●平成19(行ケ)10409 審決取消請求事件「高度水処理装置及び高度水

 本日は、『平成19(行ケ)10409 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高度水処理装置及び高度水処理方法」平成20年06月23日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080623153753.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、審判段階において新規事項追加として判断された補正が、知財高裁において新規事項追加でないと判断されており、この点で参考になる事案かと思います。


 なお、この点について、出願人である原告は、

『(1) 取消事由1(補正についての判断の誤り)

ア 審決は,本件補正は新規事項を追加するものであるとしてこれを却下したが,この判断は誤りである。


イ 審決は,本件補正が新規事項を追加するものであると判断する前提として,本件補正は,請求項1に「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」という事項を記載することにより,請求項1に係る発明を「処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg〜0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する」という構成(以下「オゾン処理」という。)のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ものを含む発明とするものであると認定した。


 しかしながら,本願補正発明は,「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,」と規定しているように,「ダイオキシン類等の含有量を飲料水レベルにまで浄化する高度水処理方法」という枠組みを設定し,その中でのオゾン処理方法を特定した発明であるから,本願補正発明についての審決の上記認定は誤りである。


ウ 審決は,上記のとおり,本願補正発明についての誤った理解に基づき,「オゾン処理のみにより,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことについて当初明細書等に記載がないことを理由として,本件補正が新規事項の追加を含むものであると判断したものであるから,本件補正を却下した審決の判断は前提を誤ったものである。 』


 と主張し、被告である、特許庁は、


『(1) 取消事由1(補正についての判断の誤り)に対して

ア原告は,審決が本願補正発明についての誤った理解を前提として本件補正を却下した旨主張するが,失当である。


イ審決は,本件補正によって,請求項1記載の発明は,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことが限定されない,もっと広い「高度水処理方法」における「オゾン処理」から,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことが限定された「高度水処理方法」の「オゾン処理」へと実質的に変更されたことで,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する高度水処理方法」として「オゾン処理」単独で行われるものを含むことになったことを認定しているのである。


ウ 審決の上記認定に誤りはないから,審決の本件補正却下の判断に原告が主張する誤りはない。

 なお,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項は新規事項の追加に該当するものであり,この点からも本件補正を却下した審決の判断に誤りはない。 』

 と反論されているようです。


 そして、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 石原直樹、裁判官 杜下弘記)は、


1 取消事由1(補正についての判断の誤り)について

(1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載を再掲すると,以下のとおりである。


ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,

 処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg〜0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する高度水処理方法。」


 これによると,前段部分のいわゆる「おいて書き」によって,本願補正発明が「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法」についての発明であることが示され,後段部分の記載によって,本願補正発明のオゾン処理の具体的な内容を構成として特定しているものと理解することができる。


(2) 審決は,上記の本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載から,本願補正発明は,同請求項の後段に規定した構成のみにより,その前段に規定した「飲料水レベルまで浄化する」発明を含むことになった旨判断するところである。


 そこで検討すると,確かに,審決が指摘するように,前段の規定は本願補正発明の連続処理方式の高度水処理方法が達成しようとする浄化の程度を「飲料水レベル」と規定するところではあるが,後段が規定している技術的事項は,オゾンによる有害物質の酸化分解工程であり,オゾン処理のみにより前段に規定する浄化レベルを達成するものであるか否かについての記載は請求項中に存在しない。


 そして,かかる記載振りに加え,一般に,特許請求の範囲の記載において,当該発明の構成特定事項の記載の前段に置かれる「・・・において,」とするいわゆる「おいて書き」は,発明の属する技術分野や当該技術分野における従来技術を特定するなど,当該発明の前提を示すことを目的として記載される場合が多いことも勘案すると,上記前段部分の記載は,「飲料水レベルまで浄化する」ことを目的とする連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における水処理の一工程としてのオゾン処理に係る発明であると解する余地も十分あり得るのであり,審決のように本願補正発明のみによって上記目的を達成する発明を含むものと即断することは困難であるといわざるを得ない。


 そこで,進んで本件補正に係る手続補正書(甲第10号証)の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,同説明中には以下の記載がある。


