●平成14(行ケ)581商標権行政訴訟「サントリー角瓶の立体商標」高裁

 本日は、立体商標か絡みで、『平成14(行ケ)581商標権 行政訴訟「角瓶の立体商標」平成15年08月29日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/3E342744BFB4E05749256DDB00183039.pdf)について取り上げます。


 本件も、昨日取り上げたヤクルトの容器の立体的形状の場合と同様に、ウイスキーの角瓶の立体的形状のみでは、立体商標として認めない、とした特許庁審決を東京高裁が認容された事案です。


 つまり、知財高裁(第13民事部 裁判長裁判官  篠原勝美、裁判官  岡本岳、裁判官  早田尚貴)は、


1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標としての商品又は商品の包装の形状の意義

 商標法3条1項3号が,記述的商標は商標登録を受けることができない旨規定する趣旨は,記述的商標が商品の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによると解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)。


 商品又は商品の包装(収納容器を含む。以下「商品等」という。)の形状は,本来,その商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,その商品等から得られる美感をより優れたものにするなどの目的で選択されるものである。


 したがって,商品等の形状そのものからなる立体商標は,その形状に変更又は装飾が施されても,商品等の形状を記述するものであって,原則として,取引に際し必要適切な表示として特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当とせず,また,多くの場合自他商品識別力を欠くという記述的商標の特徴を具備するものであるから,商品等の用途,機能から予測し難いような特異な形態や特別な印象を与える装飾的形状等を備えている場合を除き,同号に掲げる「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」として登録を受けることができない商標というべきである。


 もっとも,商品等の形状は,一次的には商品等の特性そのものであるが,二次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るというべきであり,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる立体商標も,当該形状を有する商品等の販売,広告,宣伝等がされた結果,自他商品識別力を獲得するに至り,商標法3条2項により商標登録を受け得る場合のあることは,記述的商標一般について,その使用をされた結果自他商品識別力を獲得した場合と異なるところはない。


 一般に,商品等の形状は,商品等の機能により相当程度の制約を受けるが,同一の機能を保持しつつも,なお,選択し得る形状に一定の幅があるのが通常である。


 しかしながら,商標法3条1項3号は,記述的商標が登録を受けることができない旨規定しており,当該記述的商標の表示する商品等の形状等が他者の販売する商品等と識別可能なものであること,又は現に出願人が販売する商品等の形状等を記述するものであることを記述的商標の除外事由としていない。


 その趣旨は,上記のとおり,取引に際し必要適切な表示として特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当とせず,また,多くの場合自他商品識別力を欠くという記述的商標の特徴が,他者の販売する商品等と識別可能かどうか,又は現に出願人が販売する商品等の形状等を記述するものかどうかにかかわらないからである。


 そうすると,指定商品の取引者,需要者が,指定商品に係る商品等に使用された商標に接した場合,これを当該商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると認識するようなものである限り,その形状が特徴的であり,又は装飾が施されていても,記述的商標に当たることを否定すべき理由はない。


 また,上記のとおり,取引者,需要者により指定商品に係る商品等の形状そのものと認識される立体的形状をもって構成される商標は,原則として,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として記述的商標に該当し,商標登録を受けることができないものと解すべきである。商品等の用途,機能から予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状等は,指定商品に係る商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできないから,記述的商標に当たらない上,商標法は,記述的商標であっても,使用をされた結果自他商品識別力を獲得した場合には,同法3条2項により登録されることを予定しているのであるから,上記の解釈が同法の趣旨に反するということはできない。


 そうすると,指定商品に係る商品等の形状として,その商品等の機能をより効果的に発揮させたり,美感をより優れたものにするなどの目的で同種の商品等が一般的に採用し得る範囲内のものについては,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として登録を受けることはできないが,その範囲を超えるような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状のものであるか,又は使用をされた結果自他商品識別力を獲得したものであれば,商標登録を受けることができるというべきである。


  (2) 本願商標の識別性の判断 審決は,「本願商標は,別掲(注,別紙目録)のとおりの構成よりなるものであるところ,縦長の直方体の立体的な全体形状は,液体等を収納する容器そのものを表したものである。そして,容器の四方側面に施された線と面で構成される切り欠け状の模様は,商品の機能(持ち易さ),美感(注,「美観」とあるのは誤記と認める。)を効果的に高めるための範囲内のものにすぎないというべきである。してみると本願商標は,これをその指定商品(ウイスキー)に使用しても,取引者・需要者は,全体としてウイスキーの包装(収納容器)の形状を表示するにすぎないものと理解するに止まり,自他商品の識別標識とは認識し得ない」(審決謄本3頁第4段落)と判断するところ,原告は,本願商標は,亀甲模様が施された角張った瓶形という独特な瓶の形状によって,それ自体自他商品識別力を有している旨主張する。


