●平成19(行ケ)10431 補正却下決定取消請求事件「遊技機」(1)

 本日は、『平成19(行ケ)10431 補正却下決定取消請求事件 特許権 行政訴訟「遊技機」平成20年07月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080731111430.pdf)について取上げます。


 本件は、補正却下決定の取り消しを求めた審決取消訴訟で、特許庁の判断が支持され、その請求が棄却された事案です。


 本件では、平成5年改正前の特許法53条1項による明細書の要旨を変更する補正の判断が参考になるかと思います。


 なお、明細書の要旨を変更する補正と判断された本願補正発明は、次の内容です。


「【請求項1】
 遊技盤に取り付ける取付基板と該取付基板の前面に球検出部を臨ませた通過球検出スイッチとを具備する始動ゲート装置と,
 前記通過球検出スイッチからの検出信号に基づき普通可変表示ゲームを表示可能な普通可変表示装置と,
 開状態と閉状態とに変換可能な開閉部材を有し,前記普通可変表示装置での普通可変表示ゲームが当りとなった場合に該開閉部材を開状態に変換可能な普通変動入賞装置と,
前記普通変動入賞装置への遊技球の入賞に基づき特別可変表示ゲームを表示可能な特別可変表示装置と,
 を備える遊技機において,
 前記始動ゲート装置の取付基板は,
 該通過球検出スイッチの下に位置するように前面に突設し,前記球検出部を通過した球を受けて一定の向きに横送りする横送り部を形成し,
 前記始動ゲート装置は,
 前記通過球検出スイッチを通った球が横送り部で横向きに進路を
え,当該始動ゲート装置の側方に配設された普通変動入賞装置に向けて放出するように構成され,
 前記普通変動入賞装置は,
 遊技球の入賞に基づき前記特別可変表示ゲームを表示させるための始動口として前記開閉部材を介して遊技球を入賞させる第1始動口とは別の第2始動口を当該開閉部材の上部に備え,該第2始動口は,該開閉部材の上部に設けられた樋部材の前方側端部に形成され,該樋部材は,遊技盤裏面に設けられた入賞球処理機構に対して球を送り出し可能に後方側端部が連結されるとともに該前方側端部から後方側端部に架けて上方が開口した樋状に形成されていることを特徴とする遊技機」。


 そして、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(決定の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。


2 本件補正による明細書の要旨変更の有無


 原告は,本件補正により本願明細書の要旨が変更された旨の本件決定の判断が誤りである旨主張するので,各取消事由に対する判断に先立ち,この点について検討する。


(1) 本願の(出願当初の)特許請求の範囲は,次のようなものである(当事者間に争いがない。)。


【請求項1】
「遊技盤に取り付ける取付基板と,
 該取付基板の前面に球検出部を臨ませた通過球検出スイッチと,
 を具備する始動ゲート装置を備える遊技機において,
 前記取付基板は,
 該通過球検出スイッチの下に位置するように前面に突設し,前記球検出部を通過した球を受けて一定の向きに横送りする横送り部を形成し,
 前記始動ゲート装置は,
前記通過球検出スイッチを通った球が横送り部で横向きに進路を変え,側方に放出するようになっていることを特徴とする遊技機」。


(2) 本願の当初明細書(平成16年6月10日付け特許願に添付された明細書〔甲1〕 をいう。以下同じ。)の発明の詳細な説明には ,「特別可変表示装置」及び「特別変動入賞装置」の技術的意義等に関し,次のような記載がある。

 ・・・省略・・・

(3) 以上によれば,本願の出願当初明細書における本願発明は,遊技球の通過を検出し,これに基づく特典の付与を可能とする始動ゲート装置を備えた遊技機に関するものであり,遊技機の遊技盤に形成された遊技領域に設けられる始動ゲート装置(これは,従来,遊技球の通過に基づき可変表示ゲームの始動条件を付与可能な通過チャッカとして多用されていたものである。)について,従来技術においては単に球検出部を遊技盤面に突出させ,その球検出部の周りをシンプルなゲート部材で囲った程度の構成であり,球が一瞬の間に球検出部を通り抜け,後は遊技盤面にごく普通に落下していくという単調さであったものを,球の通過を検知し,これに基づいて可変表示ゲームの始動等の特典を付与することを可能としつつ,通過した球の挙動を変化させて遊技者の興趣を増大させるという意義を有するものである。


