●平成19(ワ)14984 商標権侵害差止等請求事件 商標権「青丹よし」

 本日は、『平成19(ワ)14984 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「青丹よし」平成20年07月10日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080711094356.pdf)について取上げます。


 本件は、商標権侵害の差止等を請求し、棄却された事案です。


 本件では、本件商標と被告各標章との類似性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 西理香、裁判官 北岡裕章)は、


1 争点1(本件商標と被告各標章との類似性)について

(1) 本件商標の構成は,別紙原告商標目録記載のとおりであり,中央に大きく縦書き毛筆体で「青丹よし」と大きく表示され,その右側上方に比較的小さく縦書きで「元祖登録商標」と,左側下方に比較的小さく縦書きで「鶴屋徳満」とそれぞれ毛筆体で書され,上記「青丹よし」の文字の真上に,小さく毛筆体で「献上銘菓」という文字を十字に配して草の模様で囲った図形(以下「上部図形」という。)を配し,さらに上記各文字及び図形の外周を略長方形で囲ったものである。


 被告各標章は,後記構成を有し,いずれも「青丹よし」との文字を含むものであるところ,原告は,本件商標における「青丹よし」との部分そのものを要部と捉えて,被告各標章はその要部において本件商標と同一又は類似であるから全体としても本件商標と同一又は類似である旨主張する。そこで,まず「青丹よし」が本件商標における要部であるかどうかについて検討する。


ア 以下の各項末尾に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば,「青丹よし」という名称について,以下の事実が認められる。


 「大和百年の歩み政経(ア) 編」(昭和45年8月20日発行)という書籍において,「青丹よし」の由来について,「幕末嘉永のころ,下御門町東側に興福寺の大乗院や中宮寺の御用をつとめていた菓子屋藤原直次がいた。粳米を炒(い)って粉にし砂糖をまぜてかため,四角にきった炒米糖,おなじようなものにゴマをかけた真砂糖という菓子をつくっていた。たまたま有栖川熾仁親王中宮寺で,これらの菓子の妙味をほめ,これからは青と赤の二色をつくり,白雲(雪あるいは霞との説もある)を入れて短冊形にせよ,菓子名は『青丹よし』とすることを教えられたという。直次はさっそくそのような菓子をつくり,南都はもちろん京都でも好評を得た。」との記載があり,明治時代には奈良の多くの菓子屋において製造されており,「青丹よし」について「明治19年,南玉堂は登録商標を申請したが,もうそのころは奈良の町の多くの菓子屋でつくられていたため許可されないありさまであった。」と記載されている(乙1)。「日本の名菓」(昭和60(イ) 年2月1日発行),「和菓子の一流品年鑑’90」(平成2年発行)及び「美味探訪日本のお菓子」(同年発行)という各雑誌並びに京菓子協同組合事務局が開設するウェブサイトにおいても,「青丹よし」は,有栖川宮命名した銘菓として,また被告竹村の製造販売する菓子として紹介されている(乙4,13,14,15)。


(ウ) 「日本国語大辞典第二版」(平成12年発行)において,「青丹よし」が「菓子の名。片栗と砂糖を原料として,短冊形に押し固め,表面に斜めに白いかすり引きの模様をつけたもの。奈良の名物。」と説明されている(乙6)。また,「角川茶道大事典(普及版)」(平成14年発行)において,「青丹よし」が「奈良の枕詞として詠まれる『青丹よし』を銘とする菓子。昔は白色で,江戸中期,有栖川宮中宮寺に御仮泊の時献上したもの。青と紅の二色に白い雲が散らされている。」と説明されている(乙8)。


(エ) 昭和9年当時,奈良市内の菓子製造業者は,いずれも「青丹よし」という名称を使用して「青ト赤トノ二色ヲ一組トナシタル落雁ト同種ノ干菓子」を販売していた(乙2)。


(オ) 今日に至るまで,「青丹よし」という名称そのものについて商標登録が認められた例はない(甲24,25,乙2,9〜11)。


イ上記認定した事実によれば,「青丹よし」は,幕末又は江戸時代中期に有栖川熾仁親王ないし有栖川宮命名したものと伝えられ,その後,主として奈良市内において複数の菓子業者によって広く製造販売されてきた「青と赤との二色を一組にした落雁と同種の干菓子」であり,その名称は奈良において製造販売されるこの種の干菓子に広く付せられてきたものである。そして,「青丹よし」という名称そのものについて商標登録が認められた例はないことからすれば,「青丹よし」という名称そのものが特定の業者の製造した上記干菓子を表示する機能を有しているとは認め難い。まして,原告の製造販売する上記干菓子として出所識別力を獲得したと認めるに足りる証拠は全くない。


 この点,原告は,原告と被告らは,昭和26年に共同で「青丹よし」に係る商標登録出願し,昭和28年5月8日に登録されて以降,昭和58年に至るまで商標権を維持してきたことをもって,「青丹よし」には出所識別力があると主張する。


 しかしながら,証拠(甲24,25)によれば,当該登録に係る商標は,「青丹よし」の文字のみではなく,その上部に「南都名産」との文字を十字に配して草の模様で囲った図形と相まって成る商標であり,「青丹よし」そのものに出所識別力が認められたわけではないのであるから,原告の主張は採用できない。


