●平成17(ワ)3846不正競争防止法に基づく差止等請求事件「営業秘密」

 本日は、『平成17(ワ)3846 不正競争防止法に基づく差止等請求事件 平成20年03月13日 名古屋地方裁判所 民事第9部』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080709181310.pdf)について取上げます。


 本件は、不正競争防止法に基づく差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、プライスリスト等が,有用性,秘密管理性及び非公知性を有しており,不正競争防止法2条6項の営業秘密に当たる、と判断されており、この点で参考なる事案です。


 つまり、名古屋地裁(民事第9部 裁判長裁判官 松並重雄、裁判官 前田郁勝、裁判官 片山博仁)は、


1 本件プライスリストに係る不正競争行為について

(1) 争点アについて

ア 有用性について

(ア) 本件プライスリストは,原告が本件各製品番号のロボットシステムにつきその構成ユニット別の製造コスト及び構成部品を明確にするため,部品の仕入れを行う調達部において,「ユニット」,「分類」,「品名/部品番号」,「メーカー/材質」,「型式」,「数量」,「発注先会社名」,「納入日付」,「金額」をコンピューターに入力して保管していたデータである。


 同業他社が本件プライスリストを見れば,本件各製品番号のロボットシステムについて,その構成ユニット別に,どのような市販部品(汎用部品)が使用されたか,その仕入先及び仕入単価が分かり,また,外注部品(特製部品,特注部品)についても,本件プライスリスト上に記録された「品名/部品番号」によってはそれがどのような部品であるかが分からないとしても,どの外注先から仕入れているものであるかが分かるから,これらの情報は,ロボットシステムを設計,製造,販売する同業他社にとって,汎用部品及びその仕入先,外注部品の外注先を選択する上において,また,当該仕入先,外注先との価格交渉をする上において,有益な情報であると認められる。


(イ) 原告は,本件プライスリストにより,原告のロボットシステムの基本的構造が分かると主張するが,本件プライスリストからは外注部品がどのような部品であるかは分からないし,また,用いられた汎用部品及び外注部品が分かったとしても,その情報のみからロボットシステムの基本的構造が分かるとは認められない。


(ウ) また,原告は,本件プライスリストにより,ロボットシステムの見積り,受注に当たって原告より優位に立つことができると主張する。


 しかし,本件プライスリストは,汎用部品及び外注品の仕入価格が記載されているにすぎないものであって,見積額は,仕入価格のみならず,市場における類似商品の価格状況,当該販売先との取引経緯及び将来の販売見込み等の具体的な諸事情を基にして算定されるものであるから,本件プライスリストに係る情報を入手したとしても,そのことから直ちに原告の見積額を一定の精度をもって推知できることにはならない。


 原告のSI事業部の営業課長を勤めた経験を持つT(昭和11年▲月▲日生。)は,証人尋問において,N及びMの見積書を作成する際,従前の見積書を参考にしたこと,本件訴訟のためにプライスリストを印刷してもらったほかは,自分自身であるいは他の従業員に依頼してプライスリストを印刷したことはない旨述べているのであって,原告の社内においても,見積書を作成する際にプライスリストの情報が有用なものとして用いられていなかったものと認めるのが相当である。


 したがって,本件プライスリストにより,ロボットシステムの見積り,受注に当たって原告より優位に立つことができるとは直ちに認められない。


(エ) 以上によれば,本件プライスリストは,同業他社が,本件各製品番号のロボットシステムと同種のロボットシステムを設計,製造するに当たり,その汎用部品及びその仕入先,外注部品の外注先を選択する上において,また,当該仕入先及び外注先との価格交渉をする上において,有用性があるものと認められる。


イ 秘密管理性について

 不正競争防止法が事業活動に有用な情報につき営業秘密として保護されるための要件として「秘密として管理されている」ことを挙げている(2条6項)のは,当該情報が営業秘密として客観的に認識できるように管理されているのでなければ,当該情報の取得,使用又は開示行為が不正競争行為に当たるか否かが明らかでなくなり,経済活動の安定性が阻害されることを理由とするものと解される。


 このことからすれば,「秘密として管理されている」とは,当該営業秘密について,従業員及び外部者から認識可能な程度に客観的に秘密としての管理状態を維持していることをいい,具体的には,当該情報にアクセスできる者が制限されていること,当該情報にアクセスした者が当該情報が営業秘密であることを客観的に認識できるようにしていることなどが必要と解され,要求される情報管理の程度や態様は,秘密として管理される情報の性質,保有形態,企業の規模等に応じて決せられるものというべきである。


 以下,上記観点から,本件プライスリストの営業秘密性について検討する。


(ア) 証拠(甲13,35,乙ロ7,証人U,証人T)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


 原告においては,産業用ロボットの設計,製造及び営業の業務を,ロボットシステム部門(平成15年11月以降は「SI事業部」と呼ばれていた。なお,「SI」はシステムインテグレーションの略)が取り扱っており,SI事業部は技術部と営業部に分かれ,技術部は更に設計部門と製造部門に分かれていた。なお,平成17年11月に組織の大幅な改変が行われ,各事業部門の営業部を統合して営業本部が設けられたが,営業本部には,各事業部門に応じた営業課が設けられていた。


 また,特製部品や市販部品の仕入れは調達部が担当していた。


 プライスリストは,調達部がコンピューター上のデータとして作成,管理していたところ,このデータは,調達部の者のほか営業部及び一部の機械設計部門の者のみが,共通のパスワードを入力することによってパソコンからこれを見たり,印刷したりすることができた。なお,営業部の従業員は,O営業部長からメールでそのパスワードを通知されたところ,このパスワードが変更されたことはなく,営業部の従業員の中には,パソコンに当該パスワードを記載した付せんを貼っている者もいた。


 プライスリストを印刷する際は部門責任者の許可を要し,その利用が終わり次第廃棄する建前になっており,朝礼において,時々,そうしたプライスリスト及びその印字用紙の管理を厳重にするように注意されることがあった。もっとも,プライスリストが業務上の秘密事項に該当することを定めた文書や,その管理方法を定めたマニュアルもなく,プライスリストを印刷したものに「社外秘」等の押印をする取決めはなかったし,営業部門の従業員の中には,プライスリストを印刷したものを廃棄しないでそのまま保管している者もいた。


(イ) 上記事実関係によれば,プライスリストは,原告の従業員の中で限られた調達部,営業部及び機械設計部の者しかアクセスできない上,アクセスする際にはパスワードを入力することが求められ,印刷する際には部門責任者の許可を要するものとされていたことに加え,プライスリストは機械製造メーカーにとって一般的に重要であることが明らかな仕入原価等の情報が記載されており,プライスリストの外部への提示や持ち出しが許されていたという事情は認められないのであるから,パスワードが変更されず,パソコン上にパスワードを記載した付せんを貼っている者がいたことや,秘密管理の方法を定めたマニュアルがなく,印刷したものに「社外秘」等の押印をする取決めがなかったとしても,プライスリストは,従業員にとってそれが営業秘密であることを客観的に認識することができたものと認められる。


 したがって,本件プライスリストは秘密管理性を有するものと認められる。


ウ 非公知性について


 本件プライスリストは,原告が,製造販売した本件各製造番号のロボットシステムにつきその構成ユニット別の製造コスト及び構成部品を明確にするため作成したものであり,その情報が刊行物に記載されていたとか公然と知られていたような事情は認められないから,非公知性を有していると認められる。


エ 以上によれば,本件プライスリストは,原告の営業秘密であると認められる。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。