●平成19(行ケ)10390 審決取消請求事件 意匠権「木ねじ」(2)

 今日は、飯田橋の家の光会館でINPITの平成20年度特許流通講座(基礎編)を受講してきました。5名の講師が講演され、どの方の講義も個性的で、参考になりました。


 なお、昨日紹介していれば良かったのですが、今日の午後11時台に、NHKのBS1の“きょうの世界”で、『 “日本ブランド”を守れ!〜急増する外国企業の便乗商法〜 』(http://www.nhk.or.jp/kyounosekai/) が放送されるとのことです。興味のある方はぜひともご覧になってください。


 さて、本日も、昨日に続いて『平成19(行ケ)10390 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「木ねじ」平成20年05月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080527085819.pdf)について取り上げます。


 本日は、取消事由2(共通点及び差異点の認定の誤り)と、取消事由3(類否判断の誤り)について取り上げます。


 本件では、部分意匠に係る物品の類似の判断の点で参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 清水知恵子)は、

2 取消事由2(共通点及び差異点の認定の誤り)について

 原告は,審決が本件登録意匠と引用意匠の当該部分の形態の共通点として「b)全体の概略寸法比について,底面視下端の直径を基準とすると,高さは概ね1.5倍程,上面の向かい合う辺の間の長さ(内接円の直径)を概ね2.5倍程と…している点」,「c)上端周囲について,上面に対して垂直状の僅かの幅の面取り部を設けた点」(8頁10行〜15行)と認定したこと,また差異点として「ウ)上面に対する下端の相対的大きさについて,本件登録意匠は,引用意匠よりも僅かに大きくしている点」(8頁23行〜24行)と認定したことはいずれも誤りであると主張するので,これらの点について検討する。


(1) まず共通点(b)(全体の概略寸法比)の認定について,原告は,底面視下端の直径を基準とした場合の高さは,本件登録意匠において1.285倍,引用意匠においては2倍であり,上面の向かい合う辺の間の長さは,本件登録意匠において2.571倍,引用意匠においては3倍であると主張する。


 しかし,審決が示した上記数値(1.5又は2.5)は全体の概略寸法比に関するものであって,おおよその割合を示したものにすぎない上,本件登録意匠及び引用意匠のいずれについても拡大詳細図が存在せず,精密な計測は困難であり,誤差が生じることはやむを得ないものである。


 また,意匠同士の形態を対比するために上記のような概略寸法比を示した意味は,視覚を通じて与えられる美感の共通又は差異をあらわす方法の一つとして,底面視下端の直径,高さ,上面の向かい合う辺の間の長さのおおよその寸法比を用いたものにすぎず,数値の比較そのものを目的としているものではない。


 そして,本件登録意匠の正面図(実線部分)と,引用意匠の当該部分をそれぞれ拡大すると以下のとおりであって,底面視下端(下記各図形の下底辺に相当),高さ,上面の向かい合う辺の間の長さ(下記各図形の上底辺に相当)という各要素の構成によって視覚的に訴える全体の形状は,本件登録意匠と引用意匠の当該部分とで大きく異なるものではなく,むしろ,ほぼ同様の視覚的印象を与えるものということができる。


 以上によれば,審決が,本件登録意匠と引用意匠の当該部分における底面視下端の直径を基準とした場合の高さの割合を「概ね1.5倍程」,上面の向かい合う辺の間の長さの割合を「概ね2.5倍程」として,これを共通点として認定したことが誤りであるということはできない。


(2) 次に共通点(c)(上端周囲に僅かの幅の面取り部を設けた点)の認定に関して,原告は,本件登録意匠における上端周囲の面取り部の幅は高さの0.1の割合であるのに対し,引用意匠における割合は0.22であり,審決がいずれの面取り部も「僅かの幅」であると認定したのは誤りであると主張する。


 しかし,本件登録意匠及び引用意匠の当該部分において上端周囲に垂直状に設けられた面取り部を視覚的に観察すれば,いずれの意匠においても面取り部の幅は意匠の当該部分の全体の高さと比べて相対的に小さいものであり,これを審決が「僅かの幅の面取り部」と認定したことに誤りがあるということはできない。