 確かに,商品等の形状は,二次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るから,商品等の形状が商品等の機能又は美感をより発揮させるため施されたものであることから,直ちに,他の同種商品との自他商品識別力が否定されるものではないが,登録出願された立体商標の形状が同種商品において従来にない特異な形状をしており,その形状が他の同種商品と識別可能であるとしても,それだけでは当該商標が記述的商標であることは否定されないのであって,指定商品に係る商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である以上は,記述的商標として登録を受けることができないというべきである。


 本願商標は,別紙目録のとおりの構成よりなるものであるところ,同構成は,全体形状が,縦長の直方体の上部に首状部を,最上部に口部を設けた液体を収容する容器の形状であり,その4側面には,上面の肩部から下方にかけて表面に亀甲型を浮き彫り状に施し,4側面に表された亀甲型の各中央部分は,肩部から下方にかけては亀甲部をなくし,上部と下部を各々上下に山形形状にした縦長の6角形に切り欠き,その切り欠かれた部分の中央部分に,正面に当たる部分は縦長の楕円形を表した表面模様(以下「表面楕円形部」という。)を,背面に当たる部分は縦長のひし形を表した表面模様(以下「裏面ひし形部」という。)を施してなるものであると認められる。


 平成13年11月20日講談社発行の「世界の名酒事典2002年版」(甲17),新聞記事データベース情報「G-Search」の平成6年5月11日付け朝日新聞東京朝刊13頁(乙10−2)及び同平成14年11月25日付け朝日新聞大阪地方版26頁(乙10−5)によれば,ウイスキーの包装(収納容器)である瓶(以下「ウイスキー瓶」という。)として,全体形状が,縦長の直方体の上部に首状部を,最上部に口部を設けた形状のものは多数存在し,また,包装容器の表面に浮き彫り状の模様を施したものも多数存在することが認められるところ,亀甲模様自体は,ありふれた模様であるから,本願商標を構成するウイスキー瓶の特徴は,ウイスキー瓶としての機能をより効果的に発揮させたり,美感をより優れたものにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものであって,ウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできない。したがって,本願商標は,その指定商品であるウイスキーに使用された場合,指定商品の取引者,需要者は,ウイスキー瓶の形状そのものと認識するにとどまるというべきであるから,本願商標は,指定商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,記述的商標に当たるというべきである。


 原告は,本件製品に本願商標に係る形状を採用した理由は,当初より自他識別力を発揮することを目的としたためであり,審決が認定するように「商品の機能(持ちやすさ)や美感(見た目の美しさ)を効果的に際立たせるため」(審決謄本3頁最終段落)ではない旨主張する。しかしながら,審決の上記説示は,原告が本願商標を採用した理由について述べたものではなく,「商品の機能(持ちやすさ)や美感(見た目の美しさ)を効果的に際立たせるための範囲内のもの」として,上記のとおりウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできないことについて述べたものであることが,その記載から明らかであるところ,原告が本願商標を採用した理由は,本願商標が記述的商標に該当するとの上記判断を何ら左右するものではないから,原告の上記主張は当を得ない。


 また,原告は,本件製品の「角瓶」との名称は,需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり,同名称は,本願商標の形状である「角型の瓶」あるいは「角張った瓶」に由来するものであることを理由に,本願商標に係る形状は自他商品識別力を有すると主張する。しかしながら,本件製品の「角瓶」との名称が需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり,同名称が本願商標の形状に由来するものであるとしても,このことから,「角瓶」との名称が,需要者の間に広く認識されるようになり,自他商品識別機能を果たすようになったということはできても,本願商標の形状自体が,直ちに自他商品識別機能を有するということはできず,上記判断を左右しない。


 さらに,原告は,商標法3条1項3号の趣旨が,記述的商標は,特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものであるとしても,本願商標がそれ自体識別力を有しており,本来的に単なる記述的な商標ではない上,本願商標に係る形状と同一又は類似の形状を採用したウイスキー製品は,日本国内において,過去においても現在においても,存在しないのであるから,本願商標について原告による独占的使用を認めたとしても,誰にも何ら障害は生じないと主張し,原告の商品以外に本願商標の形状と同様の形状のウイスキー瓶が存在しない旨の酒販業者作成の証明書(甲31−1〜125)を提出する。


