●平成15(ワ)1117 実用新案権 民事訴訟「自動車用変速機構」

 今日も本当に暑かったですね!今日は、その暑い中、部活で軟式テニスをしている中学生の息子から隣の市で男子軟式テニス高校総体(インターハイ)が開催されていると聞いたので、軟式テニス経験者の私も午後から見てきました。試合もとても熱かったです。優勝したのは、確か、和歌山県の高校だったと思います。とても気合が入っていました。自分の高校生時代を少し思い出したり(勿論、インターハイには出場していません。)、少しエネルギーをもらったような感じがします。


 さて、本日は、『平成15(ワ)1117 実用新案権 民事訴訟「自動車用変速機構」平成15年07月30日 名古屋地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/6F3C5ECFC6428FB049256DD700104A44.pdf)について取上げます。


 本件は、実用新案権侵害に基づく損害賠償請求事件で、原告の請求が棄却された事案です。


 本件では、実用新案登録請求の範囲における構成要件の解釈手法が参考になるかと思います。


 つまり、名古屋地裁(民事第9部 裁判長裁判官 加藤幸雄、裁判官 舟橋恭子、裁判官 平山馨)は、

『1 当裁判所は,被告装置は構成要件Cの「当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して当該エンジンと駆動用連動機構との連結を図る」を充足しないと判断する。その理由は下記のとおりである。


(1) 構成要件の解釈手法

 平成14年法律24号改正前の特許法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は,願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」と,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定し,同改正前の実用新案法26条もこれを準用している。


これらの規定の趣旨に照らせば,実用新案登録請求の範囲に記載された文言の意味内容の解釈は,その言葉の一般的な意味内容を基礎としつつも,詳細な説明に記載された考案の目的,技術的課題,その課題解決のための技術的思想又は解決手段及び作用効果並びに図面をも参酌して,その文言により表現された技術的意義を考察した上で,客観的,合理的に行われるべきである。


(2) 構成要件Cの「切り替え的に接続」の意味

 そこで本件明細書を検討するに,本件各考案は,自動車用変速機構についての考案であるところ,「従来,自動車は,ギアシフトを手動的に行うマニアルトランスミッションを装備したものと,ギアシフトが自動的に行われるオートマチックトランスミッションを装備したものとに大別される」が,「オートマチックトランスミッションを装備した自動車の場合」,「山間部の走行に際しては,頻繁なるカーブ走行及び坂路走行等が伴うため,低ギヤ選択に基づくタイヤの接地性の安定化(略),低速ギア選択に基づくエンジンブレーキ使用(略)等,走行時に頻繁なるギアシフトを行うことが安全走行に直結し,また,このようなドライビングテクニックの多用に基づき,山間部ドライブの興趣性が著しく向上することとなる」し,「従って,上記した既存の自動車の場合,オートマチックトランスミッション装備の自動車にあっては,山間部走行時等細かいギアシフトの多用性を必要とするドライブに際して,これの不能性から運転上の不満が残り,また,マニアルトランスミッション装備の自動車にあっては停車発進が頻発する市街地での走行に際して,ギアシフトの煩雑性を感じることを余儀なくされた」ため,このような従来技術における課題を解決するために,マニアルトランスミッションオートマチックトランスミッションとを,必要に応じて切替え的に接続してエンジンと駆動用連動機構との連結を図るように構成したものであると認められ,これに,構成要件Bが「エンジンと後輪駆動用連動機構との間に,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションを介在させる」ことを予定していることを併せ考慮すると,構成要件Cの「当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して……連結を図る」とは,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションのいずれかを選択して,駆動輪への動力伝達を一方に切り替えた場合には,他方は動力の伝達路から物理的に切断されるまでは要しないものの,変速機としては作動しないことを意味すると解すべきである。


 このことは,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄に,「マニアルトランスミッション8の作動中は,オートマチックトランスミッション7のシフトレバーS1をOFF位置に保っておく。これに依り,オートマチックトランスミッション7は切り離された状態となり,自動車はマニアルトランスミッション8による走行がなされる」し,逆に「オートマチックトランスミッション7の作動中は,マニアルトランスミッション8のシフトレバーS2をOFF位置に保っておく。これに依り,オートマチックトランスミッション7(マニアルトランスミッション8の誤記であることが明らかである。)は切り離された状態となり,自動車はオートマチックトランスミッション7による走行がなされる」と記載されていること,また,実施例の説明として,「両トランスミッションが同時に接続されることが無いように構成してある」,「当該両トランスミッションは,何れか一方だけが切り替え的に作動し(略),両者が同時に作動することが無いように構成してある」と記載されていること,逆に,本件明細書には,両トランスミッションが密接不可分の状態となって,同時にそれぞれが駆動輪に駆動力を伝達する変速機としての機能を発揮することを示唆するような記載が見当たらないことなどから明らかである(実施例の説明では,選択されていない方のトランスミッションは,変速ができないだけで駆動力の伝達は直結的にされるよう構成する旨の記載があるが,この場合も,選択されていないトランスミッションは,変速機として作動していない。)。


