●平成15(ネ)277実用新案権 民事訴訟「圧流体シリンダ」名古屋高裁

Nbenrishi2008-08-14

お盆のせいかは分かりませんが、隣の写真のように姫睡蓮が同時に3つも咲きました。


 さて、本日は、『平成15(ネ)277 実用新案権 民事訴訟「圧流体シリンダ」平成17年04月27日 名古屋高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/330685562CD687494925710E00091047.pdf)について取上げます。


 本件は、実用新案権を有する被控訴人が,控訴人に対し,控訴人の製造販売したイ号物件は上記被控訴人の本件権利を侵害すると主張して損害賠償金等の支払を請求し、その請求が認められた原審を不服として控訴人が控訴し、その控訴が棄却された事案です。


 原審では,(1)イ号物件は,本件考案の各構成要件を充足するものと認められる(均等と認められるものを含む。),(2)本件考案の技術的思想は,控訴人の主張する各公知技術において開示ないし示唆されているものとは認められず,新規性ないし進歩性の欠如を理由として明らかに無効であるとの主張は理由がない,(3)控訴人の主張する事項は,考案の構成に欠くことのできない事項に当たるとは認められないなどとして,被控訴人の請求のうち実施料相当額の限度で請求を認容しました。


 そして,控訴人は,(1)イ号物件は,本件考案の技術的範囲に属しない,(2)本件考案は,新規性ないし進歩性を欠き,明らかに無効(実用新案法(以下「法」という。)3条1項,2項,3条の2)であるから,本件権利に基づく請求は権利濫用に当たる,(3)本件考案は,本件権利の登録請求の範囲において,同考案に必要不可欠な構成要件の開示がされておらず,平成10年法律第51号改正前の法5条4項,37条1項3号に違反して無効であるなどと主張して争いました。


 本件では、まず、登録実用考案の技術的範囲の解釈が参考になります。


 つまり、名古屋高裁(民事第3部 裁判長裁判官 青山邦夫、裁判官 田邊浩典、裁判官 手嶋 あさみ)は、


『1 当裁判所も,被控訴人の請求のうち,1億7383万9240円及び内4560万円に対する平成8年8月28日から,内1億2823万9240円に対する平成14年7月2日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却すべきであると判断するが,その理由は,以下のとおりである。


  (1) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((ア)イ号物件の「摺動子50」が摺動する部分は,構成要件Bの「バレルの・・側壁の一方のみに・・案内レールを・・突設し」の充足を否定するか。)について


 ア 法26条,特許法70条1項は,「特許発明(考案)の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求(実用新案登録請求)の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」とし,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求(実用新案登録請求)の範囲の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求(実用新案登録請求)の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定する。


 これらの規定の趣旨からすると,実用新案権請求の範囲に記載された文言の意味内容を解釈するには,その言葉の一般的な意味内容を基礎としつつも,詳細な説明に記載された発明の目的,技術的課題,その課題解決のための技術的思想又は解決手段及び作用効果並びに図面をも参酌して,その文言により表現された技術的意義を考察した上で,客観的,合理的に行うべきである。


 ただし,実用新案請求の範囲は,実用新案権の及ぶ範囲を画し,第三者に対してこれを明示する作用を有するものであるから,上記のように周辺事情を斟酌する場合も,請求の範囲に記載された文言の通常の意味以上に考案の技術的範囲を拡大するような解釈をしてはならないことはいうまでもない。