 しかしながら,本願商標が,指定商品の取引者,需要者は,ウイスキー瓶の形状そのものと認識するにとどまるというべきであり,指定商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,記述的商標に当たることは上記のとおりである。


 また,この記述的商標に該当するというためには,必ずしも当該形状が現実に特定の商品等に使用されていることを要せず,取引者,需要者によって,当該形状が指定商品に係る商品等に用いられるであろうと一般的に認識されることをもって足りる(最高裁昭和61年1月23日第一小法廷判決・判例時報1186号131頁参照)から,本願商標に係る形状と同一又は類似の形状を採用したウイスキー製品が,現在まで日本国内において存在しないとしても,指定商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について特定人による独占的使用を認めることが,公益上適当としないものであることに変わりがない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。


(3) 以上によれば,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。


 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について

(1) 出願に係る商標が,指定商品に係る商品等の形状を表示するものとして商標法3条1項3号の記述的商標に該当する場合に,それが同条2項に該当し,登録が認められるかどうかは,使用に係る商標及び商品等,使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品等の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願商標が使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかどうかによって決すべきものであり,その場合に,使用に係る商標及び商品は,原則として出願に係る商標及び指定商品に係る商品等と同一であることを要するものというべきである。


(2) 原告が,我が国における代表的なウイスキーメーカーであることは公知の事実というべきところ,平成7年1月1日小学館発行の「世界のロングセラー」(甲4),平成15年1月6日原告東京広報部課長B作成の報告書(甲5),原告作成の「WHISKY BOOK」と題する冊子(甲6),平成8年原告作成の「我ら角瓶党」と題する冊子(甲7),平成7年ワールドフォトプレス発行の「モノ・マガジン300号記念特大号」(甲8),平成4年成美堂出版発行の「国産ウイスキー&ビールオールカタログ」(甲9),昭和28年1月10日付け日本経済新聞掲載の広告(甲10),同年2月28日付け日本経済新聞掲載の広告(甲11),同年3月5日付け讀賣新聞掲載の広告(甲12),同年4月4日付け毎日新聞夕刊掲載の広告(甲13),同年12月1日付け毎日新聞掲載の広告(甲14),平成13年11月20日講談社発行の「世界の名酒事典2002年版」(甲17),昭和44年6月1日原告発行の「みとくんなはれ サントリーの70年?」と題する冊子(甲18),昭和34年ないし昭和52年の原告作成の新聞広告(甲19〜25),平成8年ころ原告作成の製品広告(甲26),平成14年4月1日原告作成の「サントリー製品一覧」(甲27),平成10年8月10日原告法務部課長C作成の報告書(甲28),平成15年4月2日原告作成のコマーシャルフィルムキャプチャー画像(甲34−1〜3),同年4月4日原告制作部課長D作成の報告書(甲35),平成12年ころ原告撮影のペットボトル入り本件製品の写真(甲36−1,2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。


ア 本件製品は,原告が昭和12年に販売を開始した商品であり,販売当初は「角瓶」の表示を用いてはいなかったが,容器として角型の瓶を使用していたことから,次第に需要者の間で本件製品を「角瓶」と呼び慣わされるようになり,原告自身においても,遅くとも昭和28年には,広告宣伝中で本件製品を特定するために「角瓶」の表示を用い,また,一般の刊行物においても,本件製品を指称するのに「角瓶」の表記を用いるようになって現在に至っている。


イ 本件製品のウイスキー瓶には,昭和12年の発売開始より現在まで,主として,立体的形状は,本願商標と同一と認められるものが使用されているが,その表面楕円形部には,口部を除く瓶全高の約2分の1の大きさの楕円形黄色地に金色の縁取りがされたラベル(以下「表面ラベル」という。)が,肩部には,弦を上向きにした丸みを帯びた三日月形黄色地に金色の縁取りがされたラベル(以下「肩部ラベル」という。)が,裏面ひし形部には,ひし形黄色地のラベル(以下「裏面ラベル」という。)が,それぞれ貼付されている(以下,「使用に係る本件ウイスキー瓶」という。)。


