●平成20(行ウ)82 却下処分取消請求事件 意匠権「腕時計用側」

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 さて、本日は、『平成20(行ウ)82 却下処分取消請求事件 意匠権 行政訴訟「腕時計用側」平成20年06月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080627163338.pdf)について取り上げます。


 本件は、原告が意匠登録出願をした際,当初,パリ条約による優先権主張の手続をせず,その後,同日中に,優先権主張に必要な事項を追加する手続補正をし,さらに後日,優先権証明書提出書を提出したのに対し,特許庁長官が原告に対して前記の手続補正(書)に係る手続を却下する処分及び前記の優先権証明書提出書に係る手続を却下する処分をしたことから,原告が被告に対し,これらの処分について,意匠法15条1項で準用される特許法43条1項,意匠法60条の3の解釈及び運用を誤った違法がある旨主張しその取消しを求め、棄却された事案です。


 本件では、パリ条約による優先権主張の手続は、同日であっても出願と同時にしか認められず、願書の補正によっても認められないと判示した点で、参考になる事案かと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 平田直人、裁判官 柵木澄子)は、

1 パリ条約による優先権主張の手続

 パリ条約4条D(1) の規定により意匠登録出願について優先権を主張しようとする者は,その旨並びに最初に出願をしたパリ条約の同盟国の国名及び出願の年月日(所定事項)を記載した書面(主張書面)を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出しなければならない(意匠法15条1項による特許法43条1項の準用)。もっとも,この主張書面の提出については,意匠登録出願の願書にこの所定事項を記載することにより,その提出を省略することができる(意匠法施行規則19条3項による特許法施行規則27条の4第1項の準用)。この省略をする場合の意匠登録出願の願書については,意匠法施行規則様式第2に定める様式に従い(同規則2条1項),「【代理人】」の欄の次に,「【パリ条約による優先権等の主張】」の欄を設け,「【国名】」,「【出願日】」などの所定事項が記載されることになる(同規則様式第2〔備考〕32)。


 そして,電子情報処理組織を使用して行うことができる特定手続(特例法3条)として,意匠登録出願(特例法施行規則10条3号)の手続のほか,意匠法15条1項において準用する特許法43条1項の規定による主張書面の提出(特例法施行規則10条12号)の手続が掲げられ,電子情報処理組織を使用して,パリ条約による優先権を主張することができる。ただし,この場合には,主張書面の提出に代えて,意匠登録出願の願書に所定事項を記録することが必要であるとされている(特例法施行規則12条)。


 なお,優先権の主張をした者が所定の手続をしないときは,優先権の主張は,その効力が失われることになる(意匠法15条1項による特許法43条4項の準用)。


2 パリ条約による優先権の効力と手続違背

 ところで,パリ条約による優先権とは,パリ条約の同盟国の第一国に出願した者が他の同盟国(第二国)において出願するについて,一定期間に限り,先後願の関係,新規性等の判断の基準日としての出願日を第一国出願の日に遡らせることができる特別な利益である。この優先権は,第一国における最初の出願によって,観念的,潜在的に発生するといえるものの,優先期間内に第二国において出願する際に,優先権を主張することによって,初めて現実的な効力を生ずるものであると解される。


 このように,パリ条約による優先権は,先願主義の例外事由となり,新規性等の判断の基準日を遡らせるなど,その効果が第三者に与える影響は大きく,第二国における出願の際に主張することによって,現実的な効力が生じるものであることから,優先権主張の手続については,前記1のとおりの方式が要求されるものである。


 そうすると,出願の際の優先権主張の手続において,要求される方式を充たしていない場合には,その主張に係る優先権の効力が生じていないものといわざるを得ない(東京高裁平成8年(行コ)第115号平成9年4月24日判決参照)。


3 本件出願と本件補正による優先権主張

(1)原告によって電子情報処理組織を使用して行われた本件出願の願書には,「【パリ条約による優先権等の主張】」の欄が設けられておらず,「【国名】」,「【出願日】」などの所定事項が一切記録されていないものであるから(甲1の1),原告による出願の際の手続においては,前記1のとおりの要求される方式を充たしていないことが明らかである。


 ところが,原告は,本件出願と同日で本件出願から2時間17分後に,本件出願の手続の補正として,電子情報処理組織を使用してパリ条約による優先権の主張に必要な所定事項を追加する本件補正の手続を行っているため,これによって優先権の主張の手続が適法に行われたものということができるか否かが問題となる。


(2)特許法43条1項の「同時に」の意味

ア 原告は,意匠法15条1項で準用する特許法43条1項の「同時に」とは「同一日に」と解すべきであり,「同一日に」手続が行われれば,特許法43条1項の「同時に」といえるのであって,これを,「まさにその時刻に」として時間的なずれを許さないものと解することは失当である旨主張する。


