●平成19(行ケ)10390 審決取消請求事件 意匠権「木ねじ」(1)

 本日は、『平成19(行ケ)10390 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「木ねじ」平成20年05月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080527085819.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠登録無効審判の無効審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、部分意匠に係る物品の類似の判断の点で参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 清水知恵子)は、

2 取消事由1(意匠に係る物品の共通性に関する認定の誤り)について

(1) 本件登録意匠の意匠に係る物品は木ねじであるのに対して,引用意匠の意匠に係る物品はタッピンねじであることは,当事者間に争いがない(なお,引用文献〔甲1〕の【発明の名称】欄には「ねじ,タッピンねじ及びドリルねじ」と記載されているが,引用意匠は引用文献の図1に示されたものであり,引用文献の発明の詳細な説明には「図1は…タッピンねじを例示している」〔段落【0013】〕と記載されていることから,引用意匠の意匠に係る物品はタッピンねじである。)。


 そこで,本件登録意匠の意匠に係る物品である木ねじと引用意匠の意匠に係る物品であるタッピンねじが物品としての共通性を有するか否かについて検討するに,甲11(「JISハンドブック4−1 ねじ?」)38頁には,木ねじにつき「木材にねじ込むのに適した先端とねじ山とをもつねじ」(対応英語は「wood screw」)と記載され,タッピンねじについては「ねじ自身でねじ立てができるねじの総称」(対応英語は「self tapping screw;tapping screw」)と記載されている。ここにいう「tap」とは,機械の分野で雌ねじ切り,すなわちねじの溝を切る作業を意味し(ランダムハウス英和大辞典第2版,広辞苑第6版参照),自らねじの溝を切る作業を行いながらねじ込まれるようなねじ部の構造を有するねじをタッピンねじというものと解される(なお,甲2〔「JISハンドブック3 ねじ」〕696頁には,六角タッピンねじの典型的な構造を示す図面が記載されている。)。


 ところで木ねじもまた,「木材にねじ込むのに適した先端とねじ山とをもつねじ」という上記の定義から理解されるように,ねじ自身でねじ切り(ねじ立て)ができるねじであり,本件登録意匠の正面図等をみても,破線で示されたねじ部については典型的なタッピンねじと同様の構造を有している。


 このように木ねじとタッピンねじとは,ねじ自身でねじ切り(ねじ立て)ができるねじである点で共通し,ねじの構造及び機能においてほぼ同様のものであるということができ,対象となる締結部材が木ねじでは木材を対象としている点において相違するにすぎないものであるから,物品としての共通性を有するものである。


(2) 次に,本件登録意匠と引用意匠の当該部分における用途及び機能の共通性について検討する。


ア 本件登録意匠はねじの頭部を対象とするものであり,引用意匠における当該部分も同じくねじの頭部である。ねじの頭部は,その上面に駆動孔が設けられている場合にはドライバ等に嵌合されて回転し,あるいはボルトやナットの場合にはスパナ等に挟まれて回転して,ねじの締め付けや緩めに用いられる部分であって,本件登録意匠と引用意匠の当該部分はいずれもねじの頭部であるという点で用途及び機能を共通にする。さらに,本件登録意匠と引用意匠の当該部分は,いずれもその上面に駆動孔が設けられているねじの頭部であって,その点においても用途及び機能を共通にする。


 したがって,本件登録意匠と引用意匠の当該部分について,その用途及び機能に共通性があるというべきである。


イ これに対し原告は,審決は本件登録意匠と引用意匠の当該部分の用途及び機能の共通性について検討しておらず,認定手法に誤りがあると主張する。


 しかし,審決が「両意匠は意匠に係る物品が共通」する(8頁2行〜3行)と認定したのは,物品全体の用途及び機能の共通性にとどまらず,物品の当該部分の用途及び機能についても,両意匠の当該部分が(その上面に駆動穴を有する)ねじの頭部である以上その用途及び機能に共通性があるのは当然のこととして,物品全体の共通性と物品の当該部分の共通性を一括して前記のとおり認定したものと解することができ,審決の上記認定が誤りであるということはできない。


ウ また原告は,本件登録意匠の上面に設けられた駆動孔は平面視正方形状穴であるのに対し,引用意匠の当該部分の上面に設けられた駆動孔は十字状穴であって駆動穴としての機能を異にするから,本件登録意匠と引用意匠の当該部分の用途及び機能は異なると主張する。


 しかし,ねじの頭部の上面に設けられた駆動穴が平面視正方形状穴であるか十字状穴であるかという点については,本件登録意匠と引用意匠の当該部分の形態の差異をあらわすものとして,両意匠の当該部分の形態を対比し全体的に観察する中で類否判断にいかなる影響を及ぼすものであるかが検討されるべき事項であって,物品の当該部分の用途及び機能が共通性を有するか否かの判断において検討されるべきものではない。


 なぜなら,物品としての共通性は,意匠同士を対比しそれぞれの物品に表された形態が取引者又は需要者にいかなる美感を与えるのかを評価判断する前提として,対比される意匠同士の物品の用途及び機能が同一又は類似であることが必要とされるものであり,上記評価判断に必要十分な範囲を超えて物品の用途及び機能の同一性又は類似性が要求されるならば,かえって上記評価判断を正当に行うことが妨げられてしまうからである。そして,このことは物品全体についての用途及び機能の共通性にとどまらず,物品の当該部分についての用途及び機能の共通性に関しても同様である。


 上記において検討したとおり,本件登録意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品がそれぞれ木ねじとタッピンねじである点で物品全体としての用途及び機能を共通にし,また物品の当該部分がいずれも(その上面に駆動穴が設けられている)ねじの頭部である点で物品の当該部分についての用途及び機能を共通にするものであるところ,かかる物品(当該部分)の共通性は両意匠の形態を対比して類否判断をする前提として必要十分なものである。


 ・・・省略・・・

(3) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1は理由がない。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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