●平成19(行ケ)10411審決取消請求事件 「トリートメントチャージ」

 本日は、『平成19(行ケ)10411 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「トリートメントチャージ TREATMENT CHARGE」 平成20年05月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080529084929.pdf)について取り上げます。


 本件は、被告の商標登録について,原告が商標法4条1項11号違反を無効理由として商標登録の無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求め、その請求が認容された事案です。


 本件では、審判段階では、本件登録商標「トリートメントチャージ TREATMENT CHARGE」が、原告の有する引用商標『チャージ CHARGE』等と非類似とした判断が、知財高裁により類似する判断され点で参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


2 取消事由1(本件商標と引用商標1及び2の類似性に関する判断の誤り)について


(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。



 そして,商標は,その構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから,みだりに,商標構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが,他方,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念が生ずることがあるのは,経験則の教えるところである。そしてこの場合,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。また,外観についてもその一部が他人のそれと類似することによって,両商標が類似すると解することができる場合がある。


 そこで,以上の見地から本件事案について検討する。

(2) 本件商標の内容

ア 本件商標は,前記のとおり,上段に,「トリートメントチャージ」と間隔を空けずに同一書体かつ同一の大きさで表記し,下段に,「TREATMENT CHARGE」と間隔を空けて同一書体かつ同一の大きさで表記したものである。


イ そこで,まず,本件商標に用いられている「トリートメント」,「TREATMENT」,「チャージ」,「CHARGE」の語義について検討する。


(ア) 「トリートメント」,「TREATMENT」の語義

a 「トリートメント」は,「扱い」,「待遇」,「治療(法)」,「手当て」の語義を有する言葉として辞典に掲載されている(甲8[津田武編「ビジネスマンのためのカタカナ語新辞典〔改訂版〕」213頁株式会社旺文社1987年発行],甲9[斎籐栄三郎編「外国からきた新語辞典第5版」250頁株式会社集英社昭和60年4月15日発行])。そして,証拠(甲9,12〜20,22,26,29〜93,113,114)及び弁論の全趣旨によれば,「トリートメント」は,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」との関係では,「手入れ」,「保護」の意味で使用されているほか,以下のとおり,髪の毛及び頭皮を補修ないしは保護する商品を示す名称としても使用されており,髪の毛及び頭皮を補修ないしは保護する商品を示す普通名称となっていると認めることができる。

 ・・・省略・・・

b 被告は,「トリートメント」の語は,それ自体では,商品が特定されないと主張するが,上記aのとおり,髪の毛及び頭皮を補修ないしは保護する商品を示す普通名称としても使用されていることからすると,必ずしも商品が特定しないということはできない。


c 「トリートメント」は,「TREATMENT」に由来する外来語であるから,「TREATMENT」の語義も,上記「トリートメント」と同様のものであると認められる。


d そうすると,「トリートメント」,「TREATMENT」は,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」に使用された場合には,識別力の乏しい言葉であるということができる。


(イ) 「チャージ」,「CHARGE」の語義

a 「チャージ」は,「料金」,「手数料」,「責任」,「義務」,「詰め込み」,「積み込み」,「燃料補給」,「充電」等の語義を有する言葉として辞典に掲載されている(前記甲8の184頁,前記甲9の222頁,甲10[松村明ほか編「旺文社国語辞典改訂新版」773頁株式会社旺文社1988年発行])。


b そして,「チャージ」には,次のような用例があることが認められ,このうち,(a)〜(d)は,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」に関する用例である。

 ・・・省略・・・

c 証拠(甲4,5,6の1〜27,7,乙5)によれば,?原告は,平成17年春に,引用商標1及び2と同一性のある商標を使用した商品である「薬用育毛トニック」と「薬用コンディショニングシャンプー」を発売したこと,?原告は,平成17年4月には,全国の新聞各紙で,これらの商品の広告をしたが,その中で,「頭皮と髪にチャージ!」,「毛根と頭皮にチャージ!」,「チャージ(CHARGE)は[補給・蓄える・充電]するという意味。薬用チャージは,毛根と頭皮に十分な栄養を与え,髪の生育環境を整え自分本来の髪を維持するための育毛ケア商品です。」との記載をしたこと,?原告は,インターネットサイトにおいて,上記各商品について「抜け毛・薄毛で悩む男性の頭皮と毛根に血流をチャージ!」と記載し,上記「薬用育毛トニック」について「有効成分と瞬間冷却効果を毛根と頭皮にチャージする…」と記載したこと,以上の事実が認められる。


d 以上によると,「チャージ」は,日本語としても広く用いられている言葉で,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」に関しては,「補給する」,「蓄える」などといった意味の言葉として用いられることがあるものと認められる。「チャージ」は,「CHARGE」に由来する外来語であるから,「CHARGE」の語義も,上記「チャージ」と同様のものであると認められる。


 そうすると,「チャージ」及び「CHARGE」は,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」に使用された場合には,特に識別力が高い言葉であるとまでいうことはできないものの,上記(ア)で述べた「トリートメント」及び「TREATMENT」よりは識別力が高いことは明らかである。