 表面ラベルは,発売当初においては,ラベル上に上から順に,「向かい獅子マーク」,その下に「SPECIAL」「VERY RAREOLD」「SUNTORY」「Liqueur Whisky」「KOTOBUKIYA LTD」と表示されていた(甲18)が,その後,遅くとも昭和34年には,「VERY RARE OLD」「SPECIAL」「向かい獅子マーク」「SUNTORY」「Liqueur Whisky」「KOTOBUKIYA LTD」と表示されるようになり(甲19〜22),遅くとも昭和47年ころには,「GENUINEQUALITY」「SPECIAL」「向かい獅子マーク」「SUNTORY WHISKY」「SUNTORY LTD」と表示されるようになり(甲23〜25),平成元年ころからは,「SPECIALQUALITY」「Est.1899」,原告の社章である「響マーク」「SUNTORYWHISKY」「SUNTORY LTD」と表示されるようになり,現在に至っている(甲26−1,2)。肩ラベルは,現在のもの(甲26−1,2)には,上から「ウイスキー」,綴りの判別し難い筆記体の欧文字等が表示され,裏面ラベルは,現在のもの(甲34−1,3)には,バーコード等の表示がされているが,両ラベルの詳細な構成は証拠上判別することができず,その変遷の経緯等も証拠上明らかでない。


ウ 本件製品のウイスキー瓶には,本願商標と同一と認められる立体的形状のもののほか,本願商標とは明らかに異なる立体的形状のもの(甲12左から3番目の「ポケット瓶」,甲18の3枚目右下段の右から2番目及び4番目のもの,甲36−1の2.7リッター瓶,甲36−2の4リッター瓶)も存在する。


エ 本件製品の販売数量(ただし,「白角」「味わい角瓶」等の姉妹品を含む。)は,昭和12年から平成9年までの61年間の合計が6000万ケース(1ケースは12本)を超え,平成元年から平成3年までは毎年200万ケース以上,平成4年から平成9年までは毎年300万ケース以上であり,また,本件製品は全国において販売されている。そして,原告は,本件製品の販売開始以降,新聞,雑誌,テレビ,交通広告等,多くの媒体において,継続して広告活動を行ってきているところ,本件製品の広告の多くには,瓶の形状が表示されている。


(3) そこで,本願商標と使用に係る本件ウイスキー瓶を対比すると,両者の立体的形状は,同一と認められる範囲内のものであると認められる。


 しかしながら,本願商標は,立体的形状のみからなるのに対し,使用に係る本件ウイスキー瓶には,透明なガラス瓶の表面楕円形部に表面ラベルが,肩部に肩部ラベルが,裏面ひし形部に裏面ラベルが付され,これらはいずれも黄色地の目立つものであり,特に表面ラベルには,上から順に,ラベル全高の約5分の1,全幅の2分の1の大きさの金色の「向かい獅子マーク」(発売当初から平成元年ころまで)又は「響マーク」(平成元年ころから現在まで),ほぼラベル全幅の装飾された大きく太めの書体で,冒頭の「S」「W」を赤色に,他を黒色又は青色にした「SUNTORY」(発売当初から昭和47年ころまで)又は「SUNTORY WHISKY」(昭和47年ころから現在まで)の欧文字,黒色ないし濃紺色の活字体で「KOTOBUKIYA LTD」(発売当初から昭和47年ころまで)又は「SUNTORY LTD」(昭和47年ころから現在まで)の欧文字が表示されている。


 また,表面ラベルの上記平面標章部分は,上記のとおり変遷が認められるものの,表面ラベルの形,大きさ及び楕円形黄色地に金色の縁取りがされている点は同一であると認められ,さらに,「向かい獅子マーク」又は「響マーク」,「SUNTORY」又は「SUNTORY WHISKY」の欧文字及び「KOTOBUKIYA LTD」又は「SUNTORY LTD」の欧文字は,全体の配置,色彩,デザイン等はほぼ同一の印象を与えるものと認められる。


 そして,ウイスキー瓶として,全体形状が,縦長の直方体の上部に首上部を,最上部に口部を設けた形状であるものは多数存在し,また,包装容器の表面に浮き彫り状の模様を施したものも多数存在することが認められるところ,亀甲模様自体は,ありふれた模様であること,本願商標を構成するウイスキー瓶の特徴は,ウイスキー瓶としての機能をより効果的に発揮させたり,美感をより優れたものにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものであって,ウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできないことは上記のとおりであるから,使用に係る本件ウイスキー瓶の立体的形状それ自体は,独立して,自他商品識別力を有するものではないばかりでなく,表面ラベルの平面標章部分を含む全体的な構成の中において,立体的形状の識別力は相対的に小さいものといわざるを得ない。


