●平成19(行ケ)10241 審決取消請求事件「収納袋の排気弁」(1)

本日は、『平成19(行ケ)10241審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「収納袋の排気弁」平成20年05月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080522153057.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、請求項1に係る発明の部分についてのみ無効審決の取消しが認容された事案です。


 本件では、まず、無効資料である甲第1号証の図面の記載を参酌しての「数回転」の記載の有無の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 石原直樹、裁判官 杜下弘記)は、


1 取消事由1(相違点2の認定の誤り)について


・・・省略・・・

(3) しかしながら,改めて甲1発明について検討するに,上記(1)のイの(ア)〜(キ)の各記載を含め,甲第1号証には,甲1発明(図1〜3記載の実施例)の蓋体2の回転操作に関し,その回転量が「数回転」であることは記載されていない。


 確かに,図1,2と図3とを対比すると,基体1の螺刻部11と蓋体2の螺刻部21との相対的な位置関係の変化から,弁体3を下方に押圧して通風孔5を閉止状態としたとき(図3)と,弁体3の上下動を許容する状態としたとき(図1,2)との間で,蓋体2を3回転程度回転操作するように見えないこともないが,実用新案公告公報である甲第1号証の図面は,元来が実用新案登録出願の願書に添付された図面であり,このような特許,実用新案登録出願の願書に添付された図面は,明細書の記載の補助として,発明又は考案の内容を理解しやすくするために用いられるものであって,必ずしも設計図面のように詳細,正確なものではないから,甲第1号証の図1〜3に係る螺刻部11と螺刻部21との相対的な位置関係の表示により,上記のように見えるからといって,それのみで,甲1発明が蓋体2を「数回転」回転操作するものに限定されるとすることはできないというべきであり,そうであれば,甲第1号証には,甲1発明に関し,弁体3を下方に押圧して通風孔5を閉止した状態と,弁体3の上下動を許容する状態とを,蓋体2を「回転操作」することにより切り換える技術が開示されているに止まるものと認めるのが相当である。


 したがって,甲1発明のロック機構について,「蓋体2を一方向に数回転回転操作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風口5を閉止状態に保持し,蓋体2を他方側に数回転回転操作することにより弁体の上下動を許容するロック機構を蓋体の下面側に設けている」とした本件審決の認定は,蓋体2の回転量を「数回転」と限定した点において誤りであり,この認定に基づく本件発明1と甲1発明との相違点2の認定も,甲1発明につき,蓋体2の一方向及び他方側への回転操作に係る回転量を「数回転」とした点において誤りがあるものといわざるを得ない。 


 もっとも,本件審決の相違点2の認定のうち,上記の点を除く部分,すなわち,「ロック機構の操作手段として,本件発明1では,操作部材を一方側の位置へ移動操作することによって弁板を下方に押圧して排気孔を閉止状態に保持し,上記操作部材を他方側の位置へ移動操作することによって弁板の上下動を許容するのに対し,甲1発明では,蓋体2を一方向に回転操作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風孔5を閉止状態に保持し,蓋体2を他方側に回転操作することにより弁体の上下動を許容するものである」とした認定に誤りがないことは明らかである。 』

 
 と判示されました。


 『特許,実用新案登録出願の願書に添付された図面は,明細書の記載の補助として,発明又は考案の内容を理解しやすくするために用いられるものであって,必ずしも設計図面のように詳細,正確なものではないから,甲第1号証の図1〜3に係る螺刻部11と螺刻部21との相対的な位置関係の表示により,上記のように見えるからといって,それのみで,甲1発明が蓋体2を「数回転」回転操作するものに限定されるとすることはできない』という判断は、とても参考になります。

 
 詳細は、本判決文を参照してください。