●平成20(ネ)10023 特許権侵害「生海苔の異物分離除去装置事件」

 本日は、『平成20(ネ)10023 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「生海苔の異物分離除去装置」平成20年08月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080827103755.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、明細書に記載された発明の課題や目的等、出願経過における特許権者の主張を参酌して、ボールスプライン最高裁判決が示した均等侵害の第1要件の「本質的部分」の判断しており、この点で参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、


『1 当裁判所も,被告製品は,本件特許発明の構成要件B2及びB3を充足せず,本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1項(原判決21頁20行目から32頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。


2 当審における原告の新たな主張(予備的主張)に対する判断


 原告は,当審において,以下の主張を予備的主張として追加する。


 すなわち,仮に,(i)被告製品における「回転円板3は,ケーシング部材7の上方に重ねるように設けられていないとの構成」が,本件特許発明の構成要件B2中の「この選別ケーシングの上方に重ねるように設け」との構成を具備せず,また,(ii)被告製品における「回転円板3の側面部3aと環状固定板4の内周側面部4aとで形成された略垂直方向に開口するクリアランス」が,本件特許発明の構成要件B3中の「この回転板の回転円周縁面と前記選別ケーシングの円周縁面とで形成したクリアランス」との構成を具備していないとしても,被告製品の上記各構成部分は,本件特許発明の構成要件B2,B3と均等であるとの主張を追加する。


 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。


 すなわち,原審が認定したとおり,

(i)本件明細書には,本件特許発明は,従来の技術である,筒状混合液タンクの環状枠板部の内周縁内に回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とした異物排出口を設けた,特開平8−140637号(乙3文献)の生海苔の異物分離除去装置では,筒状混合液タンク内で遠心力により略水平方向に流動している略水平展開状態の生海苔が,筒状混合液タンク内の回転板の内嵌めによる垂直構造のクリアランスを通過するためには,生海苔を垂直方向に方向転換する必要があることから,生海苔を傷めるおそれがあるとともに,垂直構造のクリアランスへの誘導が十分でないとの課題があり(【0002】【0003】),本件特許発明は,かかる垂直構造のクリアランスの課題を解決するため,クリアランスを回転板の回転円周縁面と選別ケーシングの円周縁面とで構成し,回転板の回転により略水平展開状態となっている生海苔をそのまま略水平状態で吸い込むことが可能となること等を目的とする(【0004】)ものである旨の記載があり,


(ii)本件特許出願人は,本件特許の出願経過において,一貫して,乙3文献記載の発明では,環状枠板部の内周縁内に回転板を内嵌めするので,クリアランスは垂直方向であるのに対し,本件出願当初発明あるいは本件一次補正発明では,クリアランスは,選別ケーシングの上方に重ねるように設けた回転板の回転円周縁面と前記選別ケーシングの円周縁面とで形成され,クリアランスの方向は,重ね合わせなので略水平方向であるとし,その結果,乙3文献記載の発明では,生海苔を垂直に曲折して吸い込むのに対し,本件出願当初発明あるいは本件一次補正発明では,生海苔は略水平展開状態のまま吸い込まれるとの相違があると主張し,出願前の発明(乙3文献記載の発明)との相違を強調した出願の経緯がある。


 このような記載及び経緯に照らすならば,本件特許発明を特許発明として成立させている技術思想の本質的な特徴部分は,構成要件B2及びB3の記載に基づく「略水平方向に流動旋回する生海苔を,回転板の回転円周縁面と選別ケーシングの円周縁面とで構成され,略水平方向に開口されているクリアランスによって,そのまま略水平状態で吸い込むこと」にあることは明らかである。


 そして,この点の詳細は,前記原審引用部分(原判決21頁20行目から32頁1行目まで)に記載のとおりである。


 そうすると,被告製品のクリアランスの開口方向が略水平ではなく垂直であるという構成要件B2及びB3に係る相違は,本件特許発明の本質的部分に係る相違というべきであるから,被告製品は,本件特許発明の均等物には当たらない。原告の上記主張は失当である。


3 結論

 原告は,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属する旨を縷々主張するが,いずれも理由がない。以上のとおり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。