●平成20(行ケ)10020審決取消請求事件 特許権「自毛活用型かつら」

 本日は、『平成20(行ケ)10020 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「自毛活用型かつら及び自毛活用型かつらの製造方法」 平成20年06月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080630164545.pdf)について


 本件は,拒絶査定に対する審判請求をしたが,特許庁が補正を却下し請求不成立の審決をしたため、その取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、複数の請求項のうち、一の請求項に拒絶理由があることを理由として出願全体を拒絶した審決での判断等が、従前通り、支持されました。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


8 取消事由5(請求項2以外の請求項に係る発明についての審理不尽)について

(1) 本願に適用される平成14年法律第24号による改正前の特許法49条は,次のとおり規定している。


「審査官は,特許出願が次の各号の一に該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。

1 (省略)

2 その特許出願に係る発明が第25条,第29条,第29条の2,第32条,第38条又は第39条第1項から第4項までの規定により特許をすることができないものであるとき。

3〜7 (省略)」


 また,特許法51条は,次のとおり規定している。


「審査官は,特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならない。」


(2) 以上の規定によれば,特許法は,特許出願ごとに,その出願に係る発明について特許法29条等により特許をすることができないものが存するときは,拒絶の査定をし,そのような拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならないと規定していると解することができる。


 したがって,その出願に係る発明中に特許法29条等により特許をすることができないものが存するときは,その特許出願は全体として拒絶されることになるのであって,その理は,審査官による審査においても拒絶査定不服審判においても異なるところはないものと解される。


(3) そして,上記(2)のように解したからといって,特許法1条が規定する発明保護の目的や衡平の原則に反することはないし,民法1条2項及び民訴法2条に定められている信義誠実の原則に反することもない。拒絶査定を受けた出願人は,基本手数料に加え,請求項数に一定額を乗じた金額を納付しなければ拒絶査定審判を受けることができないこと(特許法195条2項別表「11」)は,特許がされる場合にすべての請求項について審理判断がされることに対応するものであって,上記(2)の解釈が信義誠実の原則に反することを基礎付けるものではない。


 また,上記(2)のように解したからといって,特許法49条が定める拒絶理由がなければ,その出願に係る発明すべてについて特許を受けることができるのであるから,「密接に関連する一群の発明をもれなく一つの出願に含めて記載することができるように」し,「単一性の要件を満たす限り,同一発明か別発明かの区別をなくすることによって出願手続の簡明化等を図ることができるようにする」との多項性の趣旨が没却されるとも解されない。特許庁の審査基準(甲22)では,「拒絶査定に際しては,解消されていないすべての拒絶理由を示すとともに,その拒絶理由がどの請求項に対して解消されていないのかがわかるように,簡潔かつ平明な文章で記載する。」とされており,また審査ハンドブック63.06には「拒絶の理由を発見しない請求項を含む出願について拒絶理由を通知する場合には,…拒絶の理由を発見しない請求項を明示する」と記載されているとしても,これらの扱いは,拒絶理由通知及び拒絶査定において出願人の便宜を図る観点から規定されたものと解され,上記(2)のように解することを左右するものではない。


 さらに,原告らは,上記(2)のように解すると,無用な分割手続が増えて審判経済,訴訟経済に反するとか,審決時に各請求項ごとの判断が明記されていれば,分割出願について審査請求をしないという選択肢も考えられるとも主張するが,既に述べた特許法の解釈からすると,一部の請求項に拒絶理由があるために特許出願全体が拒絶されることを避けるために分割出願の手続を採ることは,出願人にとって有用な方法であって,それをもって審判経済,訴訟経済に反するということはできないし,また,審決時に各請求項ごとの判断が明記されていれば,分割出願について審査請求をしないということがあり得るかもしれないが,特許法は,そのような目的のために審決において請求項すべてについて判断をするとの制度を採用しているものではないことは明らかである。


(4) 以上のとおりであるから,本件において,審決が本願の請求項のうち請求項2についてのみ拒絶理由があるかどうかを判断して,請求不成立の審決をしたことに,審理不尽の違法があるということはできない。


 なお,拒絶査定不服審判において,審理終結通知がなされた後に出願人から補正案が提示された場合に,特許庁が,それについて補正を行う機会を出願人に与えるべき法的義務はないと解されるから,本件において,原告らに対して審理終結通知がなされた後に補正の機会が与えられなかったとしても,そのことをもって違法な手続ということはできない。

(5) したがって,取消事由5の主張も理由がない。


9 結論

 以上のとおり原告ら主張の取消事由はすべて理由がない。


 よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


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●『ハイテク大手、訴訟狙いの特許対策で団結〜グーグルやHP、トラストを結成』http://www.usfl.com/Daily/News/08/07/0701_021.asp?id=61872
●『特許制度調和で作業加速=洞爺湖サミットで合意へ−G8』http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2008070100836
●『特許庁から説明を聴取−イノベーション知財政策の提言案/知的財産委員会企画部会』http://www.keidanren.or.jp/japanese/journal/times/2008/0703/05.html
●『iPS細胞:知的財産権管理会社を設立 京大など』http://mainichi.jp/select/biz/news/20080704k0000m040109000c.html
●『iPS特許活用の会社設立を発表 京都大』http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200807030068.html