●平成19(ネ)10077 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟

 本日は,『平成19(ネ)10077 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080604110959.pdf)について取り上げます。


 本件は、被控訴人(1審被告)の元従業員である控訴人(1審原告)が被控訴人に対し、改正前の特許法35条に基づき,控訴人が被控訴人に承継させた職務発明に係る特許権について,相当対価の一部として昭和61年実施分の支払を求めて訴えを提起し、控訴人が被控訴人から本件特許発明に係る特許を受ける権利の承継の対価受領時から10年経過後の平成13年3月ころに消滅時効が完成したことを理由として,控訴人が支払を求めていた昭和61年実施分の相当対価の支払請求を棄却した一審の取消を求め控訴し、その控訴が棄却された事案です。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、

2 当審における控訴人の主張に対する判断

(1) 昭和61年実施分の相当対価支払請求権について

 控訴人は,被控訴人が,別件訴訟(東京地方裁判所平成10年(ワ)第16832号事件)において,相当対価の支払は,年末の表彰後の褒賞金の支払のみにより行うものではなく,給料,退職金又は年金で支払う金額の中にも含められている旨主張した点をとらえて,そうであれば,相当対価の支払時期は,年金の支払終了時になるから,相当対価の支払請求権の消滅時効も完
成していないと主張する。


 しかし,控訴人のこの主張は,以下のとおり理由がない。


 すなわち,被控訴人が別件訴訟においてした上記主張は,相当対価の額の算定に当たり考慮すべき諸事情の一つを述べたにすぎないものと理解すべきであって,年金支払請求権と実績補償金支払請求権とは別個の権利であることに照らすならば,被控訴人が上記主張をしたことにより,相当対価の支払時期が年金の支払終了時となるとすべき余地はない。


(2) 平成8年実施分の相当対価支払請求(予備的請求)について

ア 本件特許発明は,アナログ方式によるモータ制御に関するものであって(甲7の2),被控訴人においては,据置型ビデオカセットレコーダー(「VTR」又は「ビデオデッキ」)の主制御ICのモータ制御用として使用,実施していたものであるところ,例えば,被控訴人が製造していた「日立Hi−FiビデオデッキVT−F330」に関する「サービス技術資料」(平成1年5月。乙10)においては,「デジタルサーボシステム」として,「モータ或いはテープからの比較信号を基準信号とデジタル的に比較して誤差検出し,これをDC電圧に変換してモータ制御電圧とする」方式(デジタル方式)が採用されているとの記載がされ,更に「システムの主要部はメイン処理IC601内に含まれる」との記載がされており(乙10のサーボ回路1−2),「日立Hi−Fiビデオデッキ」に関する「サービス技術資料」(平成2年6月。乙11)の「主制御IC型式一覧表」によれば,その時点で販売されていた6機種について,サーボ系の「速度制御/位相制御」がすべて「HD49741NT (IC601)」とされているから,昭和61年ころには,ほぼ全数がデジタル方式による制御に移行し,遅くとも平成2年にはその移行が完了し,それ以降は,アナログ方式による主制御ICのモータ制御が行われることがなくなっていたものと認めることができる。そして,それから更に6年経過後の平成8年の時点においては,主制御ICのモータ制御について,本件特許発明が実施されることはなかったものと認めるのが相当である。


イ これに対し,控訴人は,乙11によれば,BA6303が被控訴人製品(VT−F430,VT−F540,VT−S630,VT−S640)においてソフトランディング制御用ICとして使用されている旨記載されているが,同部品は,本件特許発明を実施した製品であると主張する。


 しかし,控訴人の上記主張は,以下のとおり採用できない。


 まず,たとえローム社製造の上記製品BA6303が本件特許を実施した製品であると仮定したとしても,これを平成8年当時において被控訴人が生産販売していたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,本件特許は,その第13年分から第15年分の特許料が平成5年6月29日に納付されていたにもかかわらず,第16年分特許料については,平成8年10月13日不納付を原因として平成9年9月3日にその登録が抹消されたこと(乙12特許登録原簿),被控訴人はBA6303を搭載したHi−Fiビデオデッキを平成8年には生産販売していなかったと述べられていること(乙14陳述書)を総合すれば,被控訴人は,平成8年に本件特許を実施していなかったものと認められる。そうすると,平成8年実績分に係る控訴人の被控訴人に対する実績補償金支払請求は,理由がない。


 また,仮に,被控訴人が,平成8年に,ローム社製造のBA6303が搭載されたHi−Fiビデオデッキの生産販売を継続していたとしても,乙15(陳述書)によれば,被控訴人はBA6303を製造販売するローム社に対して本件特許の実施を許諾したことはなく,また,ローム社から本件特許の実施許諾の対価を受領したこともないのであるから,ローム社の製品BA6303に関して平成8年実績分として被控訴人(使用者)の受けるべき利益が存在したと認めることができない。したがって,本件特許による利益の存在を前提とする平成8年実績分に係る控訴人の被控訴人に対する実績補償金支払請求は,理由がない。


3 結論

 以上によれば,控訴人の被控訴人に対する特許法35条に基づく,昭和61年実施分の相当対価617万2134円及びこれに対する昭和62年1月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(主位的請求)及び平成8年の日本国内生産分全部の実績に対する相当対価3054万8500円の一部である617万2134円及びこれに対する平成9年3月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(当審で追加された予備的請求)は,理由がないのでいずれも棄却することとし,控訴人の請求(主位的請求)を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<気になった記事>

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●『中国・台湾での我が国地名の第三者による商標出願問題への総合的支援策について』(特許庁)http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/shohyo_syutugantaisaku.htm