 これに対し原告は,引用意匠の当該部分における面取り部の幅は高さの0.22の割合であるから僅かの幅とはいえないと主張するが,何をもって僅かというかは,全体の形状との相対的な関係において視覚的に捉えた結果によるものであり,全体の高さの0.22の割合の幅であっても,全体の高さと比べて相対的に小さく,僅かな幅であるとの視覚的な印象を与えることは否めないものである。


 しかも,審決は差異点(エ)として上端周囲の面取り部の幅が本件登録意匠においては引用意匠よりも狭いことを認定しており,両意匠における面取り部の幅の相違については差異点として考慮し,全体的な類否判断の中で検討しているのであるから,この点に照らしても審決の共通点(c)に関する認定が誤りであるということはできない。


(3) また差異点(ウ)(上面に対する下端の相対的大きさについて本件登録意匠は引用意匠よりも僅かに大きくしている点)の認定に関して,原告は,本件登録意匠は引用意匠の当該部分と比べて上面に対する下端の相対的大きさが「僅かに大き」いとはいえないと主張する。


 しかし,前記(1)において検討したとおり,底面視下端の直径を基準とした場合の上面の向かい合う辺の間の長さの割合は,本件登録意匠と引用意匠の当該部分とでほぼ同様の視覚的印象を与えるものであって,その中で敢えて相違を指摘するとすれば,上面に対する下端の相対的大きさが若干異なる点を挙げることができ,これを審決は差異点(ウ)として認定しているものであるから,審決が「上面に対する下端の相対的大きさについて,…僅かに大きくしている」と認定したことに誤りはない。


(4) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由2は理由がない。


3 取消事由3(類否判断の誤り)について

(1) 原告は,審決が差異点(ア)(上面中央の駆動穴の形状)について「両駆動孔は,本件登録意匠出願前,既に,単なるバリエーションの範囲,すなわち,普通に行われる置換の範囲にすぎないものに至っていることを伺わせるものであり,仮に,それまでに至っていないとしても本件登録意匠特有の特徴に該当せず,着目されるほどの差異でないことは明らかである」(9頁2行〜5行)と判断したことは誤りであると主張するので,この点について検討する。


ア 甲2(「JISハンドブック3 ねじ」)34頁には,一般に用いるねじの用語として,ねじの頭部の上面に設けられる駆動穴に関し,「十字穴」「六角穴」「四角穴」の3種類の駆動穴が記載されている。そのうち「十字穴」については「ねじ回しの先端を差し込んでねじ部品を回転するために設けた十字形のくぼみ」,「四角穴」については「断面が四角形の棒スパナを差し込んでねじ部品を回転するために設けた四角断面形のくぼみ(付図2117)」をそれぞれ意味するものと記載され,同文献の49頁には,付図2117として,平面視正方形状の四角穴の図が記載されている。


 また甲3(「ALC建築の仕上げ集」)146頁には,「セルフドリルスクリュー木下地用」の「ARSタイプ」として,ねじの頭部の上面に平面視正方形状の駆動穴を有するねじの平面図及び側面図が記載され,また「ALSタイプ」として,十字状の駆動穴を有するねじの平面図及び側面図が記載されている。


 上記の各記載によれば,ねじの頭部の上面に設けられる駆動穴としての平面視正方形状穴と十字状穴は,いずれも本件登録意匠の出願前に周知の形状であると認められる。そして,甲2(「JISハンドブック3 ねじ」)に「十字穴」「六角穴」「四角穴」の3種類の駆動穴が記載されていることからもうかがわれるように,ねじの頭部の上面に設けられる駆動穴としては,通常,上記3種類のうちのいずれかが採用されるのであって,いずれの形状も,上面に駆動穴が設けられているねじの性質上極めてありふれた形状であるというほかなく,取引者又は需要者の注意を惹く部分とはいえないものである。


イ これに対し原告は,十字状穴や平面視正方形状穴がねじの頭部の上面に設けられる駆動穴として周知であるとしても,本件登録意匠は,逆正六角錐台状という頭部全体の形状と駆動穴の形状とが組み合わされて新しい意匠を構成したものであり,意匠全体としての新規性は肯定されるべきであると主張する。


