●平成20(ネ)10019「不定形耐火物の吹付け施工方法事件」知財高裁

 本日は、『平成20(ネ)10019 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟不定形耐火物の吹付け施工方法」平成20年08月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080829152128.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、本年4/26の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080426)で取上げた、最高裁判決の『平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件「ナイフの加工装置事件」平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080424152947.pdf)を引用しての「事実審の最終口頭弁論終結後の訂正審判請求について」の付言が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、


3 付言−−−事実審の最終口頭弁論終結後の訂正審判請求について

 原告は,当審の口頭弁論終結後である平成20年7月1日,第2次無効審決A及びB(原告がこれらの審決の謄本の送達を受けたのは,当審の口頭弁論の終結前である同年6月3日である。)を不服として,その取消しを求める審決取消訴訟知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10244号,同第10245号)を提起し,同年7月17日,本件各特許について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判を請求し(ただし,原告は,同年8月21日,同訂正審判請求をいずれも取り下げた。),さらに,同年8月20日,本件各特許について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判を請求した(当裁判所に顕著な事実)。なお,本件について口頭弁論再開申請がされてはいない。


 そこで,本件について口頭弁論の再開の要否を含む審理のあり方について,以下のとおり,当裁判所の見解を述べる。

(1) 本件各特許の手続の経緯


 本件各特許についての手続の経緯は,前記第2,1,(1)及び上記のとおりである。すなわち,


ア 被告は,原審において本件各特許について無効主張をするとともに,特許庁に無効審判を請求し,特許庁は,平成19年8月3日,本件各特許をそれぞれ無効とする第1次無効審決A及びBをした。


イ 原告は,第1次無効審決A及びBを不服として,その取消しを求める審決取消訴訟を提起した上,同年11月14日,本件各特許について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判を請求し,特許法181条2項に基づく取消決定を受けて再開された本件各特許に係る無効審判の手続において,同年12月20日,訂正請求をした。


ウ 原判決は,平成19年12月26日,被告の無効主張を採用して,特許法104条の3の規定により,原告の請求をいずれも棄却した。


エ 原告は,平成20年1月18日に本件控訴を提起した後,本件各特許に係る無効審判の手続において,同年3月28日,改めて,本件各特許について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正請求をし,これに伴い,平成19年12月20日の各訂正請求は,特許法134条の2第4項により,取り下げられたものとみなされた。


オ 特許庁は,平成20年5月22日,同年3月28日の上記各訂正請求に基づく訂正を認めた上で,訂正後の各発明についての特許を無効とする第2次無効審決A及びBをし,原告は,これらの審決の謄本の送達を同年6月3日に受けた。


(2) 当裁判所の見解


ア まず,上記各訂正審判請求の内容を検討すると,平成20年7月17日の各訂正審判請求は,本件各特許の無効理由を解消するものとは認められず(原告も,同訂正審判請求を取り下げている。),上記平成20年8月20日の各訂正審判請求は,これが認められる蓋然性は極めて低いものと判断できる。


 また,上記各訂正審判請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1を前提として,被告製品が,同請求項1に記載された各発明の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものであるかを検討すると,本件記録に照らして,被告方法が上記各発明の技術的範囲に含まれることを認めるに足りる証拠は見当たらない。


 そして,技術的範囲に含まれるか否かの点について,原告に主張立証を補充する機会を与えるとするならば,原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである。


イ 仮に,上記平成20年8月20日の各訂正審判請求が認められ,訂正審決が確定するという事情が生じることを想定した場合には,当審のした判断を覆す主張をする余地が生じ,また,たとえ判決が確定した後においても,民訴法338条1項8号所定の再審事由に当たる余地が生じ得ることになる。


 しかし,仮にそのような事情が生じたとしても,原告が,そのような事後的事情変更を理由として,当審のした判断を覆す主張をすることは,特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されないというべきである。


 その理由は,特許法104条の3第1項の規定が,特許権侵害訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められることを特許権の行使を妨げる事由と定め,無効主張をするのに特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要しないものとしているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で解決すること,しかも迅速に解決することを図ったものと解され,また,同条2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしているのは,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解され,このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきであるからである(最高裁判所平成18年(受)第1772号事件・平成20年4月24日第1小法廷判決)。


 そして,本件においては,第1次無効審決A及びB,原判決,第2次無効審決A及びBにおいて採用された被告の無効主張は,いずれも乙40文献に開示された発明及び乙7文献に開示された発明との関係での進歩性の欠如であったことに照らすならば,原告は,被告の当該無効主張を排斥し又は覆すための対抗主張として,単に平成20年3月28日の訂正請求に基づく訂正A発明及び訂正B発明における無効理由の解消等を主張するばかりでなく,当審の口頭弁論終結前に,第2次無効審決A及びBの取消訴訟を提起し,本件各特許について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求をするなどして,これに基づく対抗主張を行うことが可能であったというべきである。


 したがって,仮に,上記のような事情変更を想定したとしても,そのことを理由とした対抗主張を,適法な主張として審理をすることは,原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである。


ウ 以上のア及イのいずれの観点からも,原告が上記各訂正審判請求に係る対抗主張を当審の口頭弁論終結前に提出しなかったことが正当化される根拠はなく,本件について口頭弁論を再開する必要はないものと認められる。


4 結論

 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がなく,原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。