 イ ところで,本件考案は,前記のとおり,ピストンロッドを有しないいわゆるロッドレスシリンダについての考案であるところ,本件考案の明細書(甲1,37,59)によれば,(ア)同シリンダは,構造上,ドライバーに軸芯と直角方向の加重が作用すると,加重方向(明細書添付の第2図面においては,右又は左)に倒れ,スリットの側壁及び2本のバンドに摺接しながら移動することによって摺動抵抗が増大し,正確な直線移動が行い得なくなる欠点があり,また,シリンダへの圧流体の供給によって,バレルが押し広げられてスリットが広くなる傾向があるため,これによって上記の欠点がさらに助長される欠点を有していたこと,(イ)従来技術は,これを是正しようとするものであったところ,このうちの1つは,ドライバーが傾倒する欠点は防止することができたものの,正確な直線移動を行うためのガイドロッドや左右のガイドレールの機構をシリンダと別個に設けなければならなかったため,装置の大型化の欠点を有し,他の1つは,圧流体の供給に起因するスリットの広がりによって,ガイドレールのゲージがともに広がることによる摺動抵抗の増大という欠点を有していたたこと,(ウ)本件考案は,上記のような欠点を有する従前技術を改良するため,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し,そのベース上に棒状の案内レール(スリット幅方向の両外側にピストンの軸心と平行な案内面をそれぞれ備えたもの)を一体に突設し,この案内レールによって片持ち状態でドライバーを案内する構成を採っていること,(エ)このような構成を採ることにより,前記「第2 事案の概要」3(2)オ記載のとおりの作用効果(主として,(i)ドライバーにピストンの軸心と直角方向の負荷が作用してもドライバーが傾倒することなく直線運動を行うことができること,(ii)圧流体の供給によりバレルがふくれても支障なくドライバーを案内することができ,最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となること,(iii)装置の小型化)が得られるようにしたものであることが認められ,技術常識を考え合わせれば,本件構成要件B及びCの技術的意義は,上記の作用効果(前記「第2 事案の概要」3(4)カ記載の特許庁の審決(甲66)によれば,「側壁がスリット幅方向へ傾倒する場合でも,案内レールの移動や両案内面間の距離変動を防止でき,側壁の下方部に突設したベース上の案内レールの案内面により正確に直線案内できるという効果も生じるものと考えられる。」)をもたらす点にあると考えられる。


 上記のような本件考案の課題及び効果,ロッドレスシリンダの分野においては,「案内」がドライバーを正確に(精密に)導くことを意味すると解されること(乙2,3,5の1等)からすると,構成要件B,Cの「案内レール」は,構成要件Cで示されるとおり,スリットの幅方向の両外側に(すなわち,互いにその背面が向き合って),前記軸芯と平行な(すなわち,上記変位の移動方向と直交する)2つの案内面を備えることを要し,しかも,シリンダの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用しても,ドライバーを傾倒することなく正確に案内し(導き),保持する機能を果たすためのレール状のものを意味すると解され,そのような機能を有するものが,「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみ」に設けられていることを要するというべきである。


 ウ この点について,控訴人は,イ号物件の摺動子50が摺動する部分は構成要件Bの「案内レール」に相当する機能を有し,他方の案内レールとともに両持ちで負荷を担持し案内している旨主張し,上記構成要件Bを充足しないとする。


   そこで検討すると,摺動子50は,原判決別紙イ号物件目録記載のとおり,その中央部で一体になっている係合部52(118)と摺動部55とで形成されており,係合部52と摺動部55(122)との間には対向する1組のスリット58が形成され,係合部52と摺動部55の両端部が上下,左右に撓むようになっていること,そして,係合部52は,側方に張り出す係止片53を備え,係止片53がバレル1Aの上面に載置され,一方の側面がバレル1Aの溝60の一方の内側面に対面すること,他方,摺動部55は,両端部の外側の側面が張り出すように幅広く形成されるとともに両端部が高くなるように上側へ折り曲げ形成され,中央部がバレル1Aの上面に載置され,両端部の上面が凹部48の天井面に対面し,両端部の張り出し側面が凹部48の一方の側面に対面すること,以上の構造を有していることが明らかであり,その係止片53及び摺動部55がバレル1Aの上面及びバレル1Aの溝60に沿って摺動することが看取できる。


   しかしながら,証拠(乙28の1ないし15,甲29)及び弁論の全趣旨(控訴人の平成12年9月1日付け準備書面(原審)の第一の三参照)によれば,摺動部55は,連結板14の下面に対面してはいるが,連結板14に対して無負荷ないし軽負荷の場合,摺動部55と連結板14との間若しくは摺動部55とバレル1Aの上面との間に,肉眼によってもその存在が容易に判別し得る程度の間隙が存在する。


