●平成13(行ウ)285 特許権 行政訴訟 平成14年06月27日 東京地裁

 本日は、『平成13(行ウ)285 特許権 行政訴訟 平成14年06月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/3978894B43EF4D2449256C2A0017EA2E.pdf)について取上げます。


 本件も、昨日ご紹介した事案に内容が近い特許料の納付ミスに関する事案で、原告が原告所有の特許権につき特許庁がなした特許料納付書についての却下処分が無効であることの確認を求め、その請求が棄却された事案です。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 三村量一、裁判官 和久田道雄、裁判官 田中孝一)は、


『当裁判所は,本件処分は適法であって,原告主張のような違法はなく,したがって本件処分の無効をいう原告の主張は,その前提を欠くものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


1 法は,特許料の納付期限について,第1年から第3年までの各年分の特許料を納付して特許権の設定の登録が行われた後の第4年以後の各年分の特許料は,前年以前に納付しなければならないと定め(法108条2項本文),この納付期間内に特許料を納付することができないときは,その期間が経過した後であっても,その期間の経過後6月以内にその特許料を追納することができると定めている(法112条1項)。


 しかし,この6か月の追納期間内に,納付すべきであった特許料を納付しないときは,その特許権は,本来の納付期間の経過の時にさかのぼって消滅したものとみなされる(法112条4項)。しかるに,法112条の2第1項は,法112条4項の規定により消滅したものとみなされた特許権の原特許権者は,その責めに帰することができない理由により法112条1項の規定により特許料を追納することができる期間内に同条4項に規定する特許料等を納付することができなかったときは,その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては,2月)以内でその期間の経過後6月以内に限り,その特許料等を追納することができると定めている(法112条の2第1項)。


  そして,前記第2の1(前提となる事実)によれば,本件特許権の第4年分の特許料の納付期限は平成11年3月27日であり,その追納期限は同年9月27日であるところ,原告は,同追納期限までに第4年分の特許料を納付しておらず,原告が本件納付書を提出したのは,追納期限が経過した後である同年11月9日であったというのである。そうすると,原告が本件納付書を提出したのは,本件特許権の特許料の追納期限が経過した後であるから,法112条4項により,本件特許権は,平成11年3月27日の経過の時にさかのぼって消滅したものとみなされる。したがって,原告の本件納付書の提出による第4年分の特許料の納付が,法112条の2第1項の要件を充たす追納と認められない限り,原告が本件納付書の提出による特許料の納付によって本件特許権を回復することはできないこととなる。


2 本件処分は,原告に法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」があるとは認められないことを理由として,本件納付書を却下したものであるところ,原告は,法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」との文言の解釈は,ハーモナイゼーションを実現する方向でなされなければならないから,これを先進的に体現していると考えられる米国特許法及び欧州特許条約の規定を参考にして解釈しなければならないと主張し,また,法112条の2の場合は,法121条の場合と異なり第三者保護規定(法112条の3)を有するから,法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」は法121条2項の同文言より広く解釈すべきであると主張する。


  そこで検討するに,法112条の2第1項にいう「その責めに帰することができない理由」とは,これが本来の特許料の納付期間の経過後,さらに6か月間の追納期間が経過した後(法112条1項参照)の特許料納付という例外的な取扱いを許容するための要件であり,その文言の国語上の通常の意味に照らしても,これと同一の文言である法121条2項の「その責めに帰することができない理由」と同様,天災地変等のように,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってなお追納期間内に納付できなかった場合のことを意味するものと解するのが相当である。この点に関し,原告は,同文言は,米国特許法,欧州特許条約の規定などと同様に,故意でなかった場合や相当な注意を払った場合を指すものと解すべきである旨を主張するが,パリ条約5条の2第2項の規定に照らしても,特許権の回復についてどのような要件の下でこれを容認するかは各締結国の判断にゆだねられているものであって,米国特許法や欧州特許条約の規定とわが国の法の規定とを同一に解釈しなければならないというものではない。原告は,法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」は,法121条2項の「その責めに帰することができない理由」より広く解釈すべきであると主張し,その理由として,法112条の2の場合は第三者保護規定(法112条の3)が設けられており,影響を受ける第三者が広く生じることを前提としているのに対し,法121条の場合は,そのような規定は設けられていないと主張する。


 しかし,法112条の3は第三者に法定実施権を認めたものではないから,原告主張のように法112条の2を第三者に中用権を認めた規定ということはできない。


 また,法112条の2の場合は既に存続していた特許権が納付期間の経過により消滅し,これが特許登録原簿の記載により第三者に公示されることから第三者保護規定が必要であると考えられるのに対し,法121条の場合はいまだ設定登録がされず特許権が発生していない場合(法66条1項参照)であるから第三者保護規定が置かれていないと解することができるのであって,法121条の場合について法112条の3のような第三者保護規定が設けられていないことを理由に法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」を法121条2項の「その責めに帰することができない理由」よりも広く解すべきものということもできない。原告の主張は,採用できない。


3 原告は,本件特許権の管理を行う代理人において所定の時期までに第4年分の特許料を納付することができなかった理由として,(i)本件特許権は平成6年改正法の施行日(平成8年1月1日)より前に公告決定を受けたために同改正法の適用がなく,平成8年3月27日の出願公告日から存続期間が起算されるものであったこと,(ii)平成8年6月5日の特許異議申立てを受けてこれが棄却されて登録査定を受けたのが平成10年4月21日であり,平成8年3月27日から3年の期間(最初に納付した特許料によって本件特許権が有効である期間)が満了するまでに1年もなかったこと,(iii)この平成10年当時に特許庁から代理人弁理士事務所に送付される特許権の登録査定は,その99%以上が平成6年改正法に基づく登録査定であり,登録日から起算されるものであったこと,という事情があるから,本件においては法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」が認められると主張する。また原告は,仮に代理人弁理士に過失があったとしても,これを外国法人である原告の過失とみることはできないなどと主張する。


  しかし,特許料の納付を行う代理人弁理士は,その職務として平成6年改正法の内容について承知しているはずであるから,本件特許権の特許料の納付を行う原告の代理人弁理士としては,個々の特許権について,平成6年改正法が適用されるのかどうかについて考慮したうえで,特許料の納付につき万全の管理をする注意義務があるというべきであるところ,本件においては,原告主張のような上記(i)〜(iii)のような事情が存在したことを考慮しても,代理人弁理士において,通常の注意力を有する者が万全の注意を払ってもなお追納期限内に納付できなかった事情が存在するとは到底いうことができない。


 その他,原告の提出する全証拠を含め一件記録を精査しても,本件事情の下において原告に「その責めに帰することができない理由」があると認めることはできない(原告の代理人弁理士としては,平成10年5月の設定登録時に第4年分の特許料の納付期限を確認することも容易にできたはずであるのに漫然納付期間を徒過し,さらに6か月間の追納期間をも徒過したものであって,その過失は明らかといわざるを得ない。)。


  また,原告は,代理人弁理士の過失を本人の過失とみることはできないと主張するが,代理人は本人により選任され,本人の委託を受けて本人の名をもって特許料等の納付行為を行うのであるから,このような代理人が過失により追納期限を徒過した場合に本人がその責めを負うのは当然であって,たとえ本人に過失がなかったとしても法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」がある場合には該当しない。


4 以上のとおり,本件において,法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」があるということはできないから,本件処分は適法に行われたものというべきであって,何らの違法をも認めることができない。したがって,本件処分の違法性が重大顕著であることを理由として本件処分が無効であるとする原告の主張は,そもそもその前提を欠き,失当である。


  よって,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。