・・・省略・・・


 以上の各記載によれば,本願補正発明による汚水の高度水処理方法は,オゾン処理を基本とした高度水処理技術の提供であり,処理対象水の汚染の程度に応じて,オゾン処理に加えて,過酸化水素水処理,電気分解処理,紫外線照射処理,炭化濾材処理等の各種の浄化工程を予定しているものであることは明らかというべきである。そうすると,これらの記載を総合すると,本願補正発明は連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における基本工程としてのオゾン処理に関する発明であると認めるのが相当であり,同補正発明に係る特許請求の範囲の請求項1の前段の記載があるからといって,オゾン処理のみで前段の浄化レベルを達成する発明を包含することになったものでないことは明らかというべきである。


 もとより,上記認定の記載中にもあるとおり,浄化の対象となる処理対象水によって汚染レベルは様々であり,汚染レベルの低い処理対象水については,オゾン処理を行うことによって,「所望の浄化レベル」に到達することもあり得るところである。しかしながら,このことは,本願補正発明のように「飲料水レベルまで浄化」する場合だけでなく,本願発明のように「浄化」する場合においても起こり得ることであり,前者の場合において,「所望の浄化レベル」の内容が若干具体的に記載されているにすぎないものである。


 したがって,本件補正に係る補正事項について,「請求項1に『ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する』という事項を記載することにより,請求項1に係る発明を,オゾン処理のみにより,『ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する』ものを含む発明とするもの」との審決の理解は,誤りであるといわざるを得ない。


 そして,審決は,補正事項についての上記のような誤った理解に基づいて,本願補正発明は,オゾン処理のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」発明を含むところ,かかる発明は当初明細書等に記載された事項の範囲内のものということはできないとし,その余の点を検討するまでもなく,本件補正を却下すると判断しているのであるから,上記に説示したところから明らかなように,審決は本件補正についての判断を誤ったものというほかない。


2 なお,被告は,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項を追加することが新規事項の追加に該当するものでもあると主張するので,念のためにこの点についても検討する(ただし,上記1のとおり,審決は「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項が新規事項となるかどうかについて何ら判断を示していないから,仮に被告の主張が認められても,本件補正を却下した審決の判断が誤りであることに変わりはない。)。


 本件特許出願に係る願書に最初に添付した明細書(甲第4号証。以下「当初明細書」という。)には次の記載がある。
「その一つの処理タイプは,上水道,プール,浴場,河川等のように比較的汚染負荷が低い汚水の高度処理に好適な例で,この例ではオゾン処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理をこの一連の順で行う高度水処理方法及び装置として構成している。なお,紫外線照射処理とは,紫外線照射による脱塩素化反応で,有害塩化物を分解処理するものである。炭化濾材処理とは,特殊濾材により処理対象水中に残存する有害物質を吸着除去するものである。

 ここで処理する汚水は比較的汚染負荷が低いので,オゾン処理で有害物質を殆ど分解処理できるが,オゾン処理を行ってもなお残留する有害物質を紫外線照射処理によって分解するようにしている。そして,紫外線照射処理される処理対象水には,前段のオゾン処理で混入した微細気泡化されたオゾンが含まれているので,酸化力の高いヒドロキシラジカル(OH−)をより多く生成することができ,高い分解処理効果を発揮できる。そして,この後に炭化濾材接触処理を行うことで処理対象水中に含まれるアルミ,ヒ素カドミウム等の重金属類を吸着除去する。これに使用する炭化濾材としては,杉,松,桧等の複数の針葉樹を原料として800℃〜900℃の高温帯で炭化することによって得られた針葉樹炭化濾材を使用すると,非常に吸着効果が高まる。こうした一連の処理を経ると,飲料水レベルまで浄化された水を得ることができる。また,この処理方法及び装置によれば,比較的簡略な処理で十分な処理効果を発揮でき,コストも低廉に抑えることができる。

 また他の処理タイプは,し尿,下水道,農業集落排水等のように比較的汚染負荷が高い汚水の高度処理に好適な例で,この例では過酸化水素水処理,オゾン処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理を,この一連の順で行うようにした高度水処理方法及び高度水処理装置として構成している。なお,過酸化水素水処理とは,液体である過酸化水素水を,処理対象水中に混入する処理であり,過酸化水素水による酸化力で微生物等の殺菌を行い,有害物質を酸化するものである。

