●平成19(行ケ)10383商標登録取消決定取消請求「ルネッサンスホテル

 本日は、『平成19(行ケ)10383 30 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟ルネッサンスホテル創世」 平成20年05月29日 知的財産高等裁判所」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080529162744.pdf』について取り上げます。


 本件は、商標法4条1項15号により原告の登録出願に係る商標の登録を取り消す旨の異議の決定をしたため,原告が同決定の取消しを求め、その請求が認容された事案です。


 本件では、本件商標である「ルネッサンスホテル創世」の出所の混同の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 本多知成、裁判官 田中孝一)は、

2 出所混同の判断について

(1) 本件商標等

ア 前記第2の2(1)アの表示のとおり,本件商標は,明朝体様の同一書体の文字で構成され,その画文字は,縦線又は横線の端部の一部をややはねて,同一大きさ,同一間隔で横一列に,片仮名と漢字をもって「ルネッサンスホテル創世」と表記するものである(甲10の1,2)。


 ところで,「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。


 これを本件につきみるに,本件商標は,「ルネッサンス」,「ホテル」,「創世」の三つの語の結合から成るものであるが,(i)「ルネッサンス」の文字は,フランス語のRenaissance の直訳としては「再生」を意味するとともに,14世紀から16世紀にイタリアを中心に西欧で興った古典古代の文化を復興しようとする歴史的・文化的諸運動を指す意味を持つ語であること(甲13,14の1〜3),(ii)「ホテル」の文字は,「旅館。特に,西洋風の宿泊施設。」の意味を有する語であること(広辞苑第5版),(iii)「創世」の文字は,「はじめて世界をつくること。世界のできたはじめ。」の意味を有する語であること(広辞苑第5版)からすると,本件商標は,これらのいずれも一般に知られた三つの語を結合したものであると容易に理解することができるものであること,「ホテル」の語は役務を表す普通名詞で識別力がないといえることからすると,本件商標から,それぞれ,「ルネッサンス」及び「創世」との称呼,観念が生じていると解することができる。


イ 証拠(甲5,18,19の1,2,甲21,22)及び弁論の全趣旨によれば,(i)原告は,昭和53年ころ,結婚式場を備え披露宴会場ともなる総合儀式場を設立し,結婚が新郎新婦にとっては2人で新たな人生を切り開くといった門出であるとともに,代表取締役社長がクリスチャンであったことから,その総合儀式上を「創世」と命名したこと,(ii)その後,原告は,結婚式やその後の披露宴出席者の便宜のためのホテルを併設することとし,利用客に対する温かみのあるもてなしを考え,「人間復興あるいは人間性の復興」を感じてもらうサービスを提供したいという理念を持ち,ホテルの名称に「ルネッサンス」を入れることとし,原告が従前から使用してきた「創世」の商標と役務を表す語である「ホテル」を結合させ,本件商標としたものであることが認められ,また,原告経営ホテルの宿泊客の大半が国内旅行者であることが推認される。


(2) 「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」標章の独創性等ア上記のとおり,「RENAISSANCE」及び「ルネッサンス」の文字は,我が国においては,フランス語のRenaissance の直訳として「再生」を意味するとともに,14世紀から16世紀にイタリアを中心に西欧で興った古典古代の文化を復興しようとする歴史的・文化的諸運動を指す意味を持つ一般的な既成語である(甲13,14の1〜3)。


イ そして,我が国においては,「ルネッサンス」は極めて一般的な「復興」,「再生」を指す語として,民間,官公庁関係において,「コスメティックルネッサンス」(株式会社ノエビアのテレビコマーシャルヒット曲のCD アルバム。甲15の1),「ルネッサンス−再生への挑戦」(カルロス・ゴーンの著作。甲15の2),「道路ルネッサンス研究会」(国土交通省設置の研究会。甲15の5),「ルネッサンスプロジェクト国際シンポジウム」(経済産業省主催のシンポジウム。甲15の6)等,単独又は他の語と組み合わされて多数使用されている(甲15の1〜15)。


 また,我が国においては,法人名としても,Renaissance の呼称である「ルネッサンス」又は「ルネサンス」が使用されており,「財団法人シニアルネサンス財団」(甲16の1),「株式会社ルネサンス」(飲食業。甲16の2),「株式会社ルネッサンス」(旅行業。甲16の3),「株式会社ルネサンス」(スポーツクラブ。甲16の4の1,2),「ルネッサンス株式会社」(不動産管理業。甲16の5)が存在し,殊にスポーツクラブの「株式会社ルネサンス」については,「RENAISSANCE」の標章を使用し,平成20年1月時点で全国に「ルネサンス」の名称を付した88店舗の展開をしている(甲16の4の1,2)。


