●平成13(行ヒ)12 商標権「水沢うどん」最高裁判所第一小法廷

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 というわけで、本日は、『平成13(行ヒ)12 商標権 行政訴訟水沢うどん」平成14年02月28日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314112229.pdf)について取上げます。


 本件は、共有に係る商標権が成立した後、無効審判により商標登録が無効にされたときは、商標権の共有者の1人は保存行為等を理由として単独で無効審決の取消訴訟を提起することができることを判示した事案です。


 つまり、本最高裁判決の内容は、以下の通りです。


『             主 文
  原判決を破棄し,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
             理 由
  上告代理人吉村駿一の上告受理申立て理由について

1 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 上告人ら並びにA及びBは,「水沢うどん」の文字を縦書きした商標につき,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第32類「うどんめん,即席うどんめん」とする登録商標(平成5年8月31日設定登録,登録第2564665号。以下「本件登録商標」という)に係る商標権を共有していた。被上告人らは,平成9年10 。月27日,上告人ら並びにA及びBを被請求人として,本件登録商標に係る商標登録を無効にすることについて,審判請求をした。


 特許庁は,平成12年4月6日,上記審判事件につき,商標法3条1項3号該当を理由として,本件登録商標に係る商標登録を無効にすべき旨の審決をした。上記審決の謄本は,同月26日,上告人ら並びにA及びBに対し送達され,上告人らは,同年5月25日,上記審決に対する訴えを提起したが,A及びBは,同年4月30日付けで,本件登録商標に係る商標権を放棄する旨の持分放棄書を作成し,出訴期間内に上記審決に対する訴えを提起しなかった。


 上告人ら並びにA及びBは,同年7月17日,上記持分放棄を原因として,A及びBの持分を各上告人らへ移転する旨の持分移転登録を申請した。


2 本件訴えは,上告人らのみが上記審決の取消しを請求するものであるところ,原審は,次のとおり判断して,本件訴えを却下した。


 共有に係る商標権につき,商標登録を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という 。)の取消しを求める訴えは,共有者全員の有する1個の権利の存否を決めるものとして,合一に確定する必要があり,固有必要的共同訴訟である。AびBが訴えを提起することなく出訴期間を経過したから,上告人らのみの提起に係る本件訴えは,不適法である。


3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。


(1) 商標登録出願により生じた権利が共有に係る場合において,同権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同してしなければならないとされているが(商標法56条1項の準用する特許法132条3項),これは,共有者が有することとなる1個の商標権を取得するには共有者全員の意思の合致を要求したものであるからにほかならない。


 これに対し,いったん商標権の設定登録がされた後は,商標権の共有者は,持分の譲渡や専用使用権の設定等の処分については他の共有者の同意を必要とするものの,他の共有者の同意を得ないで登録商標を使用することができる(商標法35条の準用する特許法73条。)


 ところで,いったん登録された商標権について商標登録の無効審決がされた場合に,これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは,商標権が初めから存在しなかったこととなり,登録商標を排他的に使用する権利が遡及的に消滅する(商標法46条の2) 。


 したがって,上記取消訴訟の提起は,商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから,商標権の共有者が各自単独でもすることができるものと解される。そして,このように解したとしても,訴え提起をしなかった共有者の権利を害することもない。


(2) 共有に係る商標権については,これに対する共有者それぞれの利益や関心の状況が異なり得ることから訴え提起について他の共有者の協力が得られない場合や,無効審決後に持分を放棄したにもかかわらず出訴期間内に登録が完了しない場合,さらに,商標権の消滅後においても無効審決がされることがあり(同法46条2項参照,商標権の設定登録から)長期間経過して他の共有者が所在不明になる場合などが想定される。


 このような場合に共有に係る商標登録の無効審決に対する取消訴訟が固有必要的共同訴訟であると解して,共有者の一部の者のみが提起した訴えは不適法であるとすると,出訴期間の満了と同時に無効審決が確定し,商標権が初めから存在しなかったこととなり,不当な結果となり兼ねない。


(3) 商標権の共有者が各自単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解しても,その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には,その取消しの効力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項),再度,特許庁で共有者全員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法181条2項)。


 他方,その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には,他の共有者の出訴期間の満了により,無効審決が確定し,権利は初めから存在しなかったものとみなされることになる(商標法46条の2 )。


 いずれの場合にも,合一確定の要請に反する事態は生じない。さらに,各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には,これらの訴訟は,類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから,併合の上審理判断されることになり,合一確定の要請は充たされる。


(4) 以上説示したところによれば【要旨】商標権の共有者は,共有に係る商標登録の,無効審決がされたときは,各自,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である。


4 そうすると,本件訴えを不適法とした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。なお,最高裁昭和35年(オ)第684号同36年8月31日第一小法廷判決・民集15巻7号2040頁,最高裁昭和52年(行ツ)第28号同55年1月18日第二小法廷判決・裁判集民事129号43頁及び最高裁平成6年(行ツ)第83号同7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号944頁は,本件と事案を異にし適切でない。したがって,原判決を破棄し,本案について審理させるため,本件を原審に差し戻すこととする。


 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官深澤武久裁判官井嶋一友裁判官藤井正雄裁判官町田顯)』


 なお、本最高裁判決は、昨年の6/1の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070601)で取上げた、

●『平成13(行ヒ)154 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟「パチンコ装置」平成14年03月25日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/62783D851F466B5F49256CB5000A0706.pdf)や、


 同6/2の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070602)で取上げた、
●『平成13(行ヒ)142 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「ETNIES事件」平成14年02月22日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C58C13F2115911AC49256BF200267A0A.pdf)

と同旨となります。