 しかしながら,「同時に」とは,「二つ以上のことがほとんど同じ時に行われるさま。まさにその時。いちどきに」(広辞苑第六版)を意味する言葉であり,言葉の通常の用法において,「同一日に」とは異なる意味で用いられていることは明らかである。意匠法及び特許法においても,「同一日に」を意味する場合には「同日に」の文言が用いられている(意匠法9条2項,特許法39条2項)。


 そうである以上,特許法43条1項の「同時に」の文言を,原告の主張するように「同一日に」と解釈することは,そのように解すべき特別の事情が認められない限り許されないというべきである。

イ 原告は,その解釈の根拠として,パリ条約の文言や,特許法43条1項が優先権の主張を出願と「同時に」しなければならないと定めた趣旨(権利関係の安定,先願主義との関係)を挙げる。


(ア)すなわち,原告は,パリ条約4条D(1) の文言について,フランス語正文では「moment」の語が,英語の公定訳では「date」の語が,スペイン語の公定訳では「plazo」の語がそれぞれ使用されており,これらの文言は,優先権の主張の期限を日単位で判断することが条約に忠実な解釈であることを示している旨主張する。


 しかしながら,パリ条約4条D(1) は,「最初の出願に基づいて優先権を主張しようとする者は,その出願の日付及びその出願がされた同盟国の国名を明示した申立てをしなければならない。各同盟国は,遅くともいつまでにその申立てをしなければならないかを定める。」と規定し,各同盟国に優先権主張の時期的な終期の定めを委ねており,その結果,我が国においては,特許法43条1項で「同時に」と定めたものであるから,その解釈は,あくまで国内法の問題である。終期の定めを各同盟国に委ねた条項であるパリ条約4条D(1) のフランス語正文,英語訳やスペイン語訳の文言からは,各同盟国が優先権の期限を日単位で定めることを妨げるものではないとの趣旨を読み取ることはできても,我が国の特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈すべきであるとの趣旨まで読み取ることはできない。


(イ)原告は,実質論として,原告の意匠登録を受ける権利及び優先権と,想定される第三者の被る不利益との間の考量をした上,原告がこれらの権利や利益の制限を受けるに値するような第三者の不利益はない旨主張する。


 しかしながら,当該優先権による基準時より後の日で,当該出願より前の日までに同一発明の出願を完了した第三者は,出願と「同時に」されなかった優先権主張の手続が事後的に適法な手続と扱われることによって,優先順位が覆ることになる不利益を被ることになる。当該出願の後,同一日中に当該優先権主張の手続がされる前に出願した第三者も,同日出願人の地位(協議成立により特許を受け得る地位)が,出願と「同時に」されなかった優先権の主張が事後的に適法な手続と扱われることによって,失われることになる不利益を被ることになる。第三者の被るこれらの不利益は,到底看過し得るようなものではなく,原告の主張する実質論は,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈することの根拠とはなり得ないことが明らかである。


(ウ)原告は,意匠法や特許法における先願の定め(意匠法9条,特許法39条)を援用して,「日」単位で先願主義が運用されているから,日単位で考えても不都合はない旨指摘する。


 しかしながら,上記先願の定めが,同日の出願について時間の先後によることなく協議制度を定めているのは,時間の先後関係をも審査の対象とすることにより手続が煩雑になることを避けるという事務処理上の効率を考慮したことによるものにすぎず,このような取扱いをしていることと,特許法43条1項の「同時に」の文言を「同一日に」と解釈することとの間には,何らの関連性も見出すことができない。


(エ)仮に,原告の主張のとおり特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈すると,「同時に」と定める他の規定(例えば,意匠法4条3項,14条2項,17条の3第3項など)との関係において,整合的な理解をすることが困難となる。


(オ)(ア)ないし(エ)で述べたところによれば,原告の上記主張はいずれも採用することができず,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈すべき特別の事情があると認めることはできない。


ウ 以上のとおりであるから,本件補正によって優先権の主張の手続が適法にされたものということはできず,本件出願については,全く優先権の主張の手続が行われていないといわざるを得ない。


 したがって,本件各処分につき,意匠法15条1項で準用される特許法43条1項の解釈及び運用の誤りがあるということはできない。


(3)意匠法60条の3の意匠登録に関する手続

 本件出願について,前記(2)のとおり,本件補正によって優先権の主張がされたものということはできないから,原告はパリ条約による優先権主張の手続を適法にしていないというほかはない。


 そうすると,原告は,優先権の主張に係る意匠登録に関する手続をした者に当たらず,同手続の補正を行い得る者には当たらない。


 したがって,本件各処分につき,意匠法60条の3の解釈及び運用の誤りがあるということはできない。


(4)まとめ

 以上によれば,本件各処分には,?意匠法15条1項で準用される特許法43条1項及び?意匠法60条の3の解釈及び運用を誤った違法事由は認められない。


4 結論

 以上のとおりであるから,原告の請求は,いずれも理由がない。

 よって,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。