●平成20(ワ)2149商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件(1)

 本日は、『平成20(ワ)2149 商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件 商標権 民事訴訟「人と地球」平成20年06月10日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080612152324.pdf)について取り上げます。


 本件は、原告による別紙原告標章目録記載の標章を付したリサイクルボックスを使用した使用済みプリンター用インクカートリッジの再生及び当該再生を呼びかける別紙広告目録記載の広告につき,被告がその商標権に基づく差止請求権を有しないことを確認すること、および損害賠償等を求め、差止請求権不存在の確認のみが認容された事案です。


 本件では、まず、差止請求権不存在確認請求における差止請求権を有するかを確定する法律上の利益(確認の利益)の判断と、被告の登録商標と原告使用商標とが非類似とした判断が参考なるかと思います。


 つまり、知財高裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 西理香、裁判官 北岡裕章)は、


差止請求権不存在確認請求について


(1) 請求原因(2)ア(被告の有する商標権)の事実は,証拠(甲1及び2の各1・2)により,同イ(原告の行為)の事実は,証拠(甲3ないし5)及び弁論の全趣旨により,それぞれ認められる。


(2) 同ウ(被告の警告と原告の回答等)については,甲第6,第7,第9,第11号証の1・2,第13ないし第15号証のファックス文書を被告が原告に対し送付した事実は当事者間に争いがなく,この事実に,証拠(甲6ないし16〔枝番を含む)及び〕弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。


ア 被告は,平成17年5月2日,原告に対し,「当社(被告)は,貴社(原告)が当社商標を侵害することのないように求めます」と記載したファックス文書(甲6)を原告に送信し,次いで,同年11月23日,再度,以下のとおり記載したファックス文書(甲7)を原告に送信した。すなわち,「当社(被告)は,2005年5月2日に,エコリカ株式会社へ貴社(原告)が当社の商標権を侵害することのないように伝達しました。本日,ミドリ店にて,『人と地球』の文字を含むインクカートリッジ等の貴社リサイクルBOXを見ました。『当社への商標権侵害』とは,当社が商標を使用するに妨害になる行為を含み,また,当社が粗悪品のリサイクル商品を販売している業者と提携があるかのような誤解を生じせしめる表示であります。当社は貴社の不法行為意思があるものと考えており,貴社の『人と地球』なる文字を使用した印刷物等によっては,トラブルが起こるものと考えており,懸念しており,」と。


イ 原告は,被告に対し,平成17年11月30日到達の「警告書」と題する内容証明郵便(甲8の1)により,原告標章は被告商標とは類似せず,指定商品も異ることから,原告標章の使用は被告商標権を侵害していないから,被告の商標権侵害の主張は,明確な法的根拠がないにもかかわらずされているもので,これ自体不法行為による損害賠償等の法的責任が生ずるものであって,今後このような違法な侵害警告や信用毀損行為等をしないよう警告する旨回答した。


 これに対し,被告は,以下のとおりファックス文書を送信し続けた。


(ア) 平成17年11月30日付けファックス文書(甲9)


 上記ファックス文書(甲9)には,原告の上記内容証明郵便(甲8の1)の「内容を検討しましたが,貴社(原告)は当社(被告)がFAXにて言及していない内容にまで踏み込んでおり,…まったく当を得ていない内容であると当社は考えており」,被告が上記ファックス文書(甲6,7)で「伝達したことは当然のことでありますので,当社としては一切,貴社への不法行為責任が成立するとは考えていません。なお,当社は貴社により,当社商標が使用できなくなった場合には,貴社の当社への不法行為によるものであるとみなします。」旨が記載されている。


(イ) 平成17年12月6日付けファックス文書(甲11の1・2)

 上記(ア)のファックス文書(甲9)を受けて,原告訴訟代理人は,原告代理人名義の「警告書」と題する平成17年12月6日付け書面に,被告の主張は「法的根拠を欠く抽象的な主張の繰り返し」であり,「それ自体,当社(原告)の営業妨害に該当しますので,その旨警告します。」と記載し,これを被告に送付したところ,被告がその返信として送信した上記ファックス文書(甲11の1・2)には,「貴社(原告)代理人の主張が当を得ているかどうかは裁判所が判断することであると思います「当社(被告。」)は貴社代理人が当社に対して,同文書の内容を伝達してくること自体が当社への不法行為ではないのか,と考えており,公正なる裁判所の判断をあおぐ必要があります。」と記載されている。


(ウ) 平成17年12月23日付けファックス文書(甲13)


 上記(イ)のファックス文書(甲11の1・2)に対し,原告訴訟代理人は,「貴社(被告)からは,未だに当社(原告)の行為が商標権侵害に該当することについて具体的な根拠を明示していただいていませんので,これを明示されるか,商標権侵害の主張を撤回されるか,回答されるよう催告します。」と記載した「通知書」と題する平成17年12月13日付け書面(甲12)を被告に送付したところ,被告は,上記甲第11号証の1・2で伝達したような見解を有している旨記載したファックス文書(甲13)を送付した。


(エ) 平成18年12月6日付けファックス文書(甲14)


 その後しばらく原告・被告間の連絡は途絶えたが,上記(ウ)のやり取りから約1年を経過した上記ファックス文書(甲14)で,被告は,「当社(被告)は貴社(原告)に対して,2005年12月6日にも,当社商標を侵害しないように求める連絡をしました。当社商標の一般化をさせる方法で,当社商標を使用できなくすることは当社への詐害行為です。」と記載して,原告に送信した。


(オ) 平成19年9月4日付けファックス文書(甲15)

