●平成19(行ケ)10387審決取消請求事件 商標権「オレンジチェリー」

 本日は、『平成19(行ケ)10387 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「オレンジチェリー」平成20年07月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080731105147.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、指定商品「果実」について商標「オレンジチェリー」の使用が、4条1項16号の商品の品質について誤認を生じさせるとした判断が参考になるかと思います。



 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、

『1請求原因 (1) (特許庁における手続の経緯 ), (2) ( 審決の内容の各事実)は, 当事者間に争いがない。


2 別添審決写し及び弁論の全趣旨によれば,本願に対する平成18年8月30日付け拒絶査定の前提として被告が原告らに対して発した拒絶理由通知には,


(i)本願「オレンジチェリー」は「オレンジ色のさくらんぼ」程の意味合いを有するにすぎないから,本願商標は法3条1項3号に該当するとともに,法4条1項16号に該当する,(ii) 本願「オレンジチェリー」は,指定商品を取り扱う業界において「オレンジチェリー」なる食用ほおずきの一種が取引されている実情からすると,これをその指定商品中の「食用ほおずき」に使用した場合,単に商品の品質等を表示するにすぎないから,本願商標は法3条1項3号に該当する,旨の記載がなされている。


 これに対し,原告らからの不服審判請求に基づき平成19年9月26日になされた本件審決においては,上記(i)及び(ii)の理由のうち本願商標が法3条1項3号に該当するとした部分を採用せず「さくらんぼ」を直接的に表す「チェリー」の文字を含む本願商標を,その指定商品中「さくらんぼ」以外の商品に使用するときは,これに接する取引者,需要者をして,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから法4条1項16号に該当する,とされたものである。


 ところで,商標法63条2項の準用する特許法178条6項によれば「審判を請求することができる事項に関する訴えは,審決に対するものでなければ,提起することができない」とされ,原告らも本件訴訟においては平成19年9月26日付けでなされた本件審決の取消しを求めているのであるから,本件訴訟においては,本願が法4条1項16号に該当するとした部分のみが争点となるものである。


 したがって,原告らが平成20年1月30日及び2月5日付けの各準備書面において述べる法3条1項3号に関する部分は,理由がないことになる。


 そこで,本願が法4条1項16号( 「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」)に該当するかどうかにつき,以下検討する。


3 本願商標の意味

(1) 証拠(乙1〜31)によれば,以下の事実を認めることができる。

 ・・・省略・・・

(2) 上記(1)ア及びイによれば「オレンジ」は,みかん科の果実の名称又はオレンジ色を指すものとして,「チェリー」もまた果実であるさくらんぼを指すものとして,それぞれ一般に認識されるものであると認められる。そして,上記ウ及びエのとおり「チェリー」その他の果実を指す語の前に,「スイート」,「サワー」,「アメリカン」等,別の語が付加されて使用される例が少なからず見受けられるところ,これら付加される語はいずれも, 「チェリー」その他の果実を修飾するいわば形容詞として使用されていること,殊に,「ブラック」,「レッド」,「ゴールデン」等色に関する語が付加された場合には, 果実の色自体を指すものとして用いられていることが認められる。


 そうすると「オレンジチェリー」とする本願商標に接した場合,取引者,及び需要者は果実としての共通性からミカン科の果実であるオレンジとさくらんぼのミックスしたものないしそれに関連した新種の果実を想起したり,また「オレンジ」がオレンジ色をも意味する語であることからして,上記のような形容詞的な用法として「オレンジ色のチェリー(さくらんぼ)」を想起することがあり得るものと認められる。


 そうすると「オレンジチェリー」との本願商標を,その指定商品である,「果実」に用いた場合には,取引者及び需要者において当該商品が「さくらんぼ」の一種(例えば,オレンジ色がかったさくらんぼ等)を指すものとして認識されることがあり得るというべきであるから,これを「さくらんぼ」以外の果実に用いた場合には,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるというべきである。


4 原告らの取消事由の主張に対する判断

(1)ア まず原告らは,「チェリー」は単に日本でいわれる「さくらんぼ」のみを意味するものでないと主張する。

イ 確かに,原告らの挙げる文献等(甲3,5,11〜18)には,次のとおり,さくらんぼとは異なる果実等の名称に「チェリー」との語が付加された例が挙げられている。

 ・・・省略・・・

ウ しかし,チェリーという語が,さくらんぼという特定の果実を指称するものとして認識される場合が多い以上,前記3のように,「さくらんぼ」との誤認を生じるおそれがあることは否定し得ないのであって , このことはさくらんぼとは異なる果実等の名称に「チェリー」との語が付加される例が存在することによって左右されるものではない。したがって,その他原告らが挙げる種々の言葉に関するものを含め,原告らの主張は採用することができない。


(2) さらに原告らは,平成13年に外来種の食用ホオズキを交配して,新商品である食用ホオズキ「オレンジチェリー」を開発したものであり,この「オレンジチェリー」は,既にインターネット市場又は一般商取引でその名が広く認知され,独自の識別商標としての機能を有していると主張する。


 しかし,本件における全証拠をもってしても,「オレンジチェリー」の名称が「さくらんぼ」との誤認を生じるおそれがないほどに一般商取引で広く認知されているとまでは認めることはできないし,また,原告らの上記主張を前提としても,指定商品である「果実」全般のうち,食用ホオズキ以外の果実との関係ではなお誤認を生じるおそれがあることを否定できないから,原告らの上記主張は採用することができない。


5 結論


 以上によれば,原告ら主張に係る取消事由はいずれも理由がない。よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。