 ここで処理する汚水は比較的汚染負荷が高く,し尿を処理する必要性があることから,臭気やし尿残査を処理するための過酸化水素水処理をオゾン処理に先だって行うようにしている。そして,この場合には,処理系内で処理対象水から発生する臭気エアーを,平均粒径が0.01〜0.02mm程度となる気泡として前記過酸化水素水に混入し酸化分解するとよい。臭気エアーを微細気泡化することで,過酸化水素水による酸化分解を高効率で行えるからである。 高効率処理という点では,処理対象水のPH値を8〜10に予め調整しておくとさらに良く,さらに処理対象水中に少なくとも金,酸化銅又は酸化鉄の何れか一つを投入して過酸化水素水による酸化処理を促進させるようにしてもさらに良い。そして,こうした過酸化水素水処理に続けて,上述のようなオゾン処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理を行うことで,処理対象水を飲料水レベルまで浄化することができる。

 さらに,他の処理タイプは,特定工場の排水,廃棄物最終処分場の排水等のように有害な重金属類を含む汚水の高度処理に好適な例で,この例では過酸化水素水処理,電気分解処理,オゾン処理を,この一連の順で行う高度水処理方法及び高度水処理装置として構成している。なお,電気分解処理とは,酸化反応や脱塩素化反応では分解できないアルミ,ヒ素カドミウムその他の重金属類を電気分解により処理するものである。

 ここで処理する汚水は重金属類を含むため,上述の過酸化水素水処理を行ってから電気分解処理を行うようにしている。こうすることで,過酸化水処理を経た処理対象水中に残留している過酸化水素水によって電気分解をより高効率に行うことができる。こうして重金属類を除去した後,上述のオゾン処理を行うことで,処理対象水を飲料水レベルにまで浄化することができる。」(4頁22行〜6頁11行)

「なお,以上のような各処理タイプは一連のものとして構成してあるが,勿論,各処理系に沈殿処理を行う沈殿処理槽を設けるようにし,処理対象水に含まれる不純物を沈殿除去するようにしてもよい。

 また,曝気処理を行って処理対象水に含まれる有機汚濁の生物的処理を行うようにしてもよい。


但し,いずれの場合も本発明の高度水処理装置又は高度水処理方法によって得られる処理水は食品衛生法26項目の飲料水適格水質基準以上の水質を確保したものである。」(6頁24行〜7頁2行)


 これらの記載によると,当初明細書に記載されている「比較的汚染負荷が低い汚水」,「比較的汚染負荷が高い汚水」及び「有害な重金属類を含む汚水」を処理対象水とするそれぞれの「処理タイプ」において,所定の処理を行うことにより,いずれについても「飲料水レベルまで浄化」することができることが記載されているほか,沈殿処理槽を設けるタイプや曝気処理を行うタイプもあり得ることを記載した上,これらのタイプを含め,いずれの場合も「食品衛生法26項目の飲料水適格水質基準以上の水質を確保したものである」と記載されており,この記載は「飲料水レベルまで浄化」と同義であると認められる。


 また,「本発明は,従来の水処理技術のように単にオゾンを利用するだけでなく,より高い処理効果を発揮して人体からの排泄物を通じてダイオキシン類等の有害物質の悪循環を断ち切ることのできるオゾン処理を基本とする高度水処理技術を提供することを目的としている。」(2頁15行〜19行)との記載があることからすると,当初明細書において,本願発明の高度水処理装置及び高度水処理方法の処理対象水における有害物質としてダイオキシン類が記載されているということができるのであり,上記引用に係る記載と併せ読めば,当初明細書には「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことが記載されていたと認められる。


 したがって,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことを付加する補正は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において行うものであるということができる。


第5 結論

 以上のとおりであって,取消事由1は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,本訴請求は理由があり,審決は取り消しを免れない。 』


 と判示されました。


 なお、本判決における新規事項追加の判断は、「除くクレーム」について新たな判断を示した、『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)における、


 『「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。


 と同一のようです。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<気になった記事>

●『マイクロソフトルーセントとの特許訴訟で敗訴、賠償金は5億ドルに増加』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3784
●『MS、手書き認識技術めぐる特許訴訟でAlcatel-Lucentに黒星』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/23/news025.html
●『米国の独禁法機関,Microsoft通信プロトコル・ライセンス供与を評価』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080620/308969/
●『4G携帯規格「日本に期待」…ITU事務総局長』http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20080623nt02.htm
●『どこでもネット「ユビキタス」、日本規格が国際標準に』http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20080501nt01.htm?from=nwlb