●平成20(行ケ)10053 審決取消請求事件 「保形性を有する衣服」

 今日は、会社の飲み会があり先ほど帰ってきたのですが、新しい判決例が出ていますので、頑張って取り上げたいと思います。


 本日は、まず、『平成20(行ケ)10053 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「保形性を有する衣服」平成20年06月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080612154324.pdf)について取り上げます。


 本件は、請求項1〜3の特許無効審決の取消を求めた審決取消訴訟で、請求項1に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す、と認容された事案です。


 本件では、先日出された知財高裁大合議事件の『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)を引用して、新規事項か否かを判断しており、新規事項追加の判断の点でとても参考になるというか、今後の新規事項追加の判断基準を示す点でとても重要な事案になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、

1 本件訂正の適否について

(1) 特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項該当性について

ア 訂正が,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができ,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができる(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。


 以上を前提として,訂正事項1及び5について,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであるか否かを検討する。


イ本件明細書(甲9)には,次の記載がある。

 ・・・省略・・・

ウ 本件明細書の前記イの各記載によれば,【請求項1】には,衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成することが記載されており(前記イ(ア)),段落【0017】には,ワイヤの取付位置として,襟,襟口(襟の開き部分),袖の下部,身頃の下部,ポケットの縁,ポケットフラップの縁が記載されており(前記イ(イ)),段落【0019】には,ワイヤの取付構造(方法)として,衣服の表側を構成する主布の裏側に,別布を縫合して袋を形成し,この袋の内部にワイヤを挿通させることが記載されており(前記イ(ウ)),段落【0021】には,ワイヤの取付位置として,襟の周縁,襟口の周縁が記載されており(前記イ(エ)),段落【0022】には,ワイヤの取付位置として,ポケットの開口の周縁,ポケットフラップの周縁が,それぞれ記載されている(前記イ(オ))と認められる。


 すなわち,本件明細書には,?「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」することが記載され(【請求項1】),?ワイヤの取付位置として,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」が記載され(段落【0017】,【0021】及び【0022】),?ワイヤの取付構造(方法)として,「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」すること,この袋の内部にワイヤを挿通させることが記載されている(段落【0019】)といえる。


 そうすると,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」して,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」にワイヤを取り付けるに当たり,「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」し,この袋の内部にワイヤを挿通させるようにすることは,本件明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,当業者であれば,本件明細書の記載から自明である事項として,認識することができるというべきである。


 被告は,本件明細書の段落【0019】は,専ら「衣服の身頃」に関する記載である旨主張するが,上記説示に照らし,採用することができない。


エ 上記検討したところによれば,訂正事項1及び5は,いずれも「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものと認められる。


 したがって,本件審決が,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項に規定する要件を満たしていないと判断したことは,誤りというべきである。


(2) その余の点について


ア 本件審決は,訂正事項1及び5は,特許請求の範囲の減縮を目的にしたものでなく,かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものであり,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていないと判断したが,そのように判断した理由を具体的に示しておらず,理由不備の違法がある。


イ念のため,上記の点について判断する。

 訂正事項1は,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】における「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」との記載を,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成し」と訂正することを内容とするものであり,「袋を形成」する箇所を,「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁」から「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」に限定するとともに,「袋」を「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して・・・形成」したものに限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは,明らかである。


 また,上記のとおり訂正することにより,発明の実施態様は限定されるものの,発明の課題ないし目的が異なるものとなるわけではなく,全く別個の発明と評価されるものではないから,実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものということはできない。


 なお,本件審決は,原告が,本件審判の第1回口頭審理において,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の「袋」は「両端が閉じられた状態の筒状部材を指す。」ものであると主張したこと,また,当該袋は「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って」形成されているものであることを指摘するが,その構成を上記のとおり限定することが,実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものとはいえない。


 また,訂正事項5は,訂正事項1に伴ってなされた明細書の訂正を内容とするものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とすること,実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは,いずれも明らかである。


ウ 上記検討したところによれば,本件審決が,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていないと判断したことは,誤りというべきである。


2 結論

 以上検討したところによれば,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項,4項に規定する要件を満たしていないとした本件審決の判断には誤りがあり,この誤りが,本件訂正を認めないことを前提として,本件発明1についての特許を無効とすべきであるとした本件審決の結論に影響することは明らかである。


 したがって,原告の本訴請求は理由があるから,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 上記判示事項において、訂正を補正と入れ替え、(出願当初)を補うと、補正が新規事項になるか否かの判断は、

 「補正が,当業者によって,(出願当初)明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「(出願当初)明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができ,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合において,付加される補正事項が当該(出願当初)明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような補正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「(出願当初)明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができる(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。

 ということになるかと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。

 
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