 ただし,原判決別紙イ号物件目録の第7図及び乙43によれば,摺動部55の厚さは均一であるものの,その両端が上方に向かってゆるやかに湾曲しているものと認められるため,切断面の位置によって上記間隙が生ずる位置は異なるものと推認されるが,いずれにせよ各切断面において合計値としては同一の間隙が存在するものと考えられる。


 連結板14に対して13キログラム(イ号物件における最大荷重とされる27.5キログラムの約半分)の負荷を掛けた場合,両者の間隙が消失し,摺動部55は連結板14の下面とバレル1Aの上面に接すること,摺動子50(摺動部及び係合部)は,樹脂製であって,素材自体,撓みを許す性質のものである上,形状的にも,摺動部55と係合部52とは中央部で一体となってはいるものの,両端部にはスリットが形成され,撓みを許す構造になっていること,以上の事実が認められる。


 これによれば,摺動部55は,連結板14に掛かる負荷が増加した場合等に連結板14を支持する機能を有することは否定できないものの,それ以外の場面においては,その弾性に由来する一定の反力が作用して,ドライバーの安定を保つことにある程度貢献するとしても,その効果は「案内レール」の効果に比して極めて限定的なものであり,未だ前示のような「案内レール」に相応する作用効果(シリンダの作動中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーを傾倒することなく案内保持する機能)を有すべきものとは認められず,専ら他方の案内レールによって本件考案における構成要件B及びCの有する技術的意義が実現されているというべきである。


 上記の点に関し,控訴人は,証拠(乙24,25,31,63)を援用して反論する。乙24,25には,イ号物件(メカジョイント式ロッドレスシリンダMY1H25)を横向きに取り付け,摺動子50を取り外して連結板に軸芯と直交する方向の負荷を加えた場合に,負荷の大きさ(1キログラムから6キログラム)に比例して連結板の変位量が増大するのに対し,摺動子50を取り付けて同様の負荷を加えた場合には,比例的に生ずる摺動子の反力によって変位することはない旨の記載があり,乙31,63には,上記イ号物件に摺動子がある場合,負荷荷重の大きさに比例して増大する連結板の変位量が,摺動子がない場合のそれと比較して小さい旨の記載がある。


 しかしながら,乙24,25については,前記のとおり,摺動部と連結板との間若しくは摺動部とバレルの上面との間には,肉眼によっても判別し得る程度の間隙があるところからすると,少なくともその間隙が消失するまでは,負荷に比例して変位が生ずるはずであり(控訴人提出の乙31も変位が生ずることを示している。),更に負荷が大きなものになると,樹脂製の摺動子自体の変形も予想されるから,乙24,25は前記判断を覆すものとはいえない。また,乙31,63については,摺動子が取り付けられている場合とそうでない場合で,横荷重についてある程度変位の生じ方に差があることが看守されるものの,乙63については,当該横荷重の大きさは同証拠自体からは明らかでない上,いずれも限定的な範囲にとどまるものであって,これらの数値をもって,上記のような「案内レール」に相当する機能を果たすものと認めるには足りないといわざるを得ない。


   エ したがって,イ号物件は,案内レールと摺動子の両持ち状態でドライバーが案内される構成であるとする控訴人の主張は採用できず,専ら案内レールによって片持ちで案内されているものというべきであるから,構成要件Bを充足することになる。


(2) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((イ)イ号物件の案内レールは,構成要件Bの「棒状の案内レール」,構成要件Cの「その案内レール」に当たるか)について


 原判決「第3 当裁判所の判断」の3に記載のとおりであるから,これを引用する。


(3) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((ウ)構成要件Bの「その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部」に一体となって突設される「ベース」を充足するか。)について


 原判決「第3 当裁判所の判断」の4に記載のとおりであるから,これを引用する。


(4) 争点(1)イ「構成要件Dの充足の有無」(構成要件Dの「案内子をドライバーに設け」を充足するか。)について


 原判決「第3 当裁判所の判断」の5に記載のとおりであるから,これを引用する。』

 と判示されました。


 明日に続きます。