●平成19(行ケ)10431 補正却下決定取消請求事件「遊技機」(2)

 本日も、『平成19(行ケ)10431 補正却下決定取消請求事件 特許権 行政訴訟「遊技機」平成20年07月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080731111430.pdf)について取上げます。


 本件では、取消事由2における知財高裁の判断も参考になるかと思います。


 そして、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『4 取消事由2について

(1) 原告は,出願当初の明細書には「特別可変表示装置」につき「特別変動入賞装置」,と関連付けて明確な定義がなされているから,「特別可変表示装置」を構成要素とする本願補正発明に係る遊技機は,「特別変動入賞装置」を構成要素として挙げていなくても,これを含む遊技機と考えるのが相当である旨主張する。


 しかし,本願補正発明に係る請求項1には,「特別可変表示装置」の構成要件として「特別変動入賞装置」を含む旨は記載されておらず,しかもその意義は前記普通変動入賞装置への遊技球の入賞に基づき特別可変表示ゲームを表示可能な「特別可変表示装置」という明確なものであるのに対し,請求項の記載上,「特別可変表示装置」と「特別変動入賞装置」を関連付けるような定義は存在しない。


 したがって,本願補正発明に係る請求項の記載上は「特別可変表示装置」を構成要素とする遊技機において特別変動入賞装置が当然含まれるものと解することはできない。


 また,原告が指摘する本願明細書の段落【0015】及び【0020】の記載は前記2のとおりであるところ,これらは「発明を実施するための最良の形態」についての記載にすぎないのであるから,このような明細書の記載を考慮すべき旨の原告の主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


(2)アまた原告は,原々出願当時(平成4年10月27日)の技術常識では,「特別可変表示装置」を備えていれば「特別変動入賞装置」を備えていることは自明であり「特別変動入賞装置」を必要としない「特別可変表示装置」を備えた遊技機は,そもそも存在せず,本願補正発明について本件決定がしたような「特別変動入賞装置を必要としない特別可変表示装置を備える遊技機である」などという解釈は生じ得ない旨主張する。


イ 確かに,補正が適法であれば原々出願時(平成4年10月27日)まで遡及するのであるから,補正の適否は原々出願時の技術常識に照らして判断すべきであることは,原告の主張するとおりであり,また,原々出願時である平成4年10月27日当時において,「特別変動入賞装置」を必要としない「特別可変表示装置」を備えた遊技機が存在したことを認めるに足りる証拠も見当たらない。


 しかし「特別変動入賞装置」と切り離された「特別可変表示装置」が,単体で存在する遊技機が技術的にみて存在し得ないというのであればともかく,そうでないとすれば ,「特別変動入賞装置」と「特別可変表示装置」は概念的に別個の装置として構成可能なものである以上,原々出願時に実際に存在していなかったことをもって,その当時において「特別変動装置を必要としない特別可変表示装置を備えた遊技機」という解釈が生じ得ないとか,「特別可変表示装置」を備えていれば「特別変動入賞装置」を備えていることが自明であるということはできない。


 そして,本願の明細書に記載された特別変動入賞装置の機能は,上記段落【0020】のとおり,「特別可変表示装置」において大当たりが発生すると,変動入賞装置114の開閉扉117が所定時間ずつ所定サイクル開放される特別遊技が行われ,これにより獲得球数を増加させるものと理解することができるが,「特別可変表示装置」において大当たりが発生した場合に直ちに増加した入賞球を獲得させるなど,「特別変動入賞装置」の構成を欠きながらこれと同様の機能(獲得球数の増加)を生じさせることが技術的に困難であるとは解し難いから,特別変動入賞装置とは関係なく存在する特別可変表示装置を備えた遊技機の存在を観念することが困難とはいい難い。


 そうすると「特別変動装置を必要としない特別可変表示装置を備えた遊技機」という解釈は何ら不合理なものではなく「特別可変表示装置」を,備えていれば「特別変動入賞装置」を備えていることが自明であるということはできない。


ウ さらにいえば,本件の出願後ではあるものの,以下のとおり特別変動入賞装置とは関係なく存在する特別可変表示装置を備えた遊技機の存在が認められる。

 ・・・省略・・・

 すなわち,上記「盤面にある液晶」は,抽選(ゲーム)を行う装置であって,その表示結果によって大当たりを発生させるものであるから,本願発明における特別可変表示装置に相当するものと認められるが,大当たりになると商品券が払い出されるというものである。


エ 上記のとおり,乙2発明ないし乙3記載の遊技機は本願発明における特別可変表示装置に相当する装置を備えながら,特別変動入賞装置に相当する装置を有さない遊技機である。そして,これらは本願の出願後に公開された技術ではあるものの,その記載に鑑みると,本願の出願時以降に生じた技術革新により初めて存在可能になったという事情は見当たらず,技術的にみて本件の原々出願当時(平成4年10月27日)において本願の発明と相容れないものとは解し難い。


 そうすると「特別可変表示装置」が単体で存在する遊技機が,本件原々出願時に技術的にみて存在し得ることは,以上のような遊技機の存在からも推知できるものというべきである。


 したがって,「特別変動入賞装置」を必要としない「特別可変表示装置」を備えた遊技機が,原々出願時に存在しないことをもって,「特別変動装置を必要としない特別可変表示装置を備えた遊技機」という解釈は生じ得ないとの原告の上記主張は,採用することができない。


5 結論

 以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。

 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 本件では、知財高裁は、上記の通り、

しかし,本願補正発明に係る請求項1には,「特別可変表示装置」の構成要件として「特別変動入賞装置」を含む旨は記載されておらず,しかもその意義は前記普通変動入賞装置への遊技球の入賞に基づき特別可変表示ゲームを表示可能な「特別可変表示装置」という明確なものであるのに対し,請求項の記載上,「特別可変表示装置」と「特別変動入賞装置」を関連付けるような定義は存在しない。したがって,本願補正発明に係る請求項の記載上は「特別可変表示装置」を構成要素とする遊技機において特別変動入賞装置が当然含まれるものと解することはできない。」

 と判断されており、この判断は、判決文中に記載はないものの、査定系の出願に係る発明の要旨の判断基準を示したリパーゼ最高裁判決の、

特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。

 における、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確な場合、出願に係る発明の要旨認定は明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべき、という原則に整合しており、妥当な判断であると思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。