 しかし,周知の形状を組み合わせることにより全体として新規な美感をもたらす形態が新たに形成されることが一般論としてあり得るとしても,ねじの頭部の上面に設けられた駆動穴については,ドライバ等に嵌合される駆動穴の形状として取引者及び需要者に認識されるのであり,これがねじの頭部全体の形状と相まって一つのまとまった独特の美感を引き起こすことは通常の場合想定し難いものである。


 少なくとも本件登録意匠及び引用意匠の当該部分のように駆動穴の形状が極めてありふれた形状である場合には,駆動穴の形状は取引者又は需要者の注意を惹かず,ねじの頭部全体の形状などの駆動穴以外の部分が独特の美感をもたらすものとして取引者又は需要者の注意を惹くものとなるというべきである。


 したがって,本件登録意匠においてねじの頭部全体の形状と駆動穴の形状とが組み合わされたことによって引用意匠の当該部分とは異なる格別の美感が引き起こされたということはできず,原告の前記主張は採用することができない。


ウ また原告は,平面視正方形状穴と十字状穴とでは明らかに異なった美感を与えるにもかかわらず,これが着目されるほどの差異でないとされるのは,駆動穴という機能的共通性から類否判断をしたものであって駆動穴の形状の相違がもたらす美感の相違を無視していると主張する。


 しかし,前記アにおいて検討したように,本件登録意匠における平面視正方形状穴と引用意匠の当該部分における十字状穴はいずれもねじの頭部の上面に設けられる駆動穴の形状として極めてありふれたものであり,取引者又は需要者の注意を惹かないものであることから,審決は,これを着目されるほどの差異でないとしたものであって,駆動穴の有する機能的共通性に着目して類否判断をしたものではないのであるから,原告の前記主張は採用することができない。


(2) また原告は,差異点(ウ)(上面に対する下端の相対的大きさ)及び(エ)(上端周囲の面取り部の幅)が意匠全体の類否判断に及ぼす影響について審決の判断は誤りであると主張するので,この点につき検討する。


 まず差異点(ウ)に関しては,前記2(1)に掲示した本件登録意匠と引用意匠の当該部分の拡大図をみても,両意匠における上面に対する下端の相対的大きさの差異は,よく注視すれば気が付くという程度の差異であって,意匠全体の類否判断に殆ど影響を及ぼさないものである。


 次に差異点(エ)に関しては,たしかに本件登録意匠と引用意匠の当該部分における上面周囲の面取り部の幅の相違は,前記拡大図によれば一見して看て取ることができる。しかし,共通点(a)〜(c)及び差異点(ア)〜(エ)を総合的に評価する中で,差異点(エ)が意匠全体の類否判断にいかなる影響を及ぼすかという観点からみると,ねじの頭部の形状として視覚的に最も強く訴えるのは,その全体的形状(概略倒正六角錐台状であることのほか,底面視下端,高さ,上面の向かい合う辺の間の長さ等の各要素により構成される全体の形状を意味する。)であり,共通点(a)及び(b)がこれに相当する。これに対して,差異点(エ)は,もともと両意匠の当該部分における上面周囲の面取り部の幅が全体の高さに比べて相対的に小さいものである(共通点(c))という前提において,その幅の相違が差異点(エ)として認定されたものであって,その差異によって引き起こされる美感の相違は,共通点(a)及び(b)によって与えられる一つのまとまった独特の共通の美感と比較すれば,僅かなものである。


(3) 以上から,審決が,「a」及びb」の共通点に係る構成態様は,全体に係わる特徴的構成態様を構成すると認められ,両意匠それぞれにおいて訴求力の強い共通した視覚的まとまりを生じさせるものであり,この共通する視覚的まとまりは,ア」ないしエ」の差異点が生じさせる視覚的効果を大きく凌駕し,意匠全体として共通した基調を形成するものである」(9頁31行〜35行)と判断したことは正当であり,原告主張の取消事由3は理由がない。


4 結語

 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。


よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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