ウ 次に,本件商標が,「トリートメント」と「チャージ」,「TREATMENT」と「CHARGE」に分離して印象されるかどうかについて検討する。


(ア) 本件商標のうち上段の「トリートメントチャージ」の部分は,「トリートメントチャージ」と,間隔を空けずに同一書体,同一の大きさで表記されている。


 しかし,上記イのとおり,「トリートメント」と「チャージ」は,別個の意義を有する言葉であって,「トリートメントチャージ」という一つの言葉が存するわけではないから,本件商標のうち「トリートメントチャージ」の部分は,「トリートメント」と「チャージ」に分離して認識されるというべきである。また,本件商標のうち「トリートメントチャージ」の部分が11音から成っていることからすると,常に一連のものとして称呼されるということもできない。


(イ) 一方,本件商標のうち「TREATMENT CHARGE」の部分は,同一書体,同一の大きさで表記されているものの,「TREATMENT」と「CHARGE」の間に間隔が空いており,上記イのとおり「TREATMENT」と「CHARGE」は別個の意義を有する言葉であって,「TREATMENTCHARGE」という一つの言葉が存するわけではないことからすると,本件商標のうち「TREATMENT CHARGE」の部分は,「TREATMENT」と「CHARGE」に分離して認識されるというべきである。また,本件商標のうち「TREATMENT CHARGE」の部分が15音から成っていることからすると,常に一連のものとして称呼されるということもできない。


(ウ) したがって,本件商標は,「トリートメント」と「チャージ」,「TREATMENT」と「CHARGE」に分離して印象されるものであって,全体を一連,一体の商標として把握することができるというものではない。


 そして,本件商標の「チャージ」及び「CHARGE」の部分からは,「チャージ」の称呼及び上記イ(イ)認定の観念が生ずるものと認められる。


(3) 引用商標1及び2の内容


ア 引用商標1は,前記のとおり,上段に「CHARGE」と表記し,下段に「チャージ」と表記したものである。引用商標1からは,「チャージ」の称呼が生ずるほか,前記(2)イ(イ)認定の観念が生ずるものと認められる。


イ 引用商標2は,上部に「Charge」と大きく表記し,その左上に小さく「チャージ」と表記し,下部に図形を配したものである。引用商標2からは,「チャージ」の称呼が生ずるほか,前記(2)イ(イ)認定の観念が生ずるものと認められる。


(4) 本件商標と引用商標1及び2の類否


ア 以上の(2)及び(3)で述べたところに照らして,本件商標と引用商標1及び2とを対比すると,本件商標と引用商標1及び2とは,外観において「チャージ」及び「CHARGE」又は「Charge」の文字を含む点が共通しており,称呼においても「チャージ」の称呼を生ずる点が共通している。また観念においても前記(2)イ(イ)認定の観念が生ずる点が共通しているということができる。


 このように,本件商標は,外観,呼称及び観念において引用商標1及び2と共通しているのであるから,本件商標は引用商標1及び2と類似するものと認められる。


イ 被告は,?「化粧品,せっけん類」について,識別力を欠くか極めて識別力が弱い文字と「CHARGE」又は「チャージ」の文字との結合商標が,引用商標1及び2とは非類似の商標として登録されている(甲27),?「ディープクリアチャージ/DEEP CLEAR CHARGE」及び「クリアチャージ/CLEAR CHARGE」については,原告が,引用商標1を引用し,これらの商標は商標法4条1項11号に該当すると主張して登録異議の申立てをしたが,これらの商標はいずれも「構成全体をもって一体不可分の造語を表したものと認識し把握されるとみるのが自然である」として,登録が維持されている(平成10年異議第90933号,平成10年8月18日決定[甲21]。平成10年異議第90971号,平成10年8月18日決定[乙6]),と主張するが,いずれも本件商標とは異なる「CHARGE」又は「チャージ」を含む商標と引用商標1及び2との類否についての特許庁の判断を主張するものにすぎず,上記アの認定を左右するものではない。


 また,被告は,指定商品が,「薬剤」(乙7),「栄養補助食品(サプリメント)」(乙8),「清涼飲料」(乙9)についての商標の登録状況を見てみると,多数の「CHARGE」又は「チャージ」の文字のみからなる商標と「CHARGE」又は「チャージ」の文字及び一般的に識別力が高くないと思われる他の語からなる商標とが併存していると主張する。


 しかし,これらの事例は,本件商標とは指定商品を異にする上,被告主張にかかる「CHARGE」又は「チャージ」を含む商標も本件商標とは異なるから,上記アの認定を左右するものではない。


(5) 以上のとおり本件商標は引用商標1及び2と類似するから,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした審決の判断には誤りがあり,取消事由1は理由がある。


3 結語

 よって,取消事由2について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから,認容することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。

 
 追伸;<気になった記事>

●『コーラ瓶の形はブランドの象徴…知財高裁が商標登録認める』http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080529-OYT1T00669.htm
●『知財高裁、コカ・コーラの瓶に立体商標認定 容器で国内初』http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080529AT1G2902229052008.html
●『立体商標:「コカ・コーラ瓶」認める 容器で初 知財高裁 』http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080530k0000m040056000c.html
・・・サントリーの「角瓶」やヤクルトの「容器」では、立体的な形状のみでは立体商標は認められなかったに過ぎず、確か、その立体的形状と文字とを結合した商標として認められているものと思います。しかし、ミニマグライトのときも知財高裁(今回のコカコーラ事件と同様、裁判長は飯村敏明裁判官)で判断がひっくり返り、形状のみで立体商標が認められており、この2つの事件を考慮すると、サントリーの「角瓶」やヤクルトの「容器」でも認められても良いような気がするのですが?・・・。