●平成20(ネ)10003 損害賠償等請求控訴事件 その他 民事訴訟

 本日は、『平成20(ネ)10003 損害賠償等請求控訴事件 その他 民事訴訟 平成20年06月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080619154249.pdf)について取り上げます。


 本件は、本件特許権1及び2を有している控訴人が,被控訴人に対し,特許権侵害を理由として,原判決別紙物件目録記載の半導体装置(被告製品)の生産,譲渡,輸入,譲渡の申出の差止め及び被告製品の廃棄並びに損害賠償金等の支払を求め、その控訴が棄却された事案です。


 本件では、特許請求の範囲における「外部タイミングコンデンサ」を明細書の記載および出願経過の参酌により被告製品のものに該当しない判断して文理侵害が成立しないと判断した点と、均等侵害も成立しないと判断した点とで、参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『1 当裁判所も,控訴人の本訴請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,本件特許権1の侵害の有無に関する争点1,2の判断(原判決63頁9行〜74頁下1行)を削除して次のとおり改めるほか,本件特許権2の侵害の有無に関する原判決75頁1行〜79頁15行の記載(争点5,6,8に対する判断)を引用する。


2 争点1(本件ランプ安定回路1は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか[本件ランプ安定回路1は,本件特許発明1の構成要件1−F,1−Hを充足するか])について


(1) 本件明細書1(甲3)の「特許請求の範囲」請求項5は,原判決記載のように,次のとおり分説される。


 ・・・省略・・・


(2) また,本件明細書1(甲3)の「発明の詳細な説明」には,次の各記載がある。


 ・・・省略・・・


ウ そうすると,本件明細書1(甲3)には,構成要件1−F,1−Hにいう「外部タイミングコンデンサ」について,抵抗との組み合わせにより自己発振駆動回路の発振周波数を定めるコンデンサである旨の記載しかないということができる。


 ・・・省略・・・


(5)ア 一方,証拠(甲5〜11)によれば,本件特許発明1についての出願経過は,次のとおりであることが認められる。


 ・・・省略・・・


イ ところで,本件特許1(甲3)の請求項1における「外部タイミングコンデンサの電圧からなるロー論理レベル信号に接続された入力制御端子を有するタイマ回路と,上記タイマ回路に接続され,上記第1および第2のMOSゲート型パワー半導体バイスをオンおよびオフに切り換える周波数を制御し,また,上記入力制御端子に印加される上記信号に応じて切り換わる出力を供給する第1のラッチ回路と」との記載,及び,請求項4における「請求項1に記載の集積回路において,上記タイマ回路は,上記MOSゲート型パワー半導体バイスがオンおよびオフされる周波数を制御するための第2の入力制御端子を有し,上記第1および第2の入力制御端子は上記タイマ回路の発振周波数を設定するための上記外部タイミングコンデンサおよび外部タイミング抵抗に接続されることを特徴とする集積回路。」との記載からすると,請求項1及び請求項4の「外部タイミングコンデンサ」が抵抗との組み合わせにより自己発振駆動回路の発振周波数を定めるコンデンサであることは明らかである。


 上記ア(ウ)a及びbの本件意見書の記載は,本件特許1の請求項1及び請求項4が上記のようなものであることを当然の前提として,これらの請求項における「外部タイミングコンデンサ」がその電圧の低下により,シャットダウン回路を起動させる機能も兼ね備えることを明示したものであると認められる。そして,上記ア(ウ)cのとおり,本件意見書において,本件特許発明1(請求項5)についても請求項1と同様の補正をしていると述べている以上,本件特許発明1における「外部タイミングコンデンサ」を請求項1及び請求項4における「外部タイミングコンデンサ」と別異なものと解すべき理由はない。また,上記ア(ウ)d〜hの本件意見書の記載も,「外部タイミングコンデンサ」が抵抗との組み合わせにより自己発振駆動回路の発振周波数を定めるコンデンサであることを説明するものである。


 そうすると,本件特許発明1についての出願経過に照らしても,構成要件1−F,1−Hにいう「外部タイミングコンデンサ」について,抵抗との組み合わせにより自己発振駆動回路の発振周波数を定めるコンデンサを意味すると解すべきであるということができる。


(6) 控訴人は,本件特許発明1の特許請求の範囲には単に「外部タイミングコンデンサ」と記載されているだけであるから,当該記載から自己発振駆動回路の発振の周波数を定めるコンデンサのみを意味すると限定解釈する理由はないし,特許請求の範囲に記載の発明は実施例に限定されるわけではなく,また,本件補正は,本願発明の技術的意義をより明確にするためになされたもので,新規性・進歩性欠如を理由とするものではないから,構成要件1−F,1−Hにいう「外部タイミングコンデンサ」について,抵抗との組み合わせにより自己発振駆動回路の発振周波数を定めるコンデンサを意味すると限定解釈することは許されないなどと主張する。


