●平成20(行ケ)10217 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日は、『平成20(行ケ)10217 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟平成20年09月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080926143039.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号における本願商標と本件各引用商標との類似性の判断について参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 榎戸道也、裁判官 浅井憲)は、


1 本願商標と本件各引用商標との類似性について

 まず,本願商標と前記第2の3(1)ア(イ)の引用商標5(以下「本件引用商標5」という。)との類否について検討する。


(1) 本願商標は,黄色に着色された円図形内の上部に,目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を2つ並べ,この2つの黒塗りの縦長楕円形の下に口と思しき両端上がりの弧線を円図形一杯に描いたものから成る。これに対し,本件引用商標5は,黒線により描いた円図形内の上部に,目と思しき小さい黒塗り縦長楕円形を2つ並べ,その下部に,口と思しき両端上がりの弧線を円図形一杯に描いたものから成る。上記各構成から,両者は,いずれも人の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に表現したもので看者にほのぼのとした幸福感等を与える商標であると認識されるものと認められる。


(2) 本願商標と本件引用商標5を子細に対比観察するならば,円図形内の黄色の着色の有無の違いに加え,目に当たる部分の配置や大きさ,口に当たる部分の線の太さや弧を描く角度などの細部において多少相違するところはあるものの,別紙本願商標と別紙引用商標目録の引用商標5とを対比すれば明らかなとおり,看者に与える印象の骨格を決定付ける図形としての基本的構成は同一であるのに対し,着色の有無以外の相違点は両者を対比観察して始めて認識し得る程度の微差に過ぎず,また,黄色の着色は,原告も自認するとおり,左程個性的とはいえず,その有無によって格別異なる印象を与えるものとも言い難いから,両者は,図形全体として看者に極めて似通った印象を与えるものと認められる。


 上記事情に加えて,本願商標及び本件引用商標5の各指定商品は,共に第25類の被服や履物等の日用品であり,当該商品の性質上,その需要者は,多くの場合,これに付された商標の一見した印象によって商品の出所を識別することが多い実情にあることは経験則上容易に推認し得るものであることを併せ考慮すれば,本願商標及び本件引用商標5を時と場所を異にして離隔的に観察した場合,需要者が両者を区別することは困難であると認められるから,本願商標と本件引用商標5は,外観において類似するものというべきである。


(3) 原告は,何人も本願商標の黄色い円形の境目を黒色の円形線と認識することはあり得ないから,本願商標は本件各引用商標と類似しないと主張する。


 確かに,本願商標の黄色に着色された円図形と本件引用商標5の黒線により描いた円図形とは円図形の表現方法が異なるが,これらの円図形は,その内部の目と思しき小さい黒塗り縦長楕円形及び口と思しき両端上がりの弧線と相俟って,前記(1)のとおり,いずれも人の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に表現したものと認識されるものであり,本願商標における黄色の着色部分が形成する境目は,結局,本件引用商標5の黒線の円図形と同様,人の笑顔の輪郭を表したものと認識されるものというべきであるから,看者に与える影響に大差はなく,上記の表現方法の相違があるとしても,これをもって,本願商標と本件引用商標5とが外観において類似するとした前記判断を左右するものとはいえず,原告の主張を採用することはできない。


(4) 原告は,本願商標は,人間の「目と口」をモチーフとしたもので,基本的に他の商標と類似関係になり易いものであるが,国民が商標使用を各方面で行い,使い易くするために登録の上で特別に配慮するべきであり,過去の商標登録の事例(甲6,7)との比較を考えると,本願商標と本件各引用商標との区別は容易であり,類似とはならないと主張する。


 しかしながら,人間の「目と口」をモチーフとした商標が,他の商標と類似関係になり易いとしても,そのような商標であることを商標の登録上で特別に配慮しなければならない法律上の根拠は存在しない。


 また,原告指摘の甲第6,7号証は,人間の「目と口」をモチーフとした商標について,そのような商標であることを商標の登録上で特別に配慮した事例とはいえない。


 そして,本願商標と本件引用商標5を離隔的に観察した場合に,需要者において両者を区別することが困難であることは,前記説示のとおりである。


 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。


(5) 以上のとおり,本願商標と本件引用商標5とは外観において類似し,両者の指定商品は同一であるから,本願商標とその余の本件各引用商標との類否について判断するまでもなく,本願商標は商標法4条1項11号に該当すると認められる。


 したがって,審決の判断に誤りはない。


2 その他の原告の主張について

 上記1のとおり,本願商標の商標法4条1項11号該当性は,本願商標と本件引用商標5との類似性に基づいて判断したから,以下の原告の主張の検討においても,これを踏まえて判断する。


(1) 原告は,「黄色い上部半円形と目と口」から成る商標及び「黄色い下部半円形と目と口」から成る商標は登録されたが,モノクロの「上部半円弧と目と口」から成る商標及び「下部半円弧と目と口」から成る商標については,本件各引用商標を理由に拒絶査定を受けており,両者の審査には一貫性がないから,本願商標は登録されるべきであると主張するが,原告の主張に係る上記の登録商標と本願商標及び本件引用商標5とは,その構成が異なるものであるから,それに関する審査内容が,本願商標と本件引用商標5とが類似するとの前記判断に影響するとは考えられず,原告の主張は採用することができない。


(2) 原告は,本願商標と同一のスマイルに関する登録商標を多数登録していると主張するが,原告がその裏付けとする甲第9号証に記載された商標の構成は,本願商標と同一ではないから,原告の主張は失当である。


(3) 原告は,スマイル・マークがハーベイ・ボールにより創作・著作されたことが全世界で認められている事実を商標登録要件として考慮するべきであると主張するが,商標法は,商標権と著作権との事後的な調整規定(同法29条)を設けているものの,創作ないし著作行為を登録要件として考慮する規定は存在しないから,原告の主張は失当である。


(4) 原告は,大阪地裁判決は,日本ではスマイル・マークが40年前から国民の間で普遍的・一般的なものとなっており,厳密な登録要件(外観・称呼・観念)のみでは区別できないものであると判断したものと理解できると主張する。


 大阪地裁判決には,商標権侵害の有無に関し,スマイル・マークに属する商標に係る商標権の禁止権の及ぶ範囲について判示する部分がある(乙7)が,当該判示部分が本願商標と本件引用商標5との類否の判断に影響するというべき理由はないから,原告の主張は失当である。


(5) 原告は,本件各引用商標は,商標ブローカーにより,不正な目的で登録されており,スマイリー・フェイスを特定の商標権者が独占することは公平な競争秩序ないし公平の観念に反するので,本来,取消し又は無効とすべき商標であり,本件各引用商標の存在を理由に本件出願を拒絶するのは先願主義の弊害であると主張する。


 しかしながら,本件引用商標5が本来,取消し又は無効とするべき商標であるかどうかはともかく,本件引用商標5が現に登録されている以上,本願商標がこれと類似するものと認められれば,商標法4条1項11号該当性を否定することはできないから,原告の主張は失当である。


3 以上の次第であるから,審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を違法とする事由もないから,審決は適法であり,本件請求は理由がない。


第6 結論

 よって,本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。