●平成20(行ケ)10014審決取消請求事件「テディベアーTEDDYBEAR」(2)

 本日も、『平成20(行ケ)10014 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「テディベアー TEDDYBEAR」平成20年05月15日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080515135123.pdf)について取り上げます。

 
 本日は、取消事由3(被告による本件商標に係る商標権の取得等が国際信義に反した不正な目的をもったものであるにもかかわらずその点の判断をしなかった誤り)について取り上げます。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官飯村敏明、裁判官中平健、裁判官上田洋幸)は、

3 取消事由3(被告による本件商標に係る商標権の取得等が国際信義に反した不正な目的をもったものであるにもかかわらずその点の判断をしなかった誤り)

(1) 原告は,以下のとおり主張する。すなわち,セオドア・ルーズベルトの有名なエピソードに由来するテディベアの愛称をもつ小熊のぬいぐるみの著名性に便乗する不正な意図の下に,譲渡人は大文字からなる「TEDDYBEAR」の文字に片仮名を組み合わせた本件商標に係る商標権を取得し,被告はこれを譲り受けたのであって,そのような事情があるにもかかわらず,被告が通常使用権者によって使用商標を使用させているのであれば,譲渡人が本件商標に係る商標権を取得し,被告がこれを譲り受けて使用していることは,国際信義に反する不正な目的によるものであるから,本件商標の商標登録は取り消されるべきであると主張する。


(2) 以下,検討する。

 ア「テディベアー」及び「Teddy bear」の語については,甲1,甲15(乙4),甲16(乙5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


(ア) アメリカ合衆国第26代大統領であったセオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt)に関しては,1902年,狩猟に出かけた際,一匹の小熊を追いつめたが,その熊を撃たず,命を助けたという逸話が残されている。その逸話が,セオドア・ルーズベルトの優しさを示すものとして広まり,その後間もなく,有名な漫画家がその話を漫画に描き,それを見た者がぬいぐるみの熊を作って販売することを思いつき,自己の店で販売するぬいぐるみの熊に,「Teddy’s Bear」(「Teddy」(テディ)は,セオドア・ルーズベルトの名である「Theodore」の別称である。)という名を使うことについてセオドア・ルーズベルトの許可を求めた。


 その後,「Teddy bear」(又は「teddy bear」)という語は,アメリカ合衆国において,独特の形をしたぬいぐるみの熊を意味する語として広く用いられるようになった。


(イ) ジーニアス英和辞典(編集主幹:小西友七,発行所:株式会社大修館書店,1999年(平成11年)4月1日改訂版6版発行)には,「Teddy bear」という語について,「[しばしばt〜](ぬいぐるみの)クマの人形*1Teddy)が猟で子グマを助けた漫画から;英米の子供はたいていこの種のものを1つは持っている)).」と記載されている。


 また,ランダムハウス英和大辞典(編集主幹:小西友七,安井稔,國廣哲彌,堀内克明,発行所:株式会社小学館,1998年(平成10年)1月10日第2版第6刷発行)には,「teddy bear」という語について,「ぬいぐるみのクマ」,「1907.米;TheodoreRooseveltの別称Teddyにちなむ;狩猟中,彼は子グマの命を助けてやったといわれることから」などと記載されている。


イ 上記アの事実及び弁論の全趣旨を総合すれば,「Teddy bear」(又は「teddy bear」)の語は,アメリカ合衆国において,一般的に独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味し,我が国においても,独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられ,また,カタカナ表記の「テディベアー」(又は「テディベア」)の語も,我が国において,独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられており,その名称は,誰もが自己の商品に自由に使用できるという共通の認識を有する状態になっていたといえる(なお,「Teddy bear」,「テディベアー」が,あらゆる色彩,形状及び態様の小熊のぬいぐるみのすべてを指すものではなく,例えば,うす茶色の色彩が施され,かわいい顔立ちをした小熊であって,両足を広げたなどの特徴を有するぬいぐるみの人形のみを指すものと推認されるところであるが,弁論に提出された証拠に基づく限りでは,個々の特徴には触れずに,前記のとおりの一般的な認定にとどめることとする。)。


ウ したがって,「Teddy bear」(又は「teddy bear」),「テディベアー」(又は「テディベア」)の語の由来を考慮すると,ぬいぐるみと同一又は類似の商品のみならず,ぬいぐるみと強い関連性のある商品についてであっても,「Teddy bear」(又は「teddy bear」),「テディベアー」(又は「テディベア」)という語を商標として登録し,それを特定の商標権者が独占することは,セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード,又はテディベアの愛称をもつ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図,又は誰もが自己の商品にその「テディベアー」等の名称を自由に使用できるという共通の認識を覆す意図があり,公正な競争秩序ないし公平の観念に反するものとして,商標登録の無効事由を構成する余地があるというべきである。


 しかし,仮に,譲渡人による本件商標に係る商標権の取得又は被告によるその譲り受け若しくは使用が,公正な競争秩序ないし公平の観念に反した不正の目的をもってしたものと認められるとしても,その事実をもって,被告ないしその通常使用権者における登録商標の不使用を理由とする商標登録の取消事由に該当すると評価することはできない。


 したがって,原告の主張に係る取消事由3は理由がない。


4 結論

 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。他に本件審決を取り消すべき瑕疵は認められない。


 よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 本件では、知財高裁は、「公正な競争秩序ないし公平の観念に反するものとして,商標登録の無効事由を構成する余地があるというべきである。」、と言及しており、無効理由は明らかにされていませんが、本件商標登録には、4条1項19号の外国周知商標に同一または類似する商標であって不正の目的をもって使用するもの、または4条1項19号に該当したなくて4条1項7号の公序良俗違反に該当するものと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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*1:◆米国の第26代大統領Theodore Roosevelt(((愛称