●平成19(ワ)31919 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟

 本日は、『平成19(ワ)31919 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成20年06月11日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080617124232.pdf)について取り上げます。


 本件は、原告が,被告らに対し,被告書籍1及び2が,原告の著作権(複製権,翻案権)を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき当該書籍の販売等の差止め及び在庫品の廃棄,民法709条に基づき損害賠償金及び遅延損害金の支払,並びに著作権法115条(同一性保持権侵害)に基づき謝罪広告を求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、原告の主張は、「アイデア」における同一性を指摘するに過ぎず、複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない、と判断した点で参考になる事案かと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 市川正巳、裁判官 大竹優子、裁判官 中村恭)は、

1 複製,翻案等

 著作権法は,思想又は感情の創作的な「表現」を保護するものである(著作権法2条1項1号)。

 したがって,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁参照)。また,上記の複製にも翻案にも当たらない著作物は,同一性保持権を侵害するものでもない。


2 原告書籍と被告書籍1との実質的同一性について

(1) 旧暦に基づく算出

ア 前提事実(2)イ(ア)によれば,被告書籍1の1は,原告書籍1と表現において全く異なっていると認められ,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。


イ これに反する原告の主張は,「旧暦に従って,毎年の立春から翌年の節分までを1年として区分する」という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず,到底採用することができない。


(2) 「命数」の出し方

ア 前提事実(2)イ(イ)によれば,被告書籍1の2は,原告書籍2と表現において全く異なっていると認められ,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。


イこれに反する原告の主張は,生年月日を構成する数字を順次加算し,1桁の数字になるまで繰り返すという「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず,到底採用することができない。

(3) 具体例

ア 前提事実(2)イ(ウ)によれば,被告書籍1の3は,足し算の数式の部分で同一性を有すると認められないではないが,その部分は創作性のない部分であると認められる。その余の部分では,被告書籍1の3は,原告書籍3と表現において全く異なっていると認められる。よって,被告書籍1の3は,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。


イ これに反する原告の主張は,「命数」の出し方という「イデア」における同一性を指摘するものにすぎず,到底採用することができない。


(4) 「数霊盤」の数の展開

ア前提事実(2)イ(エ)によれば,被告書籍1の4は,原告書籍4と表現において全く異なっていると認められるから,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。


イこれに反する原告の主張は,「数霊盤」の数の展開という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず,到底採用することができない。


(5) 「破壊数」の説明

ア前提事実(2)イ(オ)によれば,被告書籍1の5は,原告書籍5と表現において全く異なっていると認められるから,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。


イこれに反する原告の主張は,「破壊数」の概念という「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎず,到底採用することができない。


(6) 数字の印の付け方

ア前提事実(2)イ(カ)によれば,被告書籍1の6は,破壊数の記号等の部分で,原告書籍6と同一性を有すると認められないではないが,印の付け方として,○や×を採用し,殊に悪いものに×を付することはありふれた表現であると認められるから,上記の箇所での同一性は,創作性のない部分におけるものであると認められる。その余の部分では,被告書籍1の6は,原告書籍6と表現において全く異なっていると認められる。よって,被告書籍1の6は,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。


イこれに反する原告の主張は,×の使用等の創作性のない部分での同一性を指摘するものにすぎず,到底採用することができない。


(7) 数霊簡易暦

ア前提事実(2)イ(キ)によれば,被告書籍1の7は,「節入(日)」,「(生)月数理」,月ごとの「破壊数」の部分で,原告書籍7と同一性を有すると認められるが,占いの方法として旧暦を採用すれば,「節入(日)」が同一となるのは当然の結果であるし,占いの方法として原告と同じ方法を採用すれば,「(生)月数理」,月ごとの「破壊数」の部分で同一となるのは当然の結果であるから,これらの部分での同一性は,「アイデア」などの表現それ自体ではない部分での同一性にすぎないと認められる。


 また,月ごとの「破壊数」等を表形式で,時系列に記載することは,ありふれた表現であると認められる。しかも,被告書籍1の7は,各年を旧暦では前年に属する1月を除外して2月から開始し,原告書籍7には存在する「十二支」や年ごとの破壊数等を有しないなどの点で,原告書籍7と異なっていると認められる。


 よって,被告書籍1の7は,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。

イこれに反する原告の主張は,到底採用することができない。


(8) 破壊数一覧表

 ア前提事実(2)イ(ク)によれば,月ごとの「破壊数」等を表形式で,時系列に記載することは,ありふれた表現であると認められるから,表形式の採用の点で,被告書籍1の8が原告書籍8と同一であると認めることはできない。その余の部分では,被告書籍1の8は,原告書籍8とは,内容においても表現においても全く異なっている。


 よって,被告書籍1の8は,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。

 イこれに反する原告の主張は,到底採用することができない。


(9) 数霊盤

ア 前提事実(2)イ(ケ)によれば,原告書籍9と被告書籍1の9とは,正方形を9等分したマス目に1〜9の数字の配列順序を記入したものである点で共通すると認められるが,原告が主張するとおり,原告書籍9は,1〜9までのすべての数を数霊理論で展開したときに各場にどのような数が配置されるかを表した別紙Eの複数枚の図(6図。原告書籍36頁)を統一的に表したものであり,原告の数霊に関する思想と計算方法をマス目にアルファベットと数字を配置することによって視覚的に表現したものであるとすると,このような思想を分かりやすく説明するために他に様々な表現方法があるとは認められないから,被告書籍1の9における9つに区分した正方形のマス目の部分は,表現上の創作性のない部分において,原告書籍9と同一であるにすぎないと認められる。


 その余の部分においては,被告書籍1の9は,例示された数字が異なり,数字を配列する順序を黒丸数字で示している点で,原告書籍9とは異なっている。


 よって,被告書籍1の9は,複製権侵害,翻案権侵害,同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。


イこれに反する原告の主張は,到底採用することができない。


(10) まとめ

 以上のとおり,被告書籍1の1ないし9は,原告書籍の複製ないし翻案であるとはいえないし,その同一性保持権を侵害するものでもない。


 よって,原告書籍の複製権又は翻案権に基づく被告書籍1の販売等の差止請求等,上記複製権又は翻案権侵害を理由とする損害賠償請求,並びに同一性保持権侵害を理由とする謝罪広告の掲載請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。


3 原告書籍と被告書籍2との実質的同一性について


 ・・・省略・・・


4 結論

 よって,原告の請求はいずれも理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 なお、本判決文で引用している最高裁判決は、1/4の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080104)で取り上げた、『平成11(受)922 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟江差追分事件」平成13年06月28日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/849DFAD0232B3C8549256DC900269847.pdf)であります。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<気になった記事>

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