●平成19(ネ)10082著作権侵害差止請求控訴事件「格安DVD販売差止め」

 本当に毎日暑いですね!今日は、ひさしぶりに昔の受験生仲間と飲んできました。北京オリンピックも始まったし、しばらく眠れない日が続きそうです。 


 さて、本日も、『平成19(ネ)10082 著作権侵害差止請求控訴事件 著作権 民事訴訟「黒沢映画格安DVD販売差止め」平成20年07月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080731144549.pdf)について取上げます。


 本件では、次に、「2.本件映画の著作者について」と、「3 本件映画の著作権者について」の判断が参考になります。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 榎戸道也、裁判官 浅井憲)は、


2 本件映画の著作者について

(1) 旧著作権法における著作者の意義

ア 新著作権法は,著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(2条1項1号)と定義するが,旧著作権法は,「文書演述図画建築彫刻模型写真演奏歌唱其ノ他文芸学術若ハ美術(音楽ヲ含ム以下之ニ同ジ)ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者ハ其ノ著作物ヲ複製スルノ権利ヲ専有ス」(1条1項)と規定するものの,著作物とは何かを示す定義規定を設けていない。


 しかしながら,旧著作権法下においても,著作物とは,「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現たることを要す」(大審院昭和12年11月20日判決・法律新聞4204号3頁参照),「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白であって,客観的存在を有し,しかも文芸,学術,美術の範囲に属するもの」(東京地裁昭和40年8月31日・下民集16巻8号1377頁参照)などと解されており,これらは,実質的に見れば,新著作権法における著作物の定義と同義であり,また,新著作権法の立法過程において,旧著作権法に比し著作物の意義が変更されたことを窺わせるに足りる事情もないことからすれば,旧著作権法の保護対象とされる著作物は,新著作権法のそれと同義であると解するのが相当である。そして,著作者が著作物を創作する者であることは,新・旧著作権法において変わりがないものと解され,前記の裁判例にみられるように,「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現」,「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白」という事実行為としての創作行為を行うことができるのは自然人であることからすれば,旧著作権法において著作者となり得るのは原則として自然人であると解すべきである。


イ もっとも,新著作権法は,法人等における著作物の創作の実態等から,一定の要件の下に法人等の被用者が職務上作成する著作物についてその著作者を当該法人等とする職務著作の規定(15条)を設け,前記原則の例外を規定している。


 すなわち,法人等において被用者が職務上作成する著作物には多種多様なものが含まれ,様々な創作態様のものがあるところ,被用者が雇用契約等に基づく指揮監督の下に作成する著作物には,作成に関与した個々の被用者の個性の表出が乏しいうえ,その中には創作行為に関与した者の特定が必ずしも容易ではなく,また,仮にその特定ができた場合であっても複数の作成関与者の創作行為の範囲や寄与の程度等を明らかにすることが困難なものが多数あり得ること,そのため,それが法人等の名義で公表されることが予定される場合には,公表により法人等が当該著作物に対する社会的な責任を負うと同時にこれに対する社会的な評価をも受けることとなるため,個々の作成関与者については当該著作物に関する人格的利益の保護を考慮することを要しないものと考えられること,法人等の経済的な負担において作成されたそれらの著作物を当該法人等が利用するに当たり,当該著作物の権利関係を集中し,明確にしなければ,その円滑な利用に支障を来す場合が少なくないものと考えられること,それゆえそのような著作物については,法人等と作成に関与した被用者との間において,当該著作物の著作権を法人等に原始的に帰属させるとするのが当事者の意思に沿うものと推測されること等の法人等における著作物の創作の実態や当該著作物の利用の便宜の必要性等を考慮し,新著作権法は,一定の要件の下に法人等が著作者となることを認めている。


 新著作権法15条は,同法の施行前に創作された著作物には適用されない(新著作権法附則4条)が,旧著作権法6条は,「官公衙学校社寺協会会社其ノ他ノ団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発表又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」と規定するところ,同条は,後記のとおり団体著作物の保護期間を定めた規定であると解されるが,更に法人等の団体が著作者となり得ることを前提とした規定であると解する余地もないわけではなく,新著作権法における職務著作の規定の実質的な根拠とされた上記の法人等における著作物の創作実態及び利用上の便宜の必要性等の事情は,旧著作権法の下においても程度の差こそあれ存在していたものと推認することができることからすれば,旧著作権法においても,新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を備える場合には法人等が著作者となり得る場合があるものと解するのが相当である(東京高裁昭和57年4月22日判決・無体裁集14巻1号193頁参照)。


