●平成20(行ケ)10013 審決取消請求事件 特許権「引戸用空錠」

 本日は、「平成20(行ケ)10013 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「引戸用空錠」平成20年09月24日 知的財産高等裁判所」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080925121157.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(本願発明を分割して把握した誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『(2) 取消事由1(本願発明を分割して把握した誤り)について


ア 原告は,本願発明には,「本件一体構成は一体的かつ有機的に結合されており,これを分割することはできない」という技術的思想が内在しており,これを分割すると本願発明の本質が変わり,目的を達成することができなくなるから,本願発明の進歩性を判断するに当たっては,本件一体構成を一体的かつ有機的に結合した発明が開示された引用例を用いるべきであり,これを用いずに進歩性を肯定した審決は違法である旨主張する。


 しかし,特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは,その発明については,同項の規定にかかわらず,特許を受けることができない。」として,ある発明が,一定の構成を組み合わせて特定の技術的意義を獲得するに至る場合であると否とにかかわらず,既存の発明(特許法29条1項各号に定める発明)からみて容易想到であれば進歩性に欠けることになる旨を規定するのであって,その進歩性の判断において,進歩性が問題とされる発明の構成と既存発明の構成とが一致することは必須の前提とされるものではない。


 そうすると,前記2に認定したとおり,本願発明は本件一体構成が一体となっている点に特徴を有し,これにより前記認定の効果を奏するものであるとしても,本願発明の進歩性を判断するに当たっては,必ずしも常に本件一体構成を一体的かつ有機的に結合した発明が開示された引用例を用いるべきものでもない。


 また,本願発明における構成(B)はラッチの形状・機構等の構成を規定し,構成(D)はラッチに一体形成された突部の形状・機構等の構成を規定し,構成(G)はレバーハンドルを固設するためにラッチに設けられる構成を規定するとともに本願発明の機能上の特徴を述べたものであるが,これらは,いずれも一体形成されたラッチに関するものである点で共通するものの,技術的思想としてはいずれも別個独立のものとして観念することが可能なものである以上,そのようにして切り離された一部の構成に相当する引用例(既存発明)を選択し,これとの組合せの関係で進歩性を論じることができないということはない。


 もとより,ある発明の進歩性を検討するに当たり,当該発明における一部の構成のみが開示された引用例を用いた場合には,当該引用例に係る既存発明の構成と残余の構成との組合せが容易想到であるか問題となるが,このような意味における審決の容易想到性の判断に誤りがないことは,後記イのとおりである。


 したがって,原告の上記主張は失当といわざるを得ず,取消事由1に係る原告の主張は採用することができない。


イ(ア) なお,原告の主張をみると,構成(B)及び構成(D)が開示された引用文献1記載発明に本願発明における構成(G)を組み合わせることは困難であるから,容易想到性がない旨(すなわち,本願発明における相違点Cの判断の誤り)をいうものと解する余地もあるので,念のため,この点について検討を加える。


(イ) 引用文献2(甲4)には,次の記載がある。

 ・・・省略・・・


(ウ) 以上によれば,引用文献2には,審決が認定したとおり,「扉の固定側にラッチ係合孔22を設け、一方、回動する扉に固設された方形箱状のケーシング2内に、先端にラッチ係合孔22と選択的に係合するカム面3cを形成し、基端を、扉20に対し直交する軸Oを中心に回動自在に設けた回動体5から半径方向に延設される回動片24先端に当接したラッチ3を設け、回動片24をラッチ3がラッチ係合孔22と係合する方向に付勢し、この回動片24の近傍におけるケーシング2の一側板に取付部2cを開口させ、この取付部2cを通して、扉の裏側の押引きレバー15bの作動部材16を回転片24に連係させることができるようにすると共に、回転体5とラック&ピニオンによる変向機構を構成するラック部材19を設け、ラック部材19の近傍におけるケーシング2の他側板に取付部2cを開口させ、この取付部2cを通して扉の表側の押引きレバー15aの作動部材16をラック部材19に連係させることができるようにし、回動体5に、その回動体5の軸方向に貫通する、回転レバーの角軸部を挿入する方形孔を設け、レバーが押引きレバーであっても、回転レバーであっても共用できるようにした扉のラッチ装置。」との発明が記載されていると認められる。


 そして,上記引用文献2記載の発明は正に相違点Cに相当する構成を有するものであって,しかも,引用文献2記載発明と引用文献1記載発明とは,いずれも戸に固設する錠前の機構に関するもので,かつ,その中心的な機構としてラッチ装置を用いるものであることからすれば,これら発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)であれば,後者に前者を適用することで本願発明と同様の構成を導くことに格別困難があるということはできない。


 そうすると,相違点Cを容易想到とした審決の判断に誤りはないから,原告の上記主張は採用することができない。

4 結論

 以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。

 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。