●平成19(行ケ)10428審決取消請求事件 商標権「Kent Family」

 本日は、『平成19(行ケ)10428 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Kent Family」 平成20年05月30日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530143721.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号と4条1項15号の該当性の判断が参項になります。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、

1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性)について

(1) 本件商標と本件引用商標1ないし3の類否について検討する。

 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかによって決めるべきであり,そのためには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によつて取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得るかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである。


 上記の観点から,以下のとおり判断する。

 ア 外観,称呼について

 外観について,本件商標は,欧文字により「Kent Family」と表記され,「Kent」と「Family」の間には一字分の間隙があるものの,「Kent」と「Family」が同じ大きさであり,それぞれの頭文字が同じ大きさの大文字で表記されていること,全体として「ケント家,ケント一族」という意味を連想させる語であることからすれば,「Kent」と「Family」とが一連に表記されているとの外観を呈しているといえる。これに対し,本件引用商標1は欧文字をやや傾斜させて「」と横書きしたKENT ものであり,本件引用商標2は片仮名文字の「ケント」と欧文字の「KENT」を上下2段にして横書きしたものであり,本件引用商標3は片仮名文字で「ケント」と横書きしたものである。


 したがって,本件商標と,本件引用商標1ないし3とは,外観において類似しないというべきである。


 また,称呼について,本件商標は「ケントファミリー」との称呼が生ずるのに対して,本件引用商標1ないし3は,いずれも「ケント」との称呼が生ずるから,称呼において類似しない。


イ 観念について

 観念について,本件商標からは「ケント家,ケント一族」との観念を生ずると解するのが自然である。他方,本件引用商標1ないし3は,欧米の男子の名「ケント」又は英国の州名「ケント州」などの観念を生ずる余地はあるが,「ケント家,ケント一族」という観念が生ずることはない。


 これに対して,原告は,本件商標は,「Kent」に「Family」の語を付加したものであり,「Kent一族,Kent一家」という観念を有するので,需要者において,「Kent」の出所と関連性のある出所であると理解される余地があるから,本件商標と本件引用商標1ないし3とは類似すると解すべきであると主張する。


 しかし,後記認定のとおり,「Kent」の語を含む登録商標は,「KENT HOUSE」,「LOYAL KENT/ロイヤルケント」等,多数存在している実情等に照らすならば,本件商標と本件引用商標1ないし3が,観念において類似するということはできず,この点における原告の主張は採用できない。


(2) 以上によれば,本件商標は,本件引用商標1ないし3とは,その外観,称呼及び観念のいずれの点においても類似していないから,類似する商標とはいえない。したがって,取消事由1に関する原告の主張は採用の限りでない。


2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性)について


(1) 本件商標は,その指定商品(第18類,25類)について他人(原告)の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるといえるか否かについて,検討する。


 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。


 そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである。

 上記の観点から,本件商標が,商標法4条1項15号に該当するか否かについて検討する。

(2) 事実認定

 ・・・省略・・・

(3) 判断

 上記の認定事実に基づいて,商標法4条1項15号該当性を判断する。


 「Kent商標」は,旧ヴァンヂャケット社の著名な学生向けブランド「VAN」に関連して,社会人男性を主な購買層として展開され,昭和40年代から昭和50年代においては,男性を中心として相当程度に知られていた商標であったが,昭和53年に旧ヴァンヂャケット社が倒産するとともに,その商標価値が大きく損なわれ,ヴァンヂャケット新社による「Kent商標」製品の販売継続や書籍への広告掲載等の継続にもかかわらず,その周知度は次第に失われていった。


 「Kent商標」製品の月間売上高は,平成11年10月には8176万5000円であったものが,平成18年7月には71万4000円へと激減していること(甲59),平成10年ころ以降は「Kent商標」独自の雑誌等への広告記事やカタログ作成もされた形跡がないこと,9000件程度の日本の被服ブランドが掲載されている平成14年版の書籍等にも「Kent商標」の記載がないこと,一方,現在では「Kent」の文字部分を含む27件の他社の登録商標が存在していること等を総合すれば,本件商標の出願時において,「Kent商標」は,広く知られた商標であると認めることはできず,また,前記認定したとおり,本件商標と「Kent商標」とは,その外観,称呼及び観念のいずれの点においても類似していないというべきである。

(4) 小括

 本件商標は,その指定商品(第18類,25類)及び類似する商品に使用した場合に,本件商標の指定商品等の一般の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準にして判断すると,他人(原告)の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標とはいえない。したがって,審決の認定及び判断に誤りはないから,この点に関する原告の主張は理由がない。


3 結論

 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも失当であり,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。