●平成12(行ケ)120 特許権「アルカリ蓄電池用ニッケル電極活物質」

 本日は、『平成12(行ケ)120 特許権 行政訴訟「アルカリ蓄電池用ニッケル電極活物質」平成14年02月07日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/1557540A0D76E12349256BD000399194.pdf


 本件は、特許取消決定取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法第36条4項の実施可能要件について争われており、この点で参考になる事案かと思います。


 つまり、東京高裁(第6民事部 裁判長裁判官 山下和明、裁判官 宍戸充、裁判官 阿部正幸)は、

1 取消事由1(発明の詳細な説明の記載要件についての一般的解釈の誤り)について


(1) 特許法1条の下では,我が国の特許制度は,産業政策上の見地から,自己の発明を公開して社会における産業の発達に寄与した者に対し,その公開の代償として,当該発明を一定期間独占的,排他的に実施する権利(特許権)を付与してこれを保護することにしつつ,同時に,そのことにより当該発明を公開した発明者と第三者との間の利害の調和を図ることにしているものと解するのが相当である。


 旧特許法36条4項が,「前項第3号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と定めているのも,発明の詳細な説明の記載要件という場面における,特許制度の上記趣旨の具体化であるということができる。


 そして,特許制度の上記趣旨の下で上記文言をみれば,ここに,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる」との要件は,物の発明,方法の発明のいずれにも求められるものであることは,明らかなことというべきである。


 出願された発明が物の発明であって,その物の目的,構成及び効果が開示されているとしても,その物を当業者が容易に製造することができない場合には,社会における産業の発達に寄与する程度に発明を公開したことにならないことは,いうまでもないところであるから,上記特許制度の趣旨に照らせば,このような場合に,代償としての独占権である特許権を要求するに公開がなされているとすることはできない。


 したがって,物の発明であっても,そこに開示されたその物の目的,構成及び効果の開示だけでは,当業者がその物を容易に製造することができないという場合には,その物を製造する方法まで開示していなければ,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度」に「その発明の目的,構成及び効果」が明細書に記載されているとはいえないのである。


(2) 原告は,本件発明は,物の発明であり,物を得るための方法の発明ではない,そして,その物は,現に得られており,特有の作用効果を呈しているものである,このようなとき,その物を得るための方法が明細書に記載されていないからといって,物の特許性を否定してしまうのは,物の発明について特許を得るために,その物を得るための方法まで開示しなければならないことにも通じ,発明保護の見地から著しく不合理である,と主張する。


 しかしながら,仮に,明細書に,従来技術の下で存在しなかった物が,現に得られており,特有の作用効果を呈していることが記載されているとしても,それは,その物に新規性がある,進歩性があるというにすぎない。特許法は,新規性,進歩性に関する29条1項,2項の規定のほか,上述したとおり,旧特許法36条4項によって,当業者にとって実施容易であることをも要件としているのである。原告の主張は,要するに,当業者が実施することができなくても,新規性,進歩性があるものには特許を認めよ,ということであり,特許法による発明保護の要件の理解を誤っているという以外にない。


 原告の主張は,採用できない。 』


 と判示されました。


 なお、特許庁は、この点に関し、

『1 取消事由1(発明の詳細な説明の記載要件についての一般的解釈の誤り)について


 特許出願は書面によらなければならず,出願に際しては,願書並びに明細書及び必要な図面の提出が必要である。そして,出願時に願書に添付された明細書には,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない(旧特許法36条4項)。したがって,先に出願した者に対して特許を付与するという先願主義の特許制度は,出願当初から,願書に添付された明細書に,当業者が容易に発明の実施ができるように,その発明の全体が記載されていることを前提としている。そして,当業者が容易に実施できるとは,特定の企業の特別な研究者だけでなく,当該技術分野に属する世間一般の通常の知識を有する者でも,明細書の記載に従って追試をすれば,その発明が容易に実施することが可能であることが求められるのである。したがって,物の発明であっても,当業者が明細書の記載に従って追試をすることができるように技術開示がなされていることが求められるのである。』

 と反論されています。


 詳細は、本判決文を参照してください。