●平成12(ワ)4709特許権侵害差止等請求 特許権「海苔異物除去装置」

やっと今日から夏休みになりました。なんとか夏休み前にある審判事件でOKを頂き、心置きなく夏休みに入れそうです。なお、隣の写真は、家で咲いたアサザという水生植物の花です。


 さて、本日は、『平成12(ワ)4709 特許権侵害差止等請求 特許権 民事訴訟「海苔異物除去装置」平成14年08月30日 名古屋地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C1EBE86BC62BB33549256C64000DFB52.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害差止等の請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許発明の技術的範囲の解釈、特に、特許請求の範囲に記載された文言「分離壁」の意味内容の解釈の仕方が参考になるかと思います。


 つまり、名古屋地裁(民事第9部 裁判長裁判官 加藤幸雄、裁判官 舟橋恭子、裁判官 富岡貴美)は、


1 争点(1)(構成要件の充足性)について

(1) 本件各特許発明の各【特許請求の範囲】においては,いずれも「分離壁」をその構成要素としているところ,被告は,イ号,ロ号物件が本件各特許発明における分離壁を備えていないとして,構成要件B,C,G,H,I,L,C′,E′,C″,D″,E″の充足性を争うので,まず,この点から検討する。


(2) 原告らは,イ号,ロ号物件においては,底部4,環状枠板部5及び回転盤7によって,選別室2と中間室3を仕切る分離壁を構成していると主張する。


 ところで,特許法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は,願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」とし,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添附した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定する。


 これらの規定の趣旨に照らせば,特許請求の範囲に記載された文言の意味内容を解釈するに当たっては,当該文言の一般的な意味内容を基礎としつつも,当該特許発明の性質並びに明細書の発明の詳細な説明に記載された特許発明の目的,その目的達成の手段として採られた技術的構成やその作用効果の記載及び図面を参酌して,その文言により表現された技術的意義を考察した上で,客観的合理的に解釈確定すべきである。


 これを本件各特許発明についてみると,本件各明細書の【特許請求の範囲】には,「分離壁」について,「その第1分離室に対して分離壁によって仕切られている第2分離室を設け」,「第2分離室を第1分離室に対して分離壁によって仕切られた閉鎖状態に設け」(以上,本件明細書X),「隙間より大きい異物を隙間に掛止して分離壁の一方側に残し」(本件明細書Y),「その流路の途中に海苔混合液の流れを横切る分離壁を設け」(本件明細書Z)との記載があるのみで,これ以上にその意義を確定するための具体的な記載がないことから,「分離壁」をその字義どおり,単に「(生海苔から異物を)分離するための仕切壁」と解釈し,このような解釈に沿って構成要件の充足性を考える場合には,イ号,ロ号物件における底部4,環状枠板部5及び回転盤7から成る「壁」も「分離壁」に該当すると考えられなくもない。


 しかしながら,本件各特許発明は,いずれも一種のろ過機能を利用した生海苔の異物除去に係る発明であるところ,本件各明細書の各実施例を見ると,そこに記載された分離壁はいずれも周知慣用のろ過体にすぎない。


 すなわち,本件明細書X,同Yにおける図1ないし5及び7(第1,第2実施例),本件明細書Zの図1,2,4及び7(第1,第2及び第5実施例)で説明されている実施例は,いずれも円筒周面に多数の孔(隙間)が形成されたものであるところ,これらはろ過装置としては,極めて通常のものであり,本件各特許権の出願時において,既に公知のものである(網や側壁に多数の小孔を設けることにより分離を行うものとして,乙37,39の3)。


 また,本件明細書X,同Yにおける図8(第3実施例),本件明細書Zの図5(第3実施例)に説明されるコイルスプリングを用いたものも,同様に公知というべきである(リング状に形成したウエッジワイヤーを所定間隔に多数並列させることにより分離を行うものとして乙35)。さらに,本件明細書Zの図6(第4実施例)に説明される多数の分離棒を用いたもの,本件明細書Zの図8(第6実施例)に説明される多数の分離隙間を形成した無端帯状のもの,本件明細書Zの図9(第7実施例)に説明される水平テーブル型のものは,いずれも前記の円筒状の分離壁に設計上の変更を加えたにすぎないものである。


 このように,本件各明細書の実施例に記載された分離壁には,孔ないし隙間が壁の面に広く分布形成されており,ろ過装置としては通常のものである。そうすると,本件各明細書において実施例として説明される本件各特許発明の分離壁は,複数の部材から構成されていたり,あるいはそれ自体が全体として回転あるいは移動することはあっても,ろ過装置として通常用いられるのものにすぎない。


 これに対して,イ号,ロ号物件において,原告が分離壁の構成要素として主張する回転盤7は,その周囲に固定された環状枠板部5(及び底部4)に対して相対移動するものであり,その結果,原告が「孔」に当たると主張するクリアランスを形成する周りの辺(枠)が常に高速移動することにより生海苔等の詰まりを防止する機能を有し,かつ遠心力を発生させて異物をはね飛ばすことを目的の一つとしてタンクの底部で高速回転するものであって,これらの機能は通常のろ過装置とは明らかに異なっている。


 また,その構成について見ても,回転盤7はタンクの底部の大部分を占めていて,それ自体には孔ないし隙間は形成されておらず,回転盤7と環状枠板部5との間に円周状のクリアランスが形成されているにすぎない。


 以上のことからすると,当業者が本件各明細書を見た場合,本件各特許発明における「分離壁」は,1つの壁を形成する部分が複数に分割されて相対移動するようなものではなく,通常のろ過体としてのスクリーン状の「壁」であると解するのが相当であり,イ号,ロ号物件のような環状枠板部5と回転盤7を組み合せたものとは根本的に技術思想が異なるというべきであるから,これを本件各特許発明における「分離壁」として認識することはおよそ困難である。


 したがって,イ号,ロ号物件における底部4,環状枠板部5及び回転盤7によって形成される「壁」が「分離壁」に該当するとはいえない。


 よって,イ号,ロ号物件及びイ号,ロ号物件に係る生海苔の異物除去方法は,構成要件B,C,G,H,I,L,C′,E′,C″,D″,E″を充足しないと判断するのが相当である。


2 以上の次第で,原告らの本訴各請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。