用新案登録を無効とすることはできない,ということができる


(ただし,上記のようなソレノイドとその伝達機構とが,明細書の詳細な説明に記載されていなくとも,当業者にとって容易にその実施をすることができるような技術常識に属する事項であるとすれば,従来から存在する,電池を室内側のドアのノブを固定する長座に収納するものの欠点を除去するため,このようなソレノイドとその伝達機構とを採用することにして,本件考案の構成に至ることに,どれだけの困難性が認められるのか,という疑問が生じ,本件考案の進歩性は,それだけ否定されやすくなることになろう。)。


 しかし,本件考案は,上記のようなものである以上,単に,乙1文献及び乙2文献等から,ドア用電気錠において,ドアの内部に収容することができる往復の駆動力を発生するソレノイド,及び,ソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が周知であることを示すだけでは足りないのであり,これらのソレノイド及びソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が,ドアの内部に収納することができる程度の数量の電池による小さな電力によって,ドア用電気錠のボルトの出し入れに必要な力を発揮することができるものである必要があり,かつ,このような小電力用のソレノイド及び伝達機構が,本件出願時において,当業者にとって,本件明細書の考案の詳細な説明に記載するまでもなく明らかな技術常識となっている事項であることが少なくとも必要なのである


(このような場合でも,考案の詳細な説明に十分な記載がなければ旧実用新案法5条4項に反するとの考え方もあり得る。この考え方は採用しないとしても,少なくとも,上記のような小電力用のソレノイドとその伝達機構が本件出願時において当業者にとって技術常識となっているといえるものでなければ,本件明細書の考案の詳細な説明の記載は,同条項に反することが明らかである。)。


 なお,ドアの内部に収納する電池で駆動するソレノイドと比べ,外部電源で駆動するソレノイドは,その定格電力が大きいのが特徴であることは,例えば,乙5文献(原告の総合カタログ。ただし,発行年月日は不明。)には,外部電源により駆動する電気錠が掲載されており,そのソレノイドは,19Vで1.3Aないし28Vで2.0Aの定格と表示されているのに対し,被告らが電池により駆動するものとして試作した本件模型において使用されているソレノイドは,6Vで1Aの定格のものであることから明らかである。したがって,ドアの内部に収納する電池で駆動するドア用電気錠においては,定格電力が小さくとも,ボルトの出し入れに必要な力を発揮するソレノイドを備える必要があるのである。


(3) 被告らが本訴において周知技術を立証する証拠として提出した乙号各証を見ても,本件出願時において,ドアの内部に収納することができるソレノイドとその駆動力を伝達してボルトを出し入れするドア用電気錠の技術内容を開示するものはあっても,錠本体の外部の電源に接続されるリード線等を備えたものであって,外部電源により駆動するものであったり,外部電源によるものか,あるいは,電池から供給される相対的に小さな電力により駆動するソレノイドに関する技術内容を開示するものか,それ自体からは明らかではないものばかりである。


 ・・・省略・・・


(4) 被告らは,本件考案が当業者にとって実施可能であることを立証する証拠として,本訴において本件模型(検乙第1号証)を試作して提出した。


  しかし,本件模型に使用されているソレノイドは,単に,「ソレノイド(6V/6Ω,1A定格)」と特定されているだけであり(乙第9号証),このソレノイドが本件出願時において当業者にとって技術常識といえるものであったのか,あるいは,このソレノイドが本件出願時においてそもそも存在していたものであるのか,いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。


  本件模型は,そもそも,本訴において被告らが試作したものであるから,それだけでは,本件出願時において,本件明細書の考案の詳細な説明に記載されたところに従って,当業者がこれを容易に製作し得たものであることを立証するものではない。本件模型によっては,本件明細書の考案の詳細な説明において,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その考案の構成が記載されていたということを立証することはできない。


(5) 以上からすれば,本件明細書の考案の詳細な説明においては,本件考案の「ドアの端面に露出する側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ」との構成について,当業者がこれを容易に実施することができる程度に,その構成についての記載がない,というべきであり,この点についての審決の判断は,誤りであり,この誤りが結論に影響することは明らかであるから,取り消されるべきである。


2 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がある。そこで,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。