 しかし,「外部タイミングコンデンサ」という用語が用いられていること,本件明細書1には,「外部タイミングコンデンサ」が抵抗との組み合わせにより自己発振駆動回路の発振周波数を定めるコンデンサである発明の開示しかなく,それ以外の発明の開示がないこと,及び,本件意見書の上記記載に照らせば,本件特許発明1の「外部タイミングコンデンサ」を,抵抗との組み合わせにより自己発振駆動回路の発振周波数を定めるコンデンサであると解すべきである。また,本件補正の目的によってこの認定が左右されることはない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。


(7) 本件ランプ安定回路1においては,コンデンサC2が抵抗R2との組み合わせにより発振周波数を定めており,コンデンサC11は,その電圧がしきい値電圧より低いとシャットダウン回路を起動させるものであるとしても,発振周波数を定めているものではない。


 そうすると,本件ランプ安定回路1のコンデンサC11は,構成要件1−F,1−Hにいう「外部タイミングコンデンサ」には当たらず,本件ランプ安定回路1は,構成要件1−F,1−Hを充足しないから,本件ランプ安定回路1は,本件特許発明1の技術的範囲に属しないものと認められる。


3 争点2(本件ランプ安定回路1は,本件特許発明1と均等か。)について

(1) 特許権侵害訴訟において,相手方が製造等する製品又は用いる方法が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を確定しなければならず(特許法70条),特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には,上記対象製品等は,特許発明の技術的範囲に属するということはできない。


 しかし,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,

(i)上記部分が特許発明の本質的部分ではなく(本質的部分),
(ii)上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ同一の作用効果を奏するものであって(置換可能性),
(iii)上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(置換容易性),
(iv)対象製品等が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく(非容易推考),かつ,
(v)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情(意識的除外)もないときは,
 上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解される(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)。


 したがって,上述した均等論が適用されるためには,上記(i)で述べたように,上記差異部分が特許発明の本質的部分でないことが前提となる。


(2) 前記2(1)〜(6)によれば,本件特許発明1は,外部タイミングコンデンサに接続されたC ピンを使用したシャットダウン機能を備えたものであTる。すなわち,本件特許発明1においては,第3のコンパレータにより,外部タイミングコンデンサに接続されたC ピン電圧が,自己発振に対して用Tいられるしきい値電圧VR1及びVR2のいずれよりも低い値として選択されたしきい値電圧VR3よりも低くなったことを検出したときは,第3のコンパレータがその出力をシャットダウンラッチ回路及び低圧側のデッドタイム遅延回路に供給し,シャットダウンラッチ回路の出力が高圧側のデッドタイム遅延回路に供給され,両ゲートドライバ出力がシャットダウンする。このようにして,本件特許発明1は,高圧側及び低圧側のMOSゲート型パワー半導体バイスを完全にシャットダウンするものである。


(3) ところで,安定器集積回路において,故障時に高圧側及び低圧側のMOSゲート型パワー半導体バイスの両方をシャットダウンするものは,前記2(3)ア(イ)bのとおり,従来技術として存したところ,本件特許発明1は,上記(2)のような構成を採用することによって,両方のMOSゲート型パワー半導体バイスを確実にシャットダウンするとともに,故障状態が終了したときには,自動的にかつ速やかに駆動回路が再起動されるようにしたものである。


 そして,前記2(5)ア(ウ)のとおり,控訴人は,本件意見書(甲11)において,上記(2)のような構成を採用したことが本件特許発明1の特徴である旨を述べており,シャットダウン回路が外部タイミングコンデンサの電圧に基づいて動作する旨を追加する本件補正を行って特許査定を受けたものであるということができる。


 以上によれば,本件特許発明1は,外部タイミングコンデンサの電圧,すなわち外部タイミングコンデンサに接続されるC ピンの電圧が所定のしきTい値電圧より低くなったときに,高圧側及び低圧側のMOSゲート型パワー半導体バイスに対するゲート駆動信号をターンオフし,それにより,高圧側及び低圧側のMOSゲート型パワー半導体バイスを完全にシャットダウンすることをその発明の本質的特徴とするものであることが認められる。


(4) したがって,本件ランプ安定回路1においては,外部タイミングコンデンサが接続されたC ピンとは異なるピン(SDピン)によって,外部タイTミングコンデンサC2とは別のコンデンサC11にシャットダウン回路が接続されているのに対し,本件特許発明1においては,シャットダウン回路がC ピンによって外部タイミングコンデンサに接続されているという差異Tは,本件ランプ安定回路1と本件特許発明1との本質的な差異であるから,本件ランプ安定回路1の構成は,本件特許発明1と均等なものであると解することはできない。


4 結論

 以上によれば,本件特許権1及び2の侵害を理由とする控訴人の本訴請求は,その余について判断するまでもなく,いずれも理由がない。


 よって,これと結論を同じくする原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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