●平成15(ワ)6742販売差止等請求事件「包装ラベル付き細口瓶」(1)

 本日は、『平成15(ワ)6742 製造販売差止等請求事件 実用新案権 民事訴訟「包装ラベル付き細口瓶」平成16年03月05日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7EF3F9CA5C04431B49256EC3002925EE.pdf)について取り上げます。


 本件考案は、次のとおり分説され、

 「 A 表面の細口瓶の胴部に相当する位置に印刷層があり,
   B 裏面に感圧接着剤層を塗布した熱収縮フイルムであって,
   C 該熱収縮フイルムに紫外線吸収剤を含有若しくは塗布し,
   D 縦方向の100℃における収縮率が45%以上であり,横方向の100℃における伸縮率が10%以下である熱収縮フイルムの,
   E 瓶の胴部分に対応する部分と瓶の栓部分に対応する部分との間にミシン目を設けた包装ラベルを,
   F 細口瓶の胴部に感圧接着剤層で接着させたのち,
   G 熱収縮により栓部分に熱収縮フイルムを密着させた,
   H ことを特徴する包装ラベル付き細口瓶。 」

 争点として、

(1) 被告製品は,構成要件Cの「紫外線吸収剤を含有若しくは塗布し」を充足するか。
(2) 被告製品は,構成要件Dの「縦方向の100℃における収縮率が45%以上であり」を充足するか。
(3) 被告製品は,本件考案と均等であるか。
(4) 被告製品は,構成要件A及びHの「包装ラベル付き細口瓶」の製造に用いる物であるか。
(5) 損害の発生の有無及びその額

 がありました。


 本件では、本件特許発明の請求の範囲における「紫外線吸収剤」や、「収縮率」、「細口瓶」の用語の技術的意義を、明細書の記載や出願経過を参酌して限定解釈して、被告製品はこれらの構成要素を具備しない等と判断した点、および均等侵害を否定したの点で参考になる事案かと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 高部眞規子、裁判官 東海林保、裁判官 瀬戸さやか)は、


1 争点(1)(紫外線吸収剤)について

(1) 構成要件Cにおける「紫外線吸収剤」の技術的意義

 ア 本件明細書の実用新案登録請求の範囲には,「紫外線吸収剤」の意義について記載がなく,考案の詳細な説明には,次の記載がある(甲2)。

 ・・・省略・・・

イ また,原告が特許庁に提出した拒絶査定に対する審判請求理由補充書(乙12)には,引用文献3(乙26)及び引用文献4(乙27)との関係について,次の記載がある。


(ア) 「また,引用文献3の紫外線防止作用は,紫外線吸収剤によるものではなく,単なる遮光性を付与した場合の当然の作用効果として,熱収縮フイルムの紫外線防止機構が開示されていますが,紫外線吸収剤の構成はありません。まして,紫外線防止剤を含有させて,透明性を維持しながらの瓶内容物を紫外線から防止する記載はありません。・・・の記載から考えると,引用文献3の紫外線透過防止機能は,ラベルを不透明化する遮光機構であると考えられます。本願考案における紫外線吸収剤とはまったく相違する構成が記載されているに過ぎません。」(12頁6ないし17行)


(イ) 「一方,引用文献4には,紫外線遮断シートが記載されていますが,この紫外線遮断シートには,紫外線阻止剤が配合されているシート,着色剤を含む印刷シート,顔料をコーティングしたシート,アルミニウムを蒸着したシート等が例示されています。 従って,この具体例から見ると,紫外線阻止剤を配合したシートも,紫外線吸収剤を配合した本願考案の透明な熱収縮フイルムとは概念が相違するものと認定することができます。このような概念の相違する考案における紫外線阻止剤の中から紫外線吸収剤による構成を特定することは当業者が極めて容易になし得ない構成と認定することができます。」(12頁18ないし25行)

(ウ) 「その上,引用文献4の記載に基づき,多種の紫外線防止手段から透明性を維持する紫外線吸収剤による紫外線防止効果を選択することも当業者にとって極めて容易になし得ることでないと思考します。引用文献3には,紫外線吸収剤の構成は存在しません。」(13頁9ないし12行)


