●平成20(ワ)2149商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件(2)

 本日も、『平成20(ワ)2149 商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件 商標権 民事訴訟「人と地球」平成20年06月10日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080612152324.pdf)について取り上げます。


 本日は、棄却された損害賠償請求の判断について取り上げます。


 つまり、知財高裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 西理香、裁判官 北岡裕章)は、


3 損害賠償請求について

(1) 原告は,被告のためにも訴訟を回避すべく,再三,被告に対する猶予を与え続けたにもかかわらず,被告の原告に対する度重なる警告文書の送付により訴訟提起を余儀なくされたのであって,被告のこのような行為は,原告に対する不法行為を構成すると主張する。


 しかし,被告は,被告商標に関する商標権者なのであるから,被告商標権を侵害する者に対し,その差止めを求める権利を有することは当然であり,被告による上記警告文書の送付自体は,少なくとも外形上は被告商標権に基づく権利行使というべきものであって,それ自体が直ちに権利行使を受けた者に対する不法行為を構成するということはできない。


 すなわち,権利行使の究極の形態ともいうべき訴えの提起は,裁判を受ける権利(憲法32条)の保障の見地から,原則として正当な権利行使として適法な行為とみるべきであって,提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り,相手方に対する違法な行為となるものというべきである(最高裁昭和60年(オ)第122号同昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁)。


 訴訟提起に至らない段階での権利主張においても,上記趣旨は十分尊重されなければならず,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為(競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為)にわたるものでない限り,上記判断基準に即してその違法性の有無を判断すべきである(本件においては,被告が上記不正競争行為を行ったものではなく,原告もその旨の主張はしていない。)。


(2) そこで,本件における被告の行為の違法性の有無について検討する。


 上記のとおり,被告は,被告商標に関する商標権者なのであるから,被告商標権を侵害する者に対し,その差止めを求める権利を有するところ,一般に,他人が,登録商標の一部を構成要素とする標章(結合標章)を商品又は役務に使用等する場合,それが当該登録商標と同一又は類似するものであって,その使用等が当該登録商標に係る商標権を侵害するものとして他人にその差止めを求め得るか否かの判断は,上記2(4)で説示したとおり登録商標の一部を主に商品主体識別機能を果たす要部と見得るか否かなど比較的高度な法律知識を要するものといえる。


 本件における法的評価としては,上記2(4)の説示のとおり,原告標章の使用等が被告商標権を侵害しないのであるが,原告標章は, 「人と地球」の文言を含むものであって,商標法に関する知識に乏しい通常人がその部分だけをみれば,原告標章が被告商標を使用するものである,すなわち原告標章の上記態様での使用が被告商標権を侵害するとみることも無理からぬところがあるというべきである。


 また,上記権利主張(商標権侵害警告)を受けた原告も,原告標章の使用が被告商標権を侵害することの主張立証責任が被告にあるとはいえ,「原告標章は被告商標とは類似せず,指定商品も異なることから,原告標章の使用は被告商標権を侵害していない」と,結論のみに等しいとも見える回答に終始しているところ,原告は,法律専門家である弁護士を代理人として被告との交渉に当たらせていたのであるから,商標権侵害の意味を誤解している疑いが強い被告に対し,原告標章の上記態様での使用が被告商標権を侵害するものではないことの具体的な根拠を本判決が上記に説示した程度に具体的に説明しておくことも可能であったと考えられる。そして,そのような対応をとっておれば,被告の応答も異なっていた可能性があったことも否定できないというべきである。


 また,被告は,原告標章の使用が被告商標権を侵害するとの主張のほかに,被告の社名も「有限会社人と地球社」というものであり,「人と地球」という文字列を含む原告標章が使用されると,原告が被告と混同されるおそれがあるとの主張もしている。これは,必ずしも法律上確たる根拠を伴う主張とはいい難いところもあるが,その趣旨自体は理解し得るものであり,それ自体権利行使に藉口した不当な営業妨害行為と評価できるものではない。


 その他,原告は,被告の警告行為は執拗である旨主張するが,上記認定のとおり,被告の原告に対する警告行為は,平成17年中は4回に及んだものの,これは原告(訴訟代理人)との文書のやり取りの一環として行われたものであるし,その後はしばらく止み,同年中の最後の警告行為から1年近く経過した平成18年12月6日に1回行われ,その次は,それからさらに約9か月経過した平成19年9月に1回なされたのみである。その回数等からすれば,被告の原告に対する警告行為が社会的相当性を逸脱するような執拗さで行われたとはいえない。


 また,被告の上記警告の内容,態様も特に威迫的なものではなく,比較的穏当というべきものである。その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被告の上記警告行為は,権利行使に藉口した社会的相当性を逸脱する違法なものということはできず,原告にある程度の煩わしさを感じさせるものであったとしても,企業としての受忍限度の範囲内のものというべきであって,これをもって原告に対する民法709条の不法行為を構成するということはできない。


(3) 以上のとおり,被告に対し,弁護士費用相当の損害賠償を求める原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。


4 結論

 よって,原告の本件請求のうち,商標権に基づく差止請求権不存在確認を求める請求は理由があるから認容し,不法行為に基づく損害賠償を求める請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<気になった記事>

●『第105回「無防備な中小企業がターゲットに!? 水面下で繰り返される日中間の商標トラブル」(2008/06/12)』http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/baba.cfm