 さらに,上記(エ)のファックス文書(甲14)の送信をした後約9か月を経過した上記ファックス文書(甲15)で,被告は,「2007年9月3日朝日新聞掲載の御社(原告)広告(判決注・本件一面広告)を見ました。人と地球なる文字を含む同広告に,A社のような広告を打つことによる当社(被告)商標と混同を生じる可能性のあるA社みたいな広告の文言中の人と地球を除去するか,出所の混同を生じた場合によるトラブルの除去をするための行為をすることによる当社のトラブルの経費をA社みたいに御社に請求することになるので,6ヶ月以内に当社へ自分のための商標であることを示し,出所の混同を除去するための商標を検討の上,修正してください。」と記載して,原告に送信した。


 これに対し,原告は,原告訴訟代理人名義の平成19年10月2日到達の内容証明郵便(甲16の1)で,被告に対し,同月15日までに代理人事務所宛に,今後同様の警告をしない旨を文書で回答するよう催告し,上記期限までに回答をしないか,これまでと同様の対応を継続する場合には,被告の主張が根拠がないことの確認と損害賠償を求めて訴訟提起に及ばざるを得ない旨を記載して,被告に送付した。これに対する被告の回答はなかった。


(3) 上記(1),(2)の事実によれば,原告が,インクカートリッジ回収ボックスに原告標章を表示し,また,本件一面広告に原告標章を表示したことについて,被告が,原告標章の上記態様での使用は被告商標権を侵害する旨を含む主張を原告に対して行い,これを否定する原告との間で何回かファックス文書等のやり取りがなされたものの,この点について原告・被告間で決着するには至らず,依然として被告の上記主張は維持されていることが認められ,現に本件訴訟においても,商標権侵害の有無は裁判所によって判断されるべきである旨主張している。


 以上によれば,原告との間で原告標章の上記使用が被告商標権を侵害するか否かについて原告と被告との間で争いがあるものと認められる。したがって,被告が原告に対し,被告商標権に基づく原告標章の上記態様による使用の差止請求権を有するかを確定する法律上の利益(確認の利益)がある。


(4) そこで,被告が原告に対し被告商標権に基づき,原告標章の上記態様での使用の差止請求権を有するか否かについて検討する。


 被告が原告に対し上記差止請求権を有するというためには,被告商標の指定商品と同一又は類似の商品に被告商標と同一又は類似の商標を付し,あるいは,指定商品に関する広告に被告商品と同一の標章を付して展示するなどしたこと(商標法25条,2条3項,37条)について,被告に主張立証責任があるところ,被告は,法的なことはよくわからないので裁判所の判断に任せるとして,具体的な主張立証をしない。


 しかし,被告が被告商標権を有すること,原告が原告標章を上記使用態様で使用しているという事実関係は,本件口頭弁論に顕れているので,被告がこれを援用していないとしても,上記事実を証拠に基づいて認定することは何ら妨げられないというべきである。


 そこで,まず,指定商品の同一性又は類似性について検討する。


 被告商標(ア)は第16類「印刷物(書籍を除く)」を指定商品とし,被告商標(イ)は第16類「雑誌,書籍,絵はがき,カレンダー」を指定商品とするものである。他方,原告標章は,本件リサイクルボックス及び本件一面広告に表示されているものである。本件リサイクルボックスは,第16類「印刷物(書籍を除く)」や「雑誌,書籍,絵はがき,カレンダー」に当たらず,これに類似する商品でもないというべきである。


 また,証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,本件一面広告は,リサイクルボックスを使用した使用済みプリンター用インクカートリッジの再生を一般消費者に呼びかけることを目的として新聞に掲載されたものであって,原告の特定の商品に原告標章が付されて広告宣伝がなされたものではない。したがって,上記いずれの使用態様においても,原告標章が第16類「印刷物(書籍を除く)」「雑誌,書籍,絵はがき,カレンダー」と同一又は類似の商品に付されたものとはいえない。もっとも,本件リサイクルボックスを「印刷物」又はこれに類似する商品と見得る余地が全くないわけではない。


 そこで,以下,原告標章と被告商標との類否についても判断する。


 被告商標(ア)は,標準文字で「人と地球HITO TO CHIKYU」と書してなるものであり,被告商標(イ)は,「人と地球(SP)HITO(SP)TO(SP)CHIKYU」と書してなるものであって,いずれも「ひととちきゅう」との称呼を生じ,「人と地球」すなわち,人間と地球との共生関係というような観念を生じさせるものである。


 他方,原告標章は,木の幹を模した正方形状の略四角形の右上部に木の幹から右上に伸びるように木の枝と葉を模した絵柄が描かれ,木の幹部分に横書き手書き状の白抜き文字で2行にわたり「eco」「rica」が縦に並列して記載され,その上部に「人と地球に貢献します。」と丸ゴシック体で小さく横書きで書されていることが認められる。


 原告標章の上記使用態様によれば,被告標章の文字列を含む「人と地球に貢献します。」なる部分は,原告標章の中でも比較的小さく表示され,しかも,環境保護のためにリサイクルを推進する原告の立場を表現する記述的表示というべきものであって,それ自体は商品主体の識別力が高いものとはいえない。


 これに対し,原告の社名でもある「eco」「rica」と2行にわたり白抜きで比較的大きく表示された木の幹の部分の商品主体の識別力が相対的に高いと認められ,むしろこの部分が原告標章の要部であると認められる。


 したがって,原告標章は,その要部である「えこりか」との称呼を生じるものであり,被告商標とは,外観,称呼,観念とも異なり,被告商標と類似するということはできない。


(5) そうすると,原告標章を上記使用態様で使用することは,被告商標権を侵害するものではないというべきである。したがって,被告は原告に対し,被告商標権に基づく原告標章の上記使用を差し止める権利を有しないことが明らかである。被告のその余の主張を検討しても,上記判断を左右するものではない。 』

 と判示されました。


 損害賠償請求についての判断は、明日取り上げます。


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