(2) 旧著作権法における映画の著作物の著作者

 本件映画のような劇場用映画は,概ね,映画製作会社の委託を受け,企画,予算,製作スタッフの選定,俳優の配役,興業等の全般について統括するプロデューサー,シナリオライター,監督,カメラマン,照明技師,録音技師,編集技師,出演俳優,音楽家,美術家など多くの者の協同作業により製作されるものと認められ(乙第20,21号証,弁論の全趣旨),映画の著作物の創作行為については多数の者が関与していることから,新著作権法は,著作者となるべき者を明確にするため,16条において「映画の著作物の著作者は,その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定したが,同条は新著作権法の施行前に創作された著作物には適用されず(新著作権法附則4条),また,旧著作権法は,その22条の3前段において映画の著作物について,「活動写真術又ハ之ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物ノ著作者ハ文芸,学術又ハ美術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者トシテ本法ノ保護ヲ享有ス」と規定するのみで,映画の著作物の著作者を定めた規定は存在しない。


 しかしながら,前記(1)で説示したとおり,著作者となり得る者は原則として自然人であり,これを前提として上記の劇場用映画の製作実態を踏まえて旧著作権法の下における映画の著作物の著作者となるべき者を検討するならば,少なくとも制作,監督,演出,撮影,美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者は,当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当であり,新著作権法附則4条の規定もこのような解釈を妨げる趣旨のものではないというべきである。


(3) 本件映画の著作者

 そして,黒澤監督は本件映画の監督を務め,脚本の作成にも参加するなどしており,本件映画は黒澤監督の一貫したイメージに沿って製作されたものであると認められる(甲第1,2号証,第11号証,乙第22〜24号証)から,黒澤監督は本件映画の全体的形成に創作的に寄与した者であり,著作者の一人であると認められる。


(4) 当審における控訴人の主張に対する判断


 控訴人は,映画製作の実態及び新著作権法の立法過程からすれば,旧著作権法の下においては,映画は映画会社などの映画製作者の単独著作物であると解釈すべきであると主張するが,以下の理由から,控訴人の主張を採用することはできない。


ア 前記(1)で説示したとおり,映画の著作物の著作者は,原則として,事実行為としての映画の創作を行う者と解すべきであり,映画製作の実態を見ても,そのような創作行為を現実に行う者は,監督,演出,出演,撮影,美術等を担当する自然人であって,映画会社等の映画製作者ではないから,新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を備える場合でない限り,映画製作の実態から映画が映画製作者の単独著作物であると解釈すべき理由はない。


 そして,本件映画は旧大映が製作したものであるところ,黒澤監督又はそれ以外の者で本件映画の全体的形成に創作的に寄与した者が旧大映の被用者として,その職務上本件映画を作成したことなど旧大映が本件映画の著作者となるための新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を具備するとの点については,控訴人の主張立証がない。
 したがって,映画製作の実態からみて,本件映画を映画製作者である旧大映の単独著作物であると認めることはできない。


イまた,証拠(甲第25号証,乙第1号証)及び弁論の全趣旨によれば,新著作権法の立法過程における映画の著作物に関する審議状況等について,次の事実が認められる。


(ア) 昭和37年に文部大臣の諮問機関として設置された著作権制度審議会の第4小委員会が昭和40年5月21日に提出した審議結果報告には,映画の著作物の著作者の確定について,(i)シナリオの著作者,音楽の著作者,監督等の映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるという考え方と,(ii)映画製作者の単独の著作物であるという考え方の2つの考え方が併記されていた。
しかし,その後,検討を重ねた結果,昭和41年3月9日の第4小委員会再審議結果報告では,2つの考え方を併記した上記結論を改め,(i)の考え方を採用し,(ii)の考え方は少数意見として付記するにとどめられた。ただし,シナリオと音楽の著作者については,映画の著作者から除外して原作者として扱うことにし,また,映画の著作者の範囲を具体的に特定することをやめて,「映画の全体的形成に創作的に関与した者」とし,だれが著作者になるかは個々の映画ごとの判断に委ねることとした。


(イ) 著作権制度審議会は,第4小委員会の上記再審議結果報告やこれに対して映画製作会社や映画監督等の関係団体から提出された意見,専門委員会審議結果報告などを総合的に検討して,昭和41年4月20日文部大臣に対し,「映画の著作者は,『映画の全体的形成に創作的に関与した者』とする。著作者には,監督,プロデューサー,カメラマン,美術監督などが該当し,俳優も映画の全体的形成に創作的に関与したと認められるものである限り,映画の著作者たり得ると考えるが,著作者を法文上例示することはしないものとする。」旨答申した。


