●平成11(ワ)2311 特許権等侵害差止等請求事件「多目的ロースター」

 本日は、『平成11(ワ)2311 特許権等侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「多目的ロースター」平成14年07月18日 名古屋地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/E2D1FEF72B04D18A49256C4400256D4F.pdf)について取り上げます。


 本件は、多目的ロースターの特許権等を有する原告が,被告に対し,その製造販売する多目的ロースターが上記各権利を侵害すると主張して,特許法100条1項,2項等に基づき,被告製品の製造販売の差止め及び廃棄等を求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、特許発明の技術的範囲の解釈が参考になるかと思います。


 つまり、名古屋地裁(民事第9部 裁判長裁判官 加藤幸雄、裁判官 舟橋恭子、裁判官 富岡貴美)は、


『1 争点(1)ア(本件装置イ,イ2,ロ,ロ2,ロ3の「環状段部」が甲発明の構成要件Eの「突片」に該当するか。)について


(1) 特許法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は,願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」とし,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添附した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定する。


 これらの規定の趣旨からすると,特許請求の範囲に記載された文言の意味内容を解釈するには,その言葉の一般的な意味内容を基礎としつつも,詳細な説明に記載された発明の目的,技術的課題,その課題解決のための技術的思想又は解決手段及び作用効果並びに図面をも参酌して,その文言により表現された技術的意義を考察した上で,客観的合理的に解釈,確定すべきである。そして,技術的意義を考察するに当たっては,特許権が,出願時の技術水準を超えた発明に対してのみ付与されるものであるから,その時点における公知,公用の部分を除外して解釈される必要がある。


  (2) そこで,「突片」の意義について検討するに,この用語は,一般的なものではなく,分解して考えると,「突き出た」「片」となるが,「片」の意味についても「切れ端」,「かけら」,「極少量」,「片一方」,「一切れ」,「極めてわずかなもの」,「薄いもの」等,多数の意味があり,一義的に明確とまではいえない。


 そして,甲発明が出願された昭和58年3月24日当時の各種公知技術と甲発明を比較検討すると,(i)特開昭55−130622(乙4の審判請求書に添付の甲1)には,特許請求の範囲として「テーブル上に嵌込式に設置する焼肉器において,内枠体と外枠体を任意の間隔を設けた二重構造とし,該内枠体の上縁に多数の煙吸込口を穿設し,その下方に焼鉄板を設け,下縁に仕切板を設置して箱体を構成し,該箱体内にガスコンロを配置すると共に,前記外枠体の下側周囲に段部を設けて油漕とし,その中央に透孔を構成させ,該透孔にフィルターを介して煙道を連通させ,該フィルターの直下の煙道内に強制吸引用のダンパーを設け,前記鉄板,仕切板,フィルターを取り外し自在となしたることを特徴とするテーブル焼肉器の構造」の記載があり,その実施例及び図面をも参照すると,甲発明の構成要件のうち,A「ロースター本体に吸引作用される円筒状の外箱と該外箱の内部に所定間隔の吸引流路を有する様にして円筒状の内箱を取(り)付け」,B「該内箱の上端は外箱の上端より低く形成し」,C「又外箱の上方開口部を被冠閉塞する閉塞枠体と,該閉塞枠体より内箱の上部周囲に接して垂設された周壁より成る円形状のトッププレートを外箱と内箱間に載置し」,D「トッププレートの周壁には吸気孔を貫設形成し,」F「又プレート中央部にバーナーを収容し」の各構成要件については,いずれもその概要についての記載があること,(ii)実開昭57−48821(同添付の甲2)には,「排気装置に接続される排気口を底部にそなえ上向きの開口部を有する外箱と,上記外箱に穿設した吸気穴に連通し上記外箱内において上向きに開口する給気穴をそなえた吸気ダクトと,上記給気穴に連通する給気口をそなえ上記外箱内壁面との間に通気路をへだてて上記吸気ダクト上に載置された内箱と,上記通気路の上方において上記外箱に取(り)付けた排気誘導板と,上記内箱の上向開口部に被着され通気穴を穿設された耐熱板と,上記給気口の上方に配設したガスバーナと,上記ガスバーナの上方に設けたバーナカバーをそなえて成る焼肉器」の記載があり,その実施例の図面には,鉄板を載置するための全周に亘る段部の記載があり,甲発明の構成要件Eのうち,内箱の上端開口部に鉄板(ロストル)を載置するための全周にわたる段部を周設することについては記載があること,他方,当該段部の形状が環状である旨の明確な記載がないこと,鍋物用のコンロバーナと,鉄板焼肉用のパイプバーナとの二つのバーナを備えた調理装置についての(iii)特開昭57−55977(同添付の甲6)には,特許請求の範囲として,「窓孔下方の中央部にコンロバーナを設け,このコンロバーナの両脇にはパイプバーナを相対向配置するとともに,パイプバーナにその炎孔をカバーするコンロ用のゴトクを着脱自在に設けてなる調理装置」の記載があり,発明の詳細な説明には「コンロバーナを使用する場合,コンロバーナ用のゴトクをパイプバーナ上に着脱自在とし,…またパイプバーナを使用するには,…ゴトクを取り去り,焼物用プレートを天板の窓孔に装備す」るとの記載があり,図面にゴトク又はプレートを装備するための段部の記載があることからすると,甲発明の構成要件G「段部に対応する円形同大に形成し互換性を有する様にしたスリットを穿設した平板円形状のロストル及び五徳を装備してそのいずれか一方を段部上に選択載置する」ことについても記載があること,以上の事実が認められる。


 上記で検討した従来技術に照らすと,甲発明を特徴づける本質的部分は,構成要件Eの「環状の段部」を形成する構成に存すると解されるところ,甲発明においては,それを形成する具体的構成として,内箱の上端開口部に突設した「突片」と,その突片上に載置されるプレートの「鍔部」と内箱の「壁面」を用いることが明らかである。そして,「鍔部」と「壁面」とは,元々プレートと内箱とに備わったものであるから,新たに設けられるものとしては,「突片」のみということができる。


 しかるところ,前掲(ii)実開昭57−48821には,内箱の上端開口部に「全周に亘る段部」を形成したものが示されており(この発明においては,その上に鉄板(ロストル)を直接載置する構成が示されているが,甲発明のように,その間にオイルパンを介在させることに何らの支障もないと解される。),このような公知技術を参酌すれば,甲発明における「突片」は,「全周に亘る段部」を含まないものと解するのが相当であり,これに前記「突片」の字義を併せ考えると,「突片」とは,突き出た片(切れ端)と解し,甲発明においては,これを内箱の上端開口部に内側に向けて多数配置することによって「環状の段部」を周設させたものと考えられる(なお,このように解したとしても,「全周に亘る段部」を多数の「突片」による構成に代替させることは,当業者にとって容易であるとも考えられ,そうであるならば,権利の有効性についての疑いを払拭できず,現に,乙28によれば,東京高等裁判所は,被告からの無効審判請求を排斥した特許庁の審決を取り消す旨の判決をしたことが認められるが,この点については今しばらく措くこととする。)。


  (3) ところで,本件装置イ,イ2,ロ,ロ2,ロ3についての装置目録の図面から明らかなように,本件装置イ,イ2,ロ,ロ2,ロ3には,「突片」に対応すべき位置である内箱の上端開口部に縮径された環状の段部はあるものの,突き出た切れ端と理解される「突片」は存在しないから,甲発明の構成要件Eの「突片」を充足しないというべきである。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。