●平成19(ワ)19275 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟(2)

 本日も、『平成19(ワ)19275 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟「商品形態の模倣」平成20年07月04日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080711092534.pdf)について取上げます。


 本日は、争点(2)の『(原告商品の形態は商品の機能を確保するために不可欠な形態であるか)について』と、争点(3)の『(被告は被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき善意かつ無重過失であったか)について』とについて取上げます。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 平田直人、裁判官 瀬田浩久)は、


4 争点(2)(原告商品の形態は商品の機能を確保するために不可欠な形態であるか)について

(1) プードルのぬいぐるみに小物入れを組み合わせた商品の形態としては,その組合せの方法や個々の部分の形状等により様々なものが考えられるから,上記2(2)で認定したAないしC9の各形状から構成される原告商品の形態は,プードルのぬいぐるみと小物入れの組合せであることから必然的に導かれる形態であるということはできないし,特定の効果を奏するための必須の技術的形態であるということもできない。


 そして,本件において,原告商品と同様の組合せを採用した他の同種商品が存在することを認めるに足る証拠がないこと,胴体部が円筒状をしており,胴体部の背面側の上端で頭顔部が連結されている点,胴体部の上端に円を囲む形で腕があり,上端の正面で腕の先端を合わせている点等は,原告商品の特徴的な形状であるということができること等に照らせば,原告商品の形態が個性を有しないものということはできない。


 したがって,原告商品の形態は,不正競争防止法2条1項3号の「商品の機能を確保するために不可欠な形態」であるとは認められない。


(2) 被告は,原告商品は,既に市場で見られるいくつかの商品形態を組み合わせたものにすぎないこと,動物のぬいぐるみと小物入れの組合せは,古くから販売されており,発想として何ら新しいものではないこと,原告商品と同様の形態の小物入れは,10年前から販売されていること(乙2の1ないし4)から,原告商品の形態は,「商品の機能を確保するために不可欠な形態」に当たると主張する。


 しかしながら,不正競争防止法2条1項3号は,商品形態についての先行者の開発利益を模倣者から保護することを目的とする規定であるから,同号の規定によって保護される商品の形態とは,商品全体の形態であり,また,必ずしも独創的な形態である必要はない。


 そうすると,商品の形態が同号の規定にいう「商品の機能を確保するために不可欠な形態」に該当するか否かは,商品を全体として観察して判断すべきであって,全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出して個別にそれがありふれたものかどうかを判断した上で,各形状を組み合わせることが容易かどうかを問題にするという手法により判断すべきものではない。


 また,被告がその主張の根拠として提出する証拠(乙2の1ないし4)については,そこに掲げられている商品が,原告商品の形態に類似しているものから,一部の形態が類似しているにすぎないものまで様々であり,かつ,その販売の期間や販売の規模が明らかでないことから,単に原告商品と類似する商品が市場で流通している事実があることを示すにとどまり,原告商品と同様の形態の小物入れが市場に広く出回っていたことを認めるに足りるものではない。被告の上記主張は,採用することができない。


5 争点(3)(被告は被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき善意かつ無重過失であったか)について


(1) 前記認定に係る事実によれば,被告における商品の仕入れは,商品の仕入れを担当する部門に所属するバイヤーが,仕入先が行う多数の企画提案の中から,特定の商品の企画提案を採用し,その販売数量や価格等を決定して行うというものであり,また,被告商品の仕入れを担当する部門が1年間に取り扱う商品数だけでも約12万点に及び,仕入先が被告に対して行う企画提案の数も極めて多数に及ぶものと推測されることからすると,被告は,被告商品の仕入れを行うに当たり,被告商品の企画や生産の過程に関与することはなく,被告商品の選定やその販売数量及び価格等の決定のみを行っていたものと認められる。


 また,上記の膨大な数量の商品すべてについて,その開発過程を確認するとともに,形態が実質的に同一である同種商品がないかどうかを調査することは,著しく困難であるということができる。


 一方,原告商品は,これまでの販売金額が合計19万0487円,販売数量も合計330個にとどまり,その宣伝,広告も,原告ベストエバージャパンのウェブページや商品カタログに写真が掲載されている程度であって,一般に広く認知された商品とは認められないことからすると,被告は,被告商品を平成化成から購入するに当たり,取引上要求される通常の注意を払ったとしても,原告商品の存在を知り,被告商品が原告商品の形態を模倣した事実を認識することはできなかったものというべきである。


 以上によれば,被告は,被告商品の購入時にそれが原告商品の形態を模倣したものであることを知らず,かつ,知らなかったことにつき重大な過失はなかったものと認められる。


(2) 原告らは,被告のバイヤーであるXと名刺交換を行い,原告ベストエバージャパンの商品が掲載されたカタログ等を交付し,その後も毎年,被告にカタログを送付していたこと,平成15年9月に開催された東京ギフトショーにおいて出展したプチホルダーについて審査員特別賞を受賞し,そのことが業界誌に掲載されたこと等から,被告は,被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であることを知り,少なくとも,知らなかったことにつき重大な過失があると主張する。


 しかしながら,前記認定に係る事実によれば,Xは,被告商品の仕入れを担当する部門のバイヤーではないことが認められ,また,Xとの名刺交換から被告商品の販売が開始される平成18年4月ころまで約4年が経過しており,その間,被告において原告商品の購入が具体的に検討された形跡は認められないから,被告の一従業員であるXとの名刺交換及び同人へのカタログ等の交付という事情のみでは,被告が原告商品の存在を認識し,又は認識することができたということはできない。


 また,上記のとおり,現在まで被告において原告商品の購入が具体的に検討された形跡がないことに加え,被告が取り扱う商品の数が膨大であり,被告が仕入先等から送付を受けるカタログの数量も極めて多数に及ぶものと推測されること,東京ギフトショーにおいてプチホルダーが審査員特別賞を受賞した際,原告商品は一般に販売されていなかったこと,原告商品は平成16年8月から販売が開始されたものの,(1)で説示したとおり,その販売金額及び数量等によれば,一般に広く認知された商品とは認められないことからすれば,被告に毎年送付されたカタログの一部に原告商品が掲載され,また,東京ギフトショーにおいてプチホルダーが審査員特別賞を受賞し,その事実が業界誌に掲載されたとしても,これらの事情をもって被告の悪意,重過失を基礎付けることはできないというべきである。原告らの上記主張は,採用することができない。 』


 と判示されました。