●平成19(行ケ)10422 審決取消請求事件「薬剤を製造する方法」

 本日は、『平成19(行ケ)10422 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「薬剤を製造する方法」平成20年08月06日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080807140657.pdf)について取上げます。


 本件は、昨日取上げた『平成19(行ケ)10412 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「作業用アームレスト」平成20年08月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080827100340.pdf)に続き、進歩性なしの拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、進歩性を否定する際の引用発明の認定についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 石原直樹、裁判官 榎戸道也、裁判官 杜下弘記)は、


1 取消事由1(本願発明と引用発明の一致点の認定の誤り)について

(1)引用発明の認定


ア 引用文献には次の各記載がある。

 ・・・省略・・・

イ上記アの各記載及び引用文献の各図面によれば,引用文献記載の発明に関し,以下の事実を認めることができる。


(ア) 引用文献に記載されているのは,エンジン部品のバルブシートのような精度を必要とする焼結機械要素に係る粉末成形方法の発明である。


(イ) バルブシートは,円筒形状で内周面の一端に円錐状部を有し,その各部の寸法,特にバルブと当接する円錐状部の精度が要求されるものであるところ,引用文献には,バルブシートに係る従来の粉末成形方法が,下パンチ又はコアロッド(下コアロッド)に円錐形状部を設けてバルブシートの円錐状部を形成するというものであり,下パンチに円錐形状部を設けたものではその強度に,コアロッドに円錐形状部を設けたものでは圧縮成形時に円錐形状部と下パンチの高さを揃える作動の安定性に,それぞれ問題があったことを解決すべき技術課題とし,その粉末成形方法の工程に「上パンチ5及びその内側に配される先端に円筒状突出部41と円錐形状部42とを有する上コアロッド4」を採用することにより,下パンチ2と下コアロッド1との成形時での正確な連動が必要でなく,精度を安定して維持することが容易となり,また,バルブシートの円錐状部63が,上コアロッド4の円筒状突出部41,円錐形状部42,上パンチ5のランド部51によって成形されるため,この部分を高精度に成形し得る上,円錐形状部42が圧縮工程中に粉末上面に対しくさび効果的な作用をなし,円錐形状部付近で粉体圧縮がより確実に行なわれてバルブシートの円錐状部63を高密度に成形することができるという効果を奏する発明が記載されている。


(ウ) そうすると,引用文献記載の発明において,上コアロッド4に円筒状突出部41のほか,円錐形状部42を備えることは,技術課題を解決し,発明の効果を奏するために不可欠の構成であることは明らかである。


 すなわち,引用文献には,粉末成形方法の工程に「上パンチ5及びその内側に配される先端に円筒状突出部41を備えるが,円錐形状部42を備えていない上コアロッド4」を用いた構成の発明が記載されていないことはもとより,当業者が,引用文献の記載から,かかる構成の発明を想起することも困難であるといわざるを得ない。


ウ したがって,引用発明について「環状の粉末成形体の成形方法であって,ダイ3,下コアロッド1を上げて,あるいは下パンチ2を下げ形成される空隙71に粉末Aを充填する第1工程と,さらにダイ3,下コアロッド1を上げ,あるいは下パンチ2を下げて前記粉末Aの上に空隙7を形成する工程と,粉末Aを圧縮して成形する工程であって,上パンチ5及び円筒状突出部41を有する上コアロッド4が下降し,円筒状突出部41で下コアロッド1を押し下げ粉末Aを圧縮して成形する第3工程と,を包含する環状の粉末成形体の成形方法。」とした審決の認定は,引用文献に記載された粉末成形方法の発明を構成する要素として,円錐形状部を備えない上コアロッドを認定した点において,引用発明の認定を誤ったものというべきである。


(2) 本願発明と引用発明の一致点の認定


 審決は,本願発明(その要旨については当事者間に争いがない。)と引用発明を対比し,両者は「環状の粉末圧縮体を製造する方法であって,a)長手軸線を有する型内にばらの粉末を置く段階と,b)型の長手軸線に沿ってマンドレルを位置決めする段階と,c)粉末を圧縮する段階であって,圧縮の間中,粉末と型の間の摩擦力と,粉末とマンドレルの間の摩擦力とが,長手軸線に対して平行でかつ正反対の方向に作用するように長手軸線に対して平行な力を加えることによって,かつ型とマンドレルを長手軸線に対して平行な方向に互いに相対的に移動することによって,粉末を圧縮する段階と,を包含する環状の粉末圧縮体を製造する方法。」である点で一致すると認定している。


 しかしながら,上記(1)イのとおり,引用発明の上コアロッドは円錐形状部を有し,この円錐形状部が粉末上面に対して「くさび効果的な作用」をすることによって,円錐状部を高密度で成形することができるという効果を奏するというのであるから,このような形状の上コアロッド及び上パンチの下向きの移動は,少なくとも上コアロッドの円錐形状部においては,粉末に対して軸線方向下方と半径方向外方の中間方向に向かう力(長手軸線に対して斜め下外方向に働く力)が作用することは明らかである。したがって,引用発明は「粉末を圧縮する段階であって,圧縮の間中,粉末と型の間の摩擦力と,粉末とマンドレルの間の摩擦力とが,長手軸線に対して平行でかつ正反対の方向に作用するように長手軸線に対して平行な力を加える」ものでないというべきである。


 そうすると,審決が,「粉末を圧縮する段階であって,圧縮の間中,粉末と型の間の摩擦力と,粉末とマンドレルの間の摩擦力とが,長手軸線に対して平行でかつ正反対の方向に作用するように長手軸線に対して平行な力を加える」点を含めて本願発明と引用発明の一致点と認定したことは誤りであるといわざるを得ない。



(3) 以上によると,審決には結論に影響を及ぼすべき違法があるから,取消事由1は理由がある。


2 結論

 以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,本訴請求は理由があり,審決は取り消しを免れない。


 よって,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。