●平成15(ネ)277実用新案権 民事訴訟「圧流体シリンダ」名古屋高裁

Nbenrishi2008-08-16

 本日も、『平成15(ネ)277 実用新案権 民事訴訟「圧流体シリンダ」平成17年04月27日 名古屋高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/330685562CD687494925710E00091047.pdf)について取上げます。


 本件では、104条の3導入の前の無効理由が存在することが明らかことによる権利濫用の抗弁や、損害についての判断も参考になります。


 つまり、名古屋高裁(民事第3部 裁判長裁判官 青山邦夫、裁判官 田邊浩典、裁判官 手嶋 あさみ)は、


『 (6)争点(2)「本件考案は,新規性(公知の擬制に係るものを含む。)ないし進歩性を欠くことから明らかに無効である(法3条1項,2項,3条の2)として,本件権利に基づく請求は権利濫用に当たるか」及び同(3)「本件考案は,平成10年法律第51号改正前の法5条4項,37条1項3号に違反し,無効か」について


 実用新案権に無効理由が存在することが明らかであるときは,その権利に基づく損害賠償等の請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当たり,許されないものとされているが,本件では,前記「第2 事案の概要」3(4)カないしク記載のとおり,無効審判について請求が成り立たない旨の審決がなされ,これが確定した。証拠(甲66,77)に前記前提事実及び弁論の全趣旨を併せ鑑みれば,本件において,本件考案の無効原因として主張されている事実及び証拠は同一であるものと認められる。


 したがって,本件において,控訴人の主張するような無効理由が存在することが明らかとは言えないし,実用新案権登録無効の審判の確定審決の登録があったときは,何人も,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することはできない(法41条,特許法167条)のであって,上記と異なる判断がされる可能性もない以上,その余の点について判断するまでもなく,これらの争点に係る控訴人の主張は理由がない。

(7) 争点(4)「損害」について

ア イ号物件の販売代金総額

  証拠(甲39)によれば,イ号物件の1本当たりの定価は,本体の平均価格が8万6870円,ストローク調整ユニットのそれが1万1823円,オートスイッチのそれが6340円とされており,その合計額は10万5033円であることが認められる。


 しかしながら,一般に,実際の販売価格が定価を下回る状況はまれではなく,特にイ号物件は一般産業用機械であり,大半が特約店や代理店等を介して取引されているものと推測できるから,定価を相当程度下回る価格で販売しているものと考えられる。証拠(乙47)によれば,その平均販売単価は5万8477円であり,合計販売代金総額が18億2043万6000円であると記載され,この金額を上回る金額で販売されたことを裏付ける証拠は見当たらないことからすると,定価は名目上のものにすぎず,上記金額をもって控訴人の販売代金総額であると認めるのが相当である。


 この点,被控訴人は,控訴人は販売代理店方式を採用して自社製品を市場に流通させているところ,そのような流通方式を採る製造会社としては,仮に販売代理店等への販売価格が定価を下回っていたとしても,販売代理店の販売についても一定の管理を行い,利益を得ている以上,最終販売価格を基礎として実施料相当額を算定すべきである旨主張する。


 しかしながら,本件全証拠に照らしても,控訴人の採用する販売方式ないし販売代理店等との関係,利益分配率等についての実態を認めるに足りる証拠は見当たらないから,被控訴人の主張は採用の限りでない。


 また,控訴人は,上記ストローク調整ユニット等の本体以外の価格は控除されるべきである旨主張するが,その点については,下記イ(寄与率)において考慮することとする。


イ 寄与率

 前記のとおり,イ号物件は,ストローク調整ユニット(定価の平均価格が1万1823円)及びオートスイッチ(同6340円)と組み合わされて販売されているところ,ストローク調整ユニットやオートスイッチは,ロッドレスシリンダ本体に付属する部品にすぎず,その機能や購入の動機づけにおいては,これに完全に依存した部品と考えられることなどを考慮すると,本件考案のイ号物件に占める寄与率は,90パーセントをもって相当と判断する。


ウ 実施料率

  一般に,実施料率の算定に当たっては,権利者の実施状況,実施契約の状況,侵害された権利が基本的技術か又は改良的技術か,従前技術との距離,イ号物件において果たしている重要性,商業的実施における困難性,実施に際し更に投資を要するものであったか否か,当該権利の技術内容と程度,控訴人の規模,控訴人製品の単価数量等,当該事案における諸般の事情に加え,平成10年法律第51号による改正によって,現行の実用新案法29条3項の規定が新設された趣旨を総合的に考慮して,相当な割合を算定すべきである。


 これを本件についてみるに,前記のとおり,本件権利は,ロッドレスシリンダの分野においては,小型化しつつ正確な直線運動を確保し得る,有用性の高い考案を対象とするものであること,他方,製造については,特段複雑な工程を要するものではなく,利益率は高いと考えられること,控訴人は,空圧機器で世界シェア2割,国内シェア5割を占める大手の会社であり,被控訴人と比較して規模に格段の相違があること(甲40),控訴人において相当数の販売実績を有し,その販売数量が増加傾向にあること(乙47),それが,控訴人の上記シェアの拡大,維持に貢献していると考えられることが認められる。


 一方,本件考案は,基本的に改良発明型の考案であり,先に認定したとおり,本件考案については,数次にわたる無効審決や訂正審決等が繰り返されてきたことからもうかがわれるように,当初出願の時点においては,必ずしもその技術的範囲に明らかでない部分があったこと,その意味で控訴人の実施態様ばかりを責めることはできないこと,イ号物件は,控訴人の技術と努力によって本件考案に更に改良を加えたものであることがうかがわれること等の事情が存在する。


 そして,被控訴人は,本件権利を同業他社に販売金額の12パーセントの実施料で実施することを許諾し,その実施料の支払を受けていたことが認められるものの,実施契約はこの1件のみで,販売数量も少ない上,本件実用新案権以外に意匠権等も併せてその使用を認める契約であること(甲41)が認められるから,同実施料率をただちに採用することはできないといわざるを得ない。


 その他本件に顕れた上記の諸般の事情を総合考慮すれば,本件において相当な実施料率は,10パーセントと判断するのが相当である。


 この点について,控訴人は,発明協会発行の「実施料率」における当該分野の最頻値や平均値を採用すべきである等と主張するが,上記のとおり,各事案における実施料率は,具体的な事情に基づいて個別的に判断されるべきものであり,いわゆる業界相場はその一要素として検討され得るにすぎないから,上記判断を覆すには足りず,控訴人の上記主張は,採用できない。


エ よって,アの金額にイ及びウの各割合を乗じて算出した実施料相当損害金は,1億6383万9240円となる。


オ 弁護士費用


 被控訴人が,本訴の提起・追行を訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであり,これに本件事案の性質・内容・複雑さ等本件訴訟の経過及び認容額並びに本件実用新案権の存続期間内であれば差止請求が認容されるべきであったこと,その他本件に顕れた一切の事情を参酌すると,被告による侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては,1000万円をもって相当と認める。


 (8) 以上の次第で,被控訴人の本訴請求は,損害金1億7383万9240円並びにうち4560万円に対する履行期後であることの明らかな平成8年8月28日から,うち1億2823万9240円に対する同様の平成14年7月2日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。


2 よって,原判決は相当であり,控訴人の控訴及び被控訴人の附帯控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。