 そして,本願の出願当初明細書には,ここでの「特別可変表示装置」につき,可変表示ゲーム,すなわち,始動口にパチンコ玉が入賞すると3箇所の特別図柄表示部における図柄が所定時間変動表示された後に停止表示され,その際3箇所の図柄が揃うと特賞遊技状態(大当たり)となるゲームの表示を可能とするため遊技領域に設けられた表示装置である旨,また,「特別変動入賞装置」につき,このようにして特賞遊技状態となった場合に開閉扉が所定時間ずつ開放されるという特別遊技を可能とするための装置である旨の記載があると認められるものの,「特別可変表示装置」が上記のように特別変動入賞装置の作動を決定する特別可変表示ゲームを実施する以外,他の目的があるとの記載はない。


 そうすると,本件出願当初の明細書に記載された特別可変表示装置は,特別変動入賞装置の作動を決定する目的を有する装置であって,特別入賞装置とともに存在することに技術的意義を有する装置であると認められる。


(4) これに対し,本件補正後の請求項1の記載は前記第3,1,(2)ウのとおりであるところ,これによると「特別可変表示装置」については,「普通変動入賞装置への遊技球の入賞に基づき特別可変表示ゲームを表示可能な特別可変表示装置」と特定されているものの「特別変動入賞装置」については,規定するところがないから,本願補正発明は,特別可変表示装置を有しつつ特別変動入賞装置を有しない遊技機,換言すれば,特別変動入賞装置の作動を決定する目的を持たず特別入賞装置とともに存在することを要しない特別可変表示装置をも,その請求の範囲に含むものである。


 そして,本願の出願当時におけるパチンコに代表される遊技機の技術分野において,特別変動入賞装置と無関係な特別可変表示装置が遊技機に単体で存在することが自明であったとは認め難いから,このような遊技機(特別変動装置の作動との関係から切り離された「特別可変表示装置」が単体で存在する遊技機)を出願当初の明細書から把握することは自明のことではないというべきである。


 そうすると,本件補正は,明細書の中に新たに遊技機に単体で存在する特別可変表示装置という技術的事項を導入するものであるから,明細書の要旨を変更するものといわなければならない。


3 取消事由1について


(1)原告は,本件補正時に請求項1に追加された「特別可変表示装置」は,出願当初明細書の【発明を実施するための最良の形態】に記載されている「特別可変表示装置」そのものであり,文言上の変更がなく明確であるから,本件補正は要旨変更に当たらず「特別可変表示装置」の技術的意義の解釈に,おいて「特別変動入賞装置」まで含める必要がない旨主張する。


 しかし,上記のとおり,本願発明における特別可変表示装置は,特別変動入賞装置とともに存在することに技術的な意義を有するものであるのに対し,本件補正は,特別変動入賞装置とは別個に存在する特別可変表示装置を備えた遊技機とすることにより新たな技術的事項を導入するものであり,そのため明細書の要旨を変更することになるのであって,単に特別可変表示装置が出願当初の明細書に記載された装置そのものであるか否かということや,特別可変表示装置自体の技術的意義が明細書上明確であるか否かということは,上記判断を左右するものではない。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


(2) また原告は,補正が要旨変更に当たるか否かの判断は「発明の構成に関する技術的事項」に基づいて行われるため,「発明の構成に関する技術的事項」に関係ない事項は要旨変更の判断対象にならず,「特別変動入賞装置」は本願補正発明の目的及び効果に無関係であるから「発明の構成に関する技術的事項」に含まれず,したがって,本件補正は要旨変更に当たらない旨主張する。


 しかし,上記のとおり,本件補正は,特別変動入賞装置の作動を決定する目的を持たず,特別入賞装置とともに存在することを要しない特別可変表示装置という出願当初の明細書に記載のなかった構成を付加するものであり,そこに新たな技術的意義を有する別個の技術的事項を導入するものというべきであるから,要旨変更に当たるといわざるを得ないのであって,そのことは,本願補正発明の目的効果いかんによって ,左右されるものではない。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 』


 と判示されました。

 
 「特別可変表示装置」という構成要件が出願当初明細書に記載されていたとしても、「特別変動入賞装置」の存在を前提としない「特別可変表示装置」が出願当初明細書に記載されていない以上、「特別変動入賞装置」の存在を前提としない「特別可変表示装置」の発明を補正により特許請求の範囲に含めることは、明細書の要旨の変更になる、とした判断は妥当なものかと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸;<気になった記事>

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