●平成20(許)21最高裁判所第二小法廷 移送申立て却下決定に対する抗

 本日は、『平成20(許)21 移送申立て却下決定に対する抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件 平成20年07月18日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080723102717.pdf)について取上げます。


 本件は、特許事件ではありませんが、裁判管轄を争った最高裁事件ということで取上げました。


 本件では、地方裁判所にその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する訴訟が提起され、被告から双方の合意に基づき同簡易裁判所への移送の申立てがあった場合でも、裁判管轄は地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられる、と判示されています。


 つまり、最高裁裁判所は、

『                主  文
  原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。
  抗告手続の総費用は相手方の負担とする。
                 理  由
  抗告代理人西尾剛の抗告理由について

1 記録によれば,本件の経緯の概要は,次のとおりである。


(1)抗告人は,貸金業者である相手方との間で利息制限法1条1項所定の制限利率を超える利息の約定で金銭の借入れと弁済を繰り返した結果,過払金が発生しており,かつ,相手方は過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,相手方に対し,不当利得返還請求権に基づく過払金664万3639円及び民法704条前段所定の利息の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を抗告人の住所地を管轄する大阪地方裁判所に提起した。


(2)相手方は,抗告人の主張に係る金銭消費貸借契約の契約証書には「訴訟行為については,大阪簡易裁判所を以て専属的合意管轄裁判所とします。」との条項があり,大阪簡易裁判所を専属的管轄とする合意が成立していると主張して,民訴法16条1項に基づき,本件訴訟を大阪簡易裁判所に移送することを求める申立てをした。


(3) これに対し,抗告人は,上記専属的管轄の合意の成立及び効力を争った上,本件訴訟においては期限の利益の喪失の有無及び悪意を否定する特段の事情の有無等が争点となることが予想されるから,地方裁判所において審理及び裁判をするのが相当であると主張した。
2 原々審は,相手方主張の専属的管轄の合意の成立及びその効力が過払金の返還等を求める本件訴訟にも及ぶことを認めた上で,本件訴訟が,その訴額において簡易裁判所の事物管轄に属する訴額をはるかに超えるものであり,その判断にも相当の困難を伴うものであること等を理由に,本件訴訟は,民訴法16条2項本文の適用に当たり地方裁判所において自ら審理及び裁判をする(以下「自庁処理」という。)のが相当と認められるものであるから,相手方の移送申立ては理由がないとして,これを却下する旨の決定をした。


 原審は,専属的管轄の合意により簡易裁判所に専属的管轄が生ずる場合に地方裁判所において自庁処理をするのが相当と認められるのは,上記合意に基づく専属的管轄裁判所への移送を認めることにより訴訟の著しい遅滞を招いたり当事者間の衡平を害することになる事情があるときに限られ,本件訴訟において上記事情があるとはいえないから,地方裁判所において自庁処理をするのが相当とは認められないと判断して,原々決定を取り消し,本件訴訟を大阪簡易裁判所に移送する旨の決定をした。


3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 民訴法16条2項の規定は,簡易裁判所が少額軽微な民事訴訟について簡易な手続により迅速に紛争を解決することを特色とする裁判所であり(裁判所法33条,民訴法270条参照),簡易裁判所判事の任命資格が判事のそれよりも緩やかである(裁判所法42条,44条,45条)ことなどを考慮して,地方裁判所において審理及び裁判を受けるという当事者の利益を重視し,地方裁判所に提起された訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属するものであっても,地方裁判所が当該事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が相当と判断したときはその判断を尊重する趣旨に基づくもので,自庁処理の相当性の判断は地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。


 そうすると,地方裁判所にその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する訴訟が提起され,被告から同簡易裁判所への移送の申立てがあった場合においても,当該訴訟を簡易裁判所に移送すべきか否かは,訴訟の著しい遅滞を避けるためや,当事者間の衡平を図るという観点(民訴法17条参照)からのみではなく,同法16条2項の規定の趣旨にかんがみ,広く当該事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が相当であるかどうかという観点から判断されるべきものであり,簡易裁判所への移送の申立てを却下する旨の判断は,自庁処理をする旨の判断と同じく,地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられており,裁量の逸脱,濫用と認められる特段の事情がある場合を除き,違法ということはできないというべきである。


 このことは,簡易裁判所の管轄が専属的管轄の合意によって生じた場合であっても異なるところはない(同法16条2項ただし書)。


4 以上によれば,原審の前記判断には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,原々審が本件訴訟の事案の内容に照らして自庁処理を相当と認め,相手方の移送申立てを却下したのは正当であるから,原々決定に対する抗告を棄却することとする。


 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官今井功裁判官津野修裁判官中川了滋裁判官古田佑紀) 』