 上記答申を受けて著作権法案が作成され,第63回国会に提出されて,昭和45年4月28日,新著作権法が成立した。


ウ 前記イに認定した新著作権法の立法過程に関する事実及び映画の著作物の著作者を法定する新著作権法16条の規定に照らすならば,新著作権法の立法過程を考慮しても,映画が映画製作者の単独著作物であると解することはできない。

エ 以上に検討したところによれば,控訴人の前記主張を採用することはできない。


3 本件映画の著作権者について

(1) 旧大映著作権取得

 前記2で説示したとおり,黒澤監督は本件映画の著作者である(少なくともその一人である)ところ,証拠(甲第1,2号証,第18,19号証)及び弁論の全趣旨によれば,本件映画1は昭和24年に,本件映画2は昭和25年にそれぞれ製作され,興行されたものであること,旧大映は,本件映画が興行されたころまでには黒澤監督から本件映画についての著作権の譲渡を受けていたことが認められ,これに反する証拠はない。


 なお,本件証拠上は明らかではないものの,仮に黒澤監督以外に本件映画の全体的形成に創作的に寄与した著作者がいたとすれば,それらの者も本件映画の著作権を原始取得したものといえるが,本件映画は,当初から映画製作者である旧大映が自己の商品として公表することを前提に製作されたものであること(前提事実(2)ア,弁論の全趣旨),旧大映が本件映画を興行し,その後,後記のとおり,旧大映から本件映画の著作権を取得した新大映が本件映画を複製したDVD商品を販売してきたが,これに対して本件映画の製作に関与した者から著作者であると主張して異議が述べられた形跡は認められないこと(弁論の全趣旨)からすると,他に著作者がいたとしても,それらの者も映画製作者である旧大映に対し,本件映画が興行されたころまでには,明示的ないし黙示的に本件映画の著作権を譲渡していたものと十分推認することができる。


 したがって,旧大映は本件映画の著作権を単独で有していたものである。


(2) 被控訴人の著作権取得

 証拠(甲第12号証ないし第15号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,これに反する証拠はない。

ア旧大映は,昭和46年12月に破産宣告を受けた。


イ 旧大映破産管財人は,昭和51年3月31日,新大映及びその代表者であるAとの間で,本件映画を含む映画の著作権を新大映及びAに譲渡する旨合意した。


ウ 旧大映破産管財人,新大映,A及び組合は,昭和53年1月30日,本件映画を含む映画の著作権を新大映と組合の共同所有とすることを合意した。
エ上記ウの合意を受けて,Aは,昭和53年2月14日,組合に対し,上記著作権譲渡契約における譲受人たる地位を譲渡し,旧大映破産管財人及び新大映はこれを承諾した。


 また,新大映は,同月15日,組合に対し,新大映の有する本件映画を含む映画の著作権のうち持分2分の1を代物弁済として譲渡した。


オ その後,新大映と組合との間に,旧大映著作権を有していた本件映画を含む映画の著作権の帰属等を巡る紛争が生じ,両者を当事者とする訴訟が東京地方裁判所に提起され(東京地方裁判所平成11年(ワ)第17181号本訴事件,同平成12年(ワ)第3921号反訴事件),同裁判所は,平成13年3月28日,新大映と組合が本件映画を含む映画の著作権につき持分2分の1ずつを有すると判断し,新大映と組合と間において,組合が本件映画を含む映画の著作権につき持分2分の1を有することを確認する旨の判決を言い渡し,同判決は確定した。


カ 組合は,平成14年11月1日,新大映に対し,組合の有する本件映画
を含む映画の著作権の持分全部を譲渡した。その結果,新大映は,本件映画の著作権の単独保有者となった。

キ 新大映は,同日,被控訴人に対し,本件映画の著作権を譲渡した。


(3) 小活

 前記(2)認定の事実を総合すれば,本件映画の著作権は,旧大映から新大映及び組合に譲渡され,その後,組合の持分が新大映に譲渡され,最終的に新大映から被控訴人に譲渡されたものと認められるから,被控訴人は,本件映画の著作権全部を有するものである。なお,これにより,争点3−1(共有持分に基づく差止め及び廃棄請求の可否)の問題は生じない。 』

 と判示されました。