 これに対し,表面ラベルは,透明なガラス瓶の表面に口部を除く瓶全高の約2分の1の大きさの楕円形黄色地に金色の縁取りがされたものであり,そこには,ラベル全高の約5分の1,全幅の2分の1の大きさの金色の「向かい獅子マーク」又は原告の社章である「響マーク」及び原告の会社名を表すものと認められる「SUNTORY」の欧文字がラベル全幅の装飾された大きく太めの書体で,冒頭の「S」を赤色に,他を黒色又は青色で表示され,ウイスキーの欧文字の冒頭の「W」も赤色で表示されているのであるから,このような平面標章部分は,上記立体的形状に比べて,看者の注意をひく程度が著しく強く,商品の自他商品識別力が強い部分であると認められる。


 したがって,本願商標と使用に係る本件ウイスキー瓶とは,その立体的形状は同一と認められる範囲内のものであると認められるものの,両者は,立体的形状よりも看者の注意をひく程度が著しく強く商品の自他商品識別力が強い平面標章部分の有無において異なっているから,全体的な構成を比較対照すると,同一性を有しないというべきである。


  原告は,使用に係る本件ウイスキー瓶は,その亀甲模様が施された角張った瓶形という瓶の形状,立体的形状部分こそが,昭和12年以来65年もの長きにわたって需要者に強い印象,記憶を与え続けてきた最大の識別標識であるというべきであり,需要者は,原告製品を含めた他のウイスキー製品から,瓶の形状により識別しているのであって,ラベル上の「SUNTORY WHISKY」の文字や「響マーク」により識別しているものではないから,平面標章部分よりも立体的形状部分に施された装飾等がその需要者に強い印象,記憶を与えるものというべきであると主張するが,上記認定及び判断に照らし,採用することができない。


(4) 原告は,本件製品の「角瓶」との名称は,需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり,同名称は,本願商標の形状である「角型の瓶」あるいは「角張った瓶」に由来するものであること,また,甲29調査報告書の調査結果によれば,89パーセントの調査者が本願商標を「ウイスキー」であると回答し,74パーセントが「サントリー」,さらに,65パーセントが「角瓶」「角」(本件製品の略称)及び「白角」(本件製品の姉妹品)のいずれかと回答したというものであって,本願商標は,極めて長年にわたり使用されてきたことによる特別顕著性がある旨主張する。しかしながら,本件製品の「角瓶」との名称が需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり,同名称が本願商標の形状に由来するものであるとしても,このことから,「角瓶」との名称が,需要者の間に広く認識されるようになり,自他商品識別機能を果たすようになったということはできても,本願商標の形状自体が,直ちに自他商品識別機能を有するということはできないことは,上記のとおりである。また,甲29調査報告書及び甲30報告書によれば,株式会社社会調査研究所が,平成10年7月25日から同月27日までの間,東京都内及び大阪市内において,男性の通行人200人に別紙目録上下段各右側の図とほぼ同一と認められる図を示して連想する,?商品ジャンル(種類),?メーカー(製造者)及び?ブランド(銘柄)を質問したところ,その回答は,?については,89%がウイスキー,?については,74%が「サントリー」,?については,29%が「角瓶」,28%が「角」,8%が「白角」であったことが認められる。


 しかしながら,甲29調査報告書の対象者は,すべて男性であるところ,本願商標の指定商品の取引者,需要者は男性に限られないから,対象者の選定には適切を欠くものがあるといわざるを得ない。


 さらに,甲29調査報告書の調査は,上記のとおり瓶の形状を表した図面から連想する商品ジャンル(種類),メーカー(製造者)及びブランド(銘柄)について質問したものであるから,その回答に当たって,回答者は,同調査の趣旨を推測しながら,正解が何であるかについて熟慮した上で回答したことが推認されるところ,それにもかかわらず,対象者の26%が原告を想起しなかったものである。


 そして,本願商標の指定商品はウイスキーであり,その需要者には主婦等の一般の消費者が含まれること,また,酒販店のほかスーパーマーケットの店頭等で大量に販売されることも多く,需要者が短時間のうちに購入商品を決定する場合もまれではないことは当裁判所に顕著であって,その需要者がこれを購入するに際して払う注意力もさほど高いものとはいえないことを考慮すれば,上記調査結果は,立体的形状のみからなる本願商標の特別顕著性を認めるに十分ではないというべきである。


(5) したがって,本願商標は,その指定商品について使用された結果,自他商品の識別力を獲得し,商標法3条2項の適用を受けることができる商標には当たらないとした審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張も理由がない。

 3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


詳細は、本判決文を参照してください。


追伸;<気になった記事>

●『DISH,DVR特許侵害に関して「当社の新ソフトは潔白」とTiVoを提訴 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080602/305626/
●『衛星放送の米ディッシュ、米TiVOとの特許侵害紛争に反撃』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3616