●平成18(ワ)5172 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 大阪地裁

 本日は、『平成18(ワ)5172 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 平成20年06月12日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080613132715.pdf)について取り上げます。


 本件は、プログラムおよび顧客情報の取得行為等が営業秘密の不正取得に該当すると認められ、不正競争行為損害賠償などが認められた事案です。


 本件では、プログラムおよび顧客データの営業秘密性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 西理香、裁判官 高松宏之)は、

1 争点(1)ア(ア)(営業秘密性)について

(1) 本件プログラムについて

ア証拠(甲4の1〜4,26,証人P2)によれば,次の事実が認められる。


(ア) 本件プログラムは,原告イープランニングが出会い系サイトを運営する目的でP2が作成した会員制のインターネット掲示板プログラムであり,原告イープランニングが契約しているインターネットサーバー内に格納されており,サイト利用者である会員が携帯電話を用いて原告イープランニングのサイトにアクセスすると,会員専用のメニュー画面が出力され,掲示板への書き込みや相手への返信,料金の支払等ができるプログラムである。


(イ) 本件プログラムは,上記のインターネットサーバー内に格納されているが,それをダウンロードするためには,サーバーへログインするためのIDとパスワードが必要であり,それを有していたのは原告ら代表者とP2のみであった。


(ウ) 原告イープランニングは,平成15年4月以降,合計4社に対して,本件プログラムの使用許諾契約を締結したが,そこでは,(i)被許諾者は使用料を支払うこと,(ii)被許諾者は,プログラムの使用権の譲渡又は再使用の許諾,プログラムの化体した物,関連資料,マニュアル等の複製,プログラムの機密又は知識の漏洩,原告イープランニングの指定したサーバー以外のサーバーにおけるプログラムの使用及びサーバーの設置場所の移転を禁じられていた(なお被告らは,甲第4号証の1ないし4について,被許諾者欄が非開示とされて提出されていることからその信用性を疑うが,その形式及び内容から見て,特にその信用性を否定すべきものとは認められない。)。


イ 上記事実に基づき,本件プログラムが法2条6項の「営業秘密」に当たるか否かについて検討するに,本件プログラムは,出会い系サイトの営業に使用することのできるプログラムで,有償の使用許諾もなされていたものであるから,「事業活動に有用な技術上の情報」であることが認められる。そして,本件プログラムが特に公知になっていたことも窺われないから,「公然と知られていないもの」に当たり,さらに,原告社内でもアクセスできる者が限られていたのであるから,「秘密として管理されている」ものと認められる。


 したがって,本件プログラムは,原告イープランニングの営業秘密であると認められる。


ウ これに対し,被告らは,原告ら代表者やP2によるID及びパスワードの管理が杜撰であったと主張して,本件プログラムの秘密管理性を否定するが,被告らが主張するように,単にIDとパスワードを書いた紙片を机に入れていたとか,それらをパソコンに入れたまま離席することがあったとしても,アクセスできる従業員を制限している取扱いをしていることに変わりはないから,被告らの主張する上記事実をもって秘密管理性を否定することはできない。


(2) 本件顧客データについて

ア証拠(甲25,26,証人P2,原告ら代表者本人)によれば,次の事実が認められる。


(ア) 原告イープランニング及び原告マテリアルが経営する各出会い系サイトは,会員制のものであったが,サイト利用者である会員に関する情報は,原告イープランニングが契約しているインターネットサーバー内にデータベースとして格納されていた。そして,その情報の中には,本件顧客データも存在した。


(イ) 原告イープランニングと原告マテリアルとが運営する各出会い系サイトは異なるが,代表者は同一人であり,双方の従業員が双方の業務を行うなど,両サイトは事実上一体として運営されていた。


(ウ) 本件顧客データのうち,会員登録された顧客のメールアドレスは,勧誘メールや返信メールを送信する宛先となるメールアドレスであり,また,会員の入金額,所有ポイント及び入力前ポイントからは,当該会員がサイトを利用する程度を知ることができる。


(エ) 原告らの従業員には,IDとパスワードが与えられており,社内のパソコンから本件顧客データを含むデータベースにアクセスするには,IDとパスワードが必要であった。


イ 上記事実に基づき,本件顧客データが法2条6項にいう「営業秘密」に当たるか否か検討するに,本件顧客データは,出会い系サイトに会員として登録する顧客のメールアドレスとその利用程度を知ることができる情報であるから,「事業活動に有用な営業上の情報」に当たることが明らかである。


 そして,本件顧客データが特に公知になっていたことも窺われないから,「公然と知られていないもの」と認められ,さらに,本件顧客データにアクセスするためには,IDとパスワードが必要であったのであるから,「秘密として管理されている」ものと認められる。したがって,本件顧客データは,原告イープランニングの営業秘密であると認められる。


ウ 本件顧客データの秘密管理性に関して,被告らは以下のとおり種々の主張をするので,検討する。


(ア) まず被告らは,本件顧客データにアクセスできる従業員は何ら制限されていなかったから秘密管理性がないと主張する。


 確かに被告らが指摘するように,本件顧客データにアクセスできる従業員の範囲と内容についての原告らの主張は変遷を重ねており,原告ら社内において原告らが主張するような系統立ったアクセス制限がとられていたのかについては疑問もある。


 しかし,一般にIDやパスワードを要求する趣旨は,それを知っている者のみを当該情報にアクセスできるようにし,それを知らない者には当該情報にアクセスできないようにする点にある。


 そうすると,たとえ原告ら社内において会員のデータベースにアクセスできる者が制限されておらず,全従業員が会員のデータベースにアクセスすることができたとしても,従業員にIDとパスワードが与えられ,それなしには会員のデータベースにアクセスすることができない措置がとられていた以上,従業員にとっては,原告らが,会員のデータベース中の情報をIDとパスワードを知らない者,すなわち原告らの従業員でない者に対しては秘密とする意思を有していると認識し得るだけの措置をとっていたと認めるに妨げないというべきである。


(イ) また被告らは,原告ら社内では,ID及びパスワードの管理が杜撰で,原告ら代表者らもその管理について何ら注意を与えなかったから,秘密管理性がないと主張する。


 しかし,IDやパスワードというものが上記(ア)で述べた趣旨のものである以上,殊更にその管理について注意を与えなかったからといって,原告らがそれによってアクセスし得る情報を秘密とする意思を有していることが,同情報にアクセスしようとする者に認識できないとはいえない。


 また被告らは,原告ら社内でのID及びパスワード管理の杜撰さの例として,(i)複数のアルバイト従業員で1つのID及びパスワードを共有していたこと,(ii)ID及びパスワードを記載した紙を入力用のパソコンのところに貼って使用していたこと,(iii)入力担当のアルバイト従業員で退職者が出たにもかかわらず,その際にID及びパスワードが変更されることがなかったことを指摘する。


 しかし,(i)については,そのことをもってパスワードの管理が杜撰であったとはいえない。また,(ii)及び(iii)については,仮にそのようなことがあったとしても,原告ら社内でどの程度そのようなことが行われていたのか不明であり(少なくとも(iii)については,同趣旨の被告Y4の供述によっても,一度そういうことがあったというにすぎない。),それらが常態化し,かつ原告ら代表者らがそれを知りながら放置し,結果として原告ら社内におけるIDやパスワードの趣旨が有名無実化していたというような事情があればともかく,そのような事情が認められない限り,なお秘密管理性を認めるに妨げはないというべきである。そして,本件ではそのような事情は認められない。


(ウ) 以上のとおり,本件顧客データの営業秘密性(秘密管理性)を否定する被告らの上記各主張は採用できない。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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