ウ 特許庁の公開データによれば,平成18年12月時点において,称呼として「ルネッサンス」,「ルネサンス」,「ルネサン」又は「ルネッサン」を含む商標登録出願(失効データを含む。)は,517件にのぼる(甲17の1,2)。


 そして,指定役務に「宿泊施設の提供」を含む登録商標として,「薩摩ルネッサンス」(登録番号:第4878946号。出願日:平成17年1月25日。登録日:同年7月8日。指定役務:第43類「宿泊施設の提供」ほか。甲30の1),「岡山ルネサンスOKAYAMA RENAISSANCE」(登録番号:第4919665号。出願日:平成17年5月24日。登録日:平成18年1月6日。指定役務:第43類「宿泊施設の提供」ほか。甲30の2),「京都ルネサンスKYOTO RENAISSANCE」(登録番号:第4919666号。出願日:平成17年5月24日。登録日:平成18年1月6日。指定役務:第43類「宿泊施設の提供」ほか。甲30の3)がある。エ平成18年12月時点においてではあるが,山形県米沢市には「HOTELRESTAURANT ルネッサンス」との名称の宿泊等施設(甲23の1)が,福島県東白川郡棚倉町には「ルネサンス棚倉」との名称の宿泊等施設(甲23の2)が存在する。


(3) ところで,「商標法4条1項15号にいう『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標』には,当該商標をその指定商品又は指定役務(以下『指定商品等』という。)に使用したときに,当該商品等が他人の商品又は役務(以下『商品等』という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下『広義の混同を生ずるおそれ』という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。」



 「そして,『混同を生ずるおそれ』の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである。」(前記最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決)。


 これを本件についてみるに,上記(1),(2)の事実等及び前記1の認定判断によれば,(i)本件商標から生ずる「ルネッサンス」との称呼,観念は,申立人商標「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」及び申立人商標3から生ずる「RENAISSANCE」と称呼,観念が同一であること,(ii)本件商標の指定役務は「宿泊施設の提供」であるのに対し,申立人商標の指定役務は「宿泊施設の提供」等であり,また,申立人はホテル業者であって,その取引者,需要者に共通性があることが認められるが,他方,(iii)我が国において,「RENAISSANCE」及び「ルネッサンス」の語は極めて一般的な語であり,類似の「ルネサンス」等も含め,法人名その他の固有名詞等において,単独又は他の語と組み合わせて多数使用されており,その自他識別機能,出所表示機能は弱いといわざるを得ないこと,(iv)本件商標の登録出願時である平成16年及び登録査定時である平成17年時点において,申立人が経営にかかわる「ルネッサンスホテル」は全国に散在する5軒しかなく,我が国における「ルネッサンスホテル」の紹介も,海外旅行者向けの出版物等が中心であって,国内所在の「ルネッサンスホテル」に係る全国規模の出版物やウェブページでの紹介等もそれほど一般的で多いものであったとはいえず,国内所在の申立人関与による「ルネッサンスホテル」の「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」との名を付しての営業期間が平成16年時点までで約17年から約9年というもので長い歴史を有するというほどのものではなかったことなどに照らすと,そもそも,国内に散在した上記5軒のホテルにつき,同一グループに関連するものであるとして広く理解されていたとは考えにくく,国内旅行者等において,申立人が経営にかかわるホテルについての「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」の標章が相当程度認識されていたとまではいえない状況にあったものであること,以上の事情等が認められる。


 そうすると,本件商標の登録出願時である平成16年9月29日及びその登録査定時である17年12月26日時点において,本件商標を「宿泊施設の提供」に使用することにより,その取引者,需要者である国内旅行者等において,原告の「宿泊施設の提供」という役務が,申立人の「宿泊施設の提供」等という役務と緊密な営業上の関係又は同一の表示による事業を営むグループに属する営業主の業務に係る役務であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)があったものということはできない。


(4) もっとも,被告は,「RENAISSANCE」,「ルネッサンス」の文字が「再生」の意味を有する既成語であるとしても,十分に自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものであることに加え,当該文字がホテル業界においては,マリオットグループの業務に係る世界的な系列ホテル(RENAISSANCE HOTELS & RESORTS)を指称するものとして著名であったと主張する。


 しかし,前記1(2)で認定判断のとおり,平成16年,17年時点において,申立人に係るホテルの「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」の標章は,海外旅行用の出版物等を通じるなどして,我が国の海外旅行者においては,海外,殊に米国を中心として所在するホテルチェーンの名称として一定の知名度を有し,「宿泊施設の提供」において相当程度認識されていたと判断されるが,他方,本件商標に係る指定役務の取引者,需要者である国内旅行者等において,「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」の標章が相当程度認識され,周知著名性を有していたとは認められないものであったといえ,被告の上記主張は採用し難い。


3 結論


 以上によれば,原告の主張する取消事由は理由があることになり,本件商標が法4条1項15号に該当するとした本件決定の判断は是認することができないから,本件決定を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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