●平成19(行ケ)10405 審決取消請求事件 商標権「弦楽器(部品及び

 今日は、午後から弁理士会の研修の「PCT制度に関するトピックス」を受講してきました。


 PCT制度の概略や、来月(来週)の7/1からの規則改正、来年1/1からの規則改正、また、国内出願の審査の結果の相当部分を国際調査報告に利用できる場合の調査手数料の一部(41,000円)を返還する『国際調査手数料の一部返還について』(http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/t_tokkyo/kokusai/researching_fee_return.htm)等の説明があり、とても参考になりました。


 さて、本日は、『平成19(行ケ)10405 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「弦楽器(部品及び附属品を除く。)」平成20年06月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080624154521.pdf)について取り上げます。


 本件は、立体商標について商標登録出願の拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法3条1項3号および同条2項による立体商標の登録についての判断基準を示しており、この点で参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


『 当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について

(1) 立体商標における商品等の形状

ア 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定する(商標法2条1項,5条2項参照)。


 ところで,商標法は,3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を,同条2項で「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を,4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を,26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨を,それぞれ規定している。


 このように,商標法は,商品等の立体的形状の登録の適格性について,平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが,同法4条1項18号において,商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を受けられないものとし,同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと,商品等の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される。


 そうすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感を追求する目的により選択される形状であっても,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。),また,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。


イ 以上を前提として,まず,立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。


(ア) 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。


 また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。


 そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。


(イ) また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。


 しかし,同種の商品等について,機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,同号に該当するものというべきである。


 けだし,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである。


(ウ) さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである。


 けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美感の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,商品等の形状について,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。


(2) 本願商標の商標法3条1項3号該当性

ア ギターの種類及び構造について

 本願商標は,弦楽器(部品及び附属品を除く)を指定商品とするものである。証拠(乙1の1ないし6)によると,弦楽器に含まれるギターの種類及び構造は,下記のとおりと認められる。


 ・・・省略・・・


 上記のとおり,本願商標の各特徴は,いずれも商品の機能又は美感に資することを目的とするものであり,ギターのブリッジについて採用される場合に,通常予測される範囲内の形状といえる。また,前記ア認定のとおり,弦楽器に含まれるギターにおいて,需要者の目を惹くのはブリッジよりも,むしろギターの大部分を占めるカッタウェイを施したボディ部やヘッド部(メーカーの名称等が記載される場合が多い。)であるといえる。


 したがって,本願商標を指定商品「弦楽器」に付した場合に,需要者は,本願商標を,専ら上記指定商品を構成するブリッジであると認識し,指定商品の出所を表示する標識と認識することはないと解するのが自然である。


 なお,原告は,本願商標に係る指定商品は,「弦楽器(部品及び附属品を除く。)」であり,ブリッジ等の部品,附属品は除外されているにもかかわらず,審決が,商標法3条1項3号該当性の判断に当たり,「弦楽器用駒(ブリッジ)」との関係において判断した点に誤りがあると主張する。


 しかし,前記アで認定したとおり,本願商標が弦楽器のブリッジとしてごく一般的に採用し得る範囲内の形状のものであること,「弦楽器」(例えばギター)には,ボディー,ヘッド等と共に,ブリッジも構成要素であること,そうすると,ブリッジを構成要素とする「弦楽器」の商標としてもごく一般的に採用される形状といえることは前記説示のとおりである。したがって,審決は,商標法3条1項3号該当性の判断に当たり,その指定商品「弦楽器」との関係において判断したものであるといえる。原告のこの点の主張は失当である。


エ 以上のとおりであるから,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられ方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。


2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について

(1) 立体商標における使用による自他商品識別力の獲得


 前記1(1)アのとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している(商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条1項18号)。


 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。


 そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要する。


 もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり,また,技術の進展や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,企業等の名称や記号・文字が付されたこと,又は,ごく僅かに形状変更がされたことのみによって,直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されていることやごく僅かな形状の相違が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。


(2) 本願商標の商標法3条2項該当性


 原告は,本願商標は,有名な「ゼマティスギター」のブリッジとして1978年(昭和53年)以降現在に至るまで使用され,「ゼマティスギター」の識別商標となっているので,商標法3条2項に該当する旨主張する。


 証拠(甲15ないし29,31ないし33)によれば,本願商標とほぼ同一形状のブリッジが,1978年以降「ゼマティスギター」に使用されていることが窺える。


 しかし,上記文献は「ゼマティスギター」の歴史を写真入りで掲載し紹介したものであって,一般雑誌ではないこと,上記文献を子細に検討しても,需要者の目につき易く強い印象を与えるのは,菱形図形に囲まれた「ゼマティスギター」の頭文字の「Z」又は「ZEMAITIS」を刻印したヘッド(甲18,21,23ないし28)や「A.C.ZEMAITIS」の刻印のあるカッタウエイを施したボディ全体(甲20,22,23,27)であり,これらと対比するとボディに施された本願商標の形状は目につきにくいものであり,他に需要者が本願商標の形状に着目するとの事情は何ら窺えない。かえって,上記雑誌の裏表紙(甲29,乙9)によると,「ゼマティスギター」のブリッジの形状として本願商標と異なり,花びら様のナットを設けていないものや,花びら様のナットにおいて扇状の図形が8個以上あるものも使用されていたことが推認される。本件全証拠をもってしても,本願商標ないし本願商標が付された「ゼマティスギター」の使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,原告の類似商品に対する対策等の一切は明らかでなく,本願商標が付された「ゼマティスギター」について,需要者への普及度及びその出所を識別する標識がどの点に存在するのかも明らかでない。


 以上によれば,本願商標は,本願商標の付された指定商品について,自他商品識別力を獲得しているということはできず,商標法3条2項に該当しないものというべきである。


3 結論

 以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がない。原告はその他縷々主張するが,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。


 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<気になった記事>

●『次世代無線通信は知財戦略で競う,モバイルWiMAXは特許プール構築へ 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080623/309211/
●『MotorolaやRIMなどに特許訴訟』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/21/news007.html
●『ドコモやノキアら、Symbianベースの共通プラットフォーム開発へ』http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/06/24/20048.html
●『携帯OS共通化へ新団体 ノキアやドコモなど10社』http://www.47news.jp/CN/200806/CN2008062401000852.html
●『音・においを商標に、特許庁検討 2010年の法改正目指す』http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080624AT3S2302L24062008.html