 ウ 日本化学会編「化学便覧(改訂3版)」(昭和55年発行。乙34)には,紫外線吸収剤とは,紫外線によるプラスチック,ゴムなどの劣化を防ぐため添加される物質であって,光化学的に有害な300ないし400nmの紫外線を吸収して大部分を熱エネルギーに変換し,放散するものであり,紫外線吸収剤必要特性として,400nm以下の光を吸収して,それ自身光に対して安定であると同時に,可視光を吸収しないことが必要である旨記載されている。


 また,紫外線吸収剤の特徴としては,(i) 最大吸収波長が320ないし350nmにあり,プラスチック等の熱可塑性樹脂が最も影響を受ける300ないし400nmの紫外線を吸収すること,(ii) 該吸収剤自身が,熱や光に対して安定であること,(iii) ベンゾトリアゾール系,ベンゾフェノン系がよく使用されており,幅広い種類の樹脂に使用されること,(iv) ヒンダードアミン系との併用により相乗効果が期待できること,(v) ボトルなどに添加され,内容物の変質防止にも寄与することが挙げられる。その作用機構は,プラスチック等の熱可塑性樹脂に有害な紫外線を吸収して,無害な運動エネルギー,熱エネルギーに変換して効果を発揮することである(乙35)。


 さらに,「剤」とは,一般的に,作用させる特定の物質に対して特定の効果を与えることを目的として,その特定の効果を顕著に奏するように適用されるものを意味するのであるから,「紫外線吸収剤」は,上記のような紫外線吸収効果を与えることを目的として,紫外線吸収効果を顕著に奏するように適用されるものをいうと解すべきである。


エ 上記ア(ウ)(エ)のとおり,本件明細書には,紫外線吸収剤を適用することにより透明な瓶の使用が可能となること及び内容物を透明な瓶の外から確認することができることを本件考案の効果として挙げていること,上記イ(ア)ないし(ウ)のとおり,拒絶査定に対する審判請求理由補充書において,引用文献3(乙26)に記載される遮光機能によって紫外線を防止するものや,引用文献4(乙27)に例示される着色剤・顔料を添加,アルミニウムの蒸着によって紫外線を防止するものとは,ラベルの透明性を維持しながら紫外線を防止する点によって区別されることを強調して本件実用新案権を取得していることを総合すれば,本件考案における「紫外線吸収剤」とは,それを含有させてラベルの透明性を維持し得るものに限定されると解される。


オ 以上を総合すると,本件考案における「紫外線吸収剤」に該当するためには,前記ウで認定した一般的な紫外線吸収剤の特徴を充たしながら,それを含有させてラベルの透明性を維持し得るものであること,すなわち,(i) 400nm以下の光を吸収し,大部分を熱エネルギーに変換して放散するものであって,それ自身光に対して安定であると同時に,可視光を吸収しないことを目的とし,そのような紫外線吸収効果をフイルム自体,あるいはこれに塗布する接着剤若しくはインキに対して,顕著に奏するように適用されるものであって,かつ,(ii) ラベルの透明性を維持し得るものであることを要するというべきである。


(2) 被告製品の酸化チタンについて

  被告製品は,そのラベルの白色部分にUV白インキを使用しており,UV白インキ中には酸化チタンが使用されている。原告は,酸化チタンは,380nm以下の紫外線領域での紫外線吸収率がほぼ80%以上であり,紫外線吸収剤として機能するから,上記酸化チタンが構成要件Cの「紫外線吸収剤」に当たる旨主張する。


ア 酸化チタンには,ルチル形とアナタース形があるが,ルチル形の方が屈折率が大きいため,隠蔽力,着色力はアナタース形より優れており,被告製品のUV白インキも,ルチル形の酸化チタンを使用している(乙8の2の1及び2)。酸化チタンは,波長200ないし380nmの紫外線領域の紫外線に対し,ほぼ80%以上と良好な吸収性を有するので,物質の一般的性質としては,紫外線吸収機能を有するものである(甲5,6)。


 イ しかしながら,顔料用に使用される酸化チタンと紫外線吸収剤として使用される酸化チタンは,それぞれの目的とする効果に応じて粒子径と製造方法が異なる。顔料用酸化チタンの粒子径は,光の散乱が最大となるように,光の波長の2分の1の粒子径0.2ないし0.3μmとなるように設計しているのに対し(甲6),紫外線吸収剤として使用される酸化チタンの粒子径は,その10分の1の10ないし50nmの超微粒子となっている(乙8の2の1及び2)。