 この点につき,証拠(原告作成に係る甲5,6)には,「切り替え的に接続する」の意味について,「何れか一方を物理的に切り離す事ではなく,「切り替え的に接続」と言う抽象的,概念的技術思想を有し,両変速機が,密接不可分状態となって「変速機構」を構成し,且つ各々の機器の個性を失う事なく,駆動系に伝達して走行可能とするものと考え」るべきで,上記の「切り替え的に接続」は「構造上の切り替え」を意味しない旨の意見(甲5)や,「テレビとビデオ」を「コードで接続した機構」あるいは「テレビの中にビデオを内蔵させた機器」において,ビデオを見る場合でも,「テレビの機能の殆どを作動させて」おり,「その両方の機器が作動して」いるが,表現としては「ビデオに切り替えてビデオを見ると言います」との意見が記載されているが,仮に原告のこれらの意見が,選択されていないトランスミッションも変速機として作動している場合についても「切り替え的に接続」の要件を満たすとの趣旨であるならば,前記の諸点に照らして,相当でないというべきである。


(3) 被告装置との対比


 そこで,被告装置が,構成要件Cを充足するか否かについて判断するに,前記当事者間に争いのない事実等に証拠(乙2の2,3の2,4の2ないし4,5の2及び3,6)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告装置の構成は以下のとおりと認められ,これに反する証拠はない。


ア 被告自動車は,駆動輪を後輪又は四輪に切り替えることができるいわゆるパートタイム4WD車である。これに搭載された変速装置である被告装置の主要部分は,オートマチックトランスミッション部分と,トランスファー部分からなる。オートマチックトランスミッション部分は,動力の伝達及びトルクの変換を行うトルクコンバーター部分と,遊星歯車を電子制御で操作し,エンジンからの回転を前進4段,後進1段に変速するトランスミッション部分からなる。オートマチックトランスミッション部分の操作はシフトレバーの切替えによって行われ,ギアの変更は自動的に行われる。トランスファー部分は,遊星歯車を利用した副変速機と,後輪駆動と四輪駆動の切替えを行う分配機からなる。


イ 副変速機においては,トランスミッション部分で変速された動力をそのまま駆動輪に伝達するハイレンジモードと,さらに変速を行って回転数を下げることにより,特に大きな駆動力を生じさせるローレンジモードの切替えが行われる。副変速機及び分配機の操作は,専用のシフトレバーとスイッチによって行われ,ハイレンジモードとローレンジモードの切替えは,手動で行われる。


ウ オートマチックトランスミッション部分とトランスファー部分は直列的に配置され,エンジンから生じる動力は,オートマチックトランスミッション部分とトランスファー部分の両者を介して後輪駆動輪に伝達され,いずれか一方のみを介して動力が伝達されることはない。また,ハイレンジモードを選択した場合,変速はトランスミッション部分のみで行われ,副変速機は,トランスミッション部分から伝達された動力を,そのまま分配機を介して駆動輪に伝えるにすぎないが,ローレンジモードを選択した場合,トランスミッション部分で変速された動力について,副変速機によりさらに変速を行う。


 以上の認定事実に照らせば,被告装置を全体として見ると,副変速機の作用はオートマチックトランスミッションの変速比の拡大にあり,副変速機のみが作動して,オートマチックトランスミッション部分が作動しないという状態は存在しない。このことは,新型車解説書(乙4の3)のシフト及びロックアップパターンの表において,例えば,トランスファーシフトポジション(副変速機のシフトレバーの位置)が「L4」(ローレンジ)の場合であっても,1速から3速までのオートマチックトランスミッションによる走行がなされる旨の記載があることからも明らかである。そうすると,仮に,原告主張のとおり,副変速機が,運転者の手動によって操作されるという点でマニアルトランスミッション(構成要件B)に当たると解しても,被告装置において,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションの何れか一方を切替え的に接続しているとはいえないから,被告装置が構成要件Cを充足しないことは明らかである。


2 以上のとおり,被告装置は請求項1の構成要件Cを充足しないところ,本件各考案は,いずれも請求項1を前提とし,その構成要件を内包しているから,被告装置が本件各考案の技術的範囲に属しないことも明らかである。


3 よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。