ウ 以上のとおり,「青丹よし」との部分の出所識別力はきわめて弱いといわざるを得ない。したがって,被告らの主張するように「青丹よし」が普通名称又は慣用名称とまで認められるか否かはともかく,同部分は本件商標の要部たり得ないことは明らかであって,同部分と「献上銘菓」という文字を十字に配して草の模様で囲った図形(上部図形)及び「鶴屋徳満」という製造元の表示等と相まって初めて出所識別力が生じるものというべきである。また,本件商標において商品の出所を識別するものとして需要者の注意を引くのも,これらの部分にあるといえる。したがって,本件商標の要部は,本件商標全体又は本件商標中央部の「青丹よし」の文字に加えて,上部図形及び左下部の「鶴屋徳満」の文字の全体にあると解するのが相当である。


(2) 以上を前提に,以下,被告各標章について,本件商標と類似するかどうかを検討する。

ア被告標章1について

 被告標章1は,「青丹よし」との明朝体風の文字を斜体で縦に配したもののみで構成されるところ,本件商標における毛筆体風の「青丹よし」と字体が異なる上,被告標章1には本件商標における上部図形及び「鶴屋徳満」との部分が存在しない。よって,外観において被告標章1と本件商標とは類似しない。


 被告標章1は「あおによし」との称呼を生ずるのに対し,本件商標は,「けんじょうめいかがんそとうろくしょうひょうあおによしつるやとくまん」又は「けんじょうめいかあおによしつるやとくまん」などとの称呼を生ずるものであるから,称呼において被告標章1は本件商標と類似しない。


 被告標章1の観念は,単に「青丹よし」というのみであるところ,本件商標からは「鶴屋徳満が製造した青丹よしという銘菓」という観念を生じさせるから,観念においても,被告標章1は本件商標と類似しない。


 このように,被告標章1は,本件商標と,外観・称呼・観念のいずれも類似しない。


イ被告標章2について

 被告標章2は,中央に大きく「青丹よし」という文字を配し,その上部に「南都名産」という文字を十字に配して草の模様で囲んだ図形を配し,「青丹よし」の文字の右上には比較的小さく毛筆体で「御銘」と,左下に比較的小さい文字で長方形で囲った中に「登録商標」との文字を配しているものである。このように,被告標章2は,同図形中の文字の配置及び模様の外観において本件商標の上部図形と類似する部分があることが認められ,また,毛筆体で書した「青丹よし」や,被告標章2の左下部に文字が配されている点は,本件商標と同様の構成を取っているものといえる。


 しかしながら,被告標章2は,その上部にある草模様に囲まれた文字が「南都名産」であり,本件商標の「献上銘菓」とは異なる上,「青丹よし」の左右に配された文字が本件商標とは異なるから,本件商標と外観において類似しているとはいえない。


 本件商標は,「けんじょうめいかがんそとうろくしょうひょうあおによしつるやとくまん」又は「けんじょうめいかあおによしつるやとくまん」などとの称呼を生ずるのに対し,被告標章2は,「なんとめいさんおんめいあおによしとうろくしょうひょう」又は「なんとめいさんあおによし」などという称呼を生じるから,称呼において類似しているともいえない。


 また,被告標章2では,製造者の表記がなされていないので,その観念は「南都名産である青丹よし」というにすぎず,本件商標における「鶴屋徳満が製造した青丹よしという銘菓」という観念とは異なるといわざるを得ない。


 このように,本件商標と被告標章2とは,外観において一部共通点が認められるものの,称呼及び観念において全く異なり,出所の誤認混同を生じる余地はないというべきである。よって,被告標章2が本件商標と類似するとは認められない。


ウ被告標章3について

 被告標章3は,「青丹よし」という文字を毛筆体風に縦に配したもののみから成り立っていて,本件商標における「青丹よし」との部分と外観上共通するところがある。しかし,被告標章3には,本件商標における上部図形も「鶴屋徳満」との文字もないことから,外観において本件商標と類似しているとはいえない。


 被告標章3の称呼は「あおによし」であるのに対し,本件商標の称呼は,「けんじょうめいかがんそとうろくしょうひょうあおによしつるやとくまん」又は「けんじょうめいかあおによしつるやとくまん」であるから,称呼において被告標章3と本件商標とは類似しない。


 被告標章3の観念は,単に「青丹よし」というのみであるところ,本件商標の観念は「鶴屋徳満が製造した青丹よしという銘菓」というものであるから,観念においても本件商標とは類似しない。


 このように,本件商標と被告標章3とは,外観・称呼・観念のいずれも類似せず,両者には出所の誤認混同を生じ得る余地はない。よって,被告標章3が本件商標と類似するとは認められない。


エ被告標章4について

 被告標章4は,色彩,字体を問わず,「青丹よし」なる文字のみを指すものであるところ,被告標章3と同様,本件商標とは外観(被告標章3の「青丹よし」は本件商標と同様に毛筆体であるのに対し,被告標章4の「青丹よし」は色彩,字体を問わないというのであるから,その類似性の隔たりは被告標章3よりも大きい。)・称呼・観念とも類似しないことが明らかである。したがって,被告標章4が本件商標と類似するとは認められない。


(3) 以上からすれば,被告各標章は,いずれも本件商標と類似するものとはいえないから,これを菓子又はその包装に付し,また,これを付した菓子又はその包装を販売等する被告らの行為は本件商標権を侵害するものとは認められない。


2 結語

 以上の次第で,原告の請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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