  したがって,被告製品に使用されている酸化チタンは,紫外線吸収剤として使用される酸化チタンよりも,紫外線吸収効果は低く,紫外線吸収効果を与えることを目的として,紫外線吸収効果を顕著に奏するように適用されるものということはできない。


ウ さらに,酸化チタンは,光酸化触媒として紫外線を吸収して周囲の化学物質を分解する機能を有するが,顔料用酸化チタン粉末においては,この光触媒機能がインキ成分等を分解しないよう抑制する必要があるため,光触媒活性の低いルチル形を使用し,酸化チタンの結晶中に亜鉛,アルミニウムイオンを取り込んだり,酸化チタン粒子表面を遮断する目的で,シリカ,アルミナ,チタニア,ジルコニアなどの含水酸化物を組み合わせた無機物表面処理を行っている。すなわち,酸化チタン粉末を用いた白色顔料は,紫外線を吸収して活性化しないように組成されている(甲6,乙8の2の2)。


エ もっとも,顔料用に使用される酸化チタンは,その顔料としての効果に資するため,光の散乱効果を有する。したがって,顔料の塗膜の厚さを厚くすれば,可視光も含めて遮光することで紫外線の遮断は可能である。しかしながら,一般に,紫外線吸収剤と紫外線散乱剤とは区別されているところ(乙32,33),顔料用酸化チタンは,不透明であることによる光遮蔽効果を有するが,紫外線吸収剤とは異なるというべきである。


  名古屋市工業研究所による被告製品の紫外線透過率の試験結果(甲27ないし33)によれば,被告製品であるメインター点眼液ラベルの胴部白色部分(酸化チタン含有白色インキ部分)では,一般的な紫外線領域(200ないし380nm程度)のみならず,200ないし700nmの全可視光線を含む光の透過率がほとんど0%となっている。株式会社島津総合分析試験センターによる被告製品の白色部分の透過スペクトルの測定(甲46,47)によれば,400nm以上の可視光を一部透過し,400nm以下の紫外線は透過していないという結果が出ている。しかし,これらは,いずれも紫外線を透過しないというだけであって,紫外線が吸収されたのか散乱されたのか区別がなく,被告製品の白色部分が紫外線吸収剤を含むということを直接立証するものではない。むしろ,上記のとおり,不透明であることからの光遮蔽効果によるものと考えられる。


オ 上記イのとおり,被告製品に使用されている顔料用酸化チタンは,紫外線吸収剤として使用される酸化チタンよりも,粒子径の選択からみても,紫外線吸収効果は低く,また,上記ウのとおり,紫外線を吸収して活性化しないように組成されているから,プラスチックに有害な400nm以下の紫外線を吸収する効果を与えることを目的として,紫外線吸収効果を顕著に奏するように適用されるものとはいえない。


 前記(1)オのとおり,本件考案において「紫外線吸収剤」とは,フイルム自体,あるいはこれに塗布する接着剤若しくはインキに対して,紫外線吸収効果を与えることを目的とし,当該紫外線吸収効果を顕著に奏するように適用されるものでなくてはならず,単に,物の固有の性質として紫外線吸収効果があることをもって,「紫外線吸収剤」ということはできない。


  したがって,被告製品に含まれる酸化チタンは,紫外線吸収効果を目的として添加されたものではなく,また,上記エのとおり,実際に紫外線吸収効果があることも確認できないのであるから,酸化チタンが一般的性質として有する紫外線吸収機能をもって,被告製品に含まれる顔料としての酸化チタンが本件考案の「紫外線吸収剤」であるとはいえない。


  そして,そもそも前記(1)オで認定したとおり,本件考案における「紫外線吸収剤」とは透明性を維持し得るものに限定されると解されるところ,被告製品の白インキに含まれる酸化チタンは,白色であり,透明性を維持するものではないから,この点からしても本件考案における「紫外線吸収剤」であるとはいえない。

 ・・・省略・・・

(5) したがって,被告製品は,本件考案の構成要件C「紫外線吸収剤」を充足しない。 』

 と判示されました。


 明日以降に続きます。


追伸;<気になった記事>

●『身近な知に大注目(1)特許だけじゃない経済的意味 』http://www.business-i.jp/news/for-page/chizai/200805140017o.nwc
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