●日経BP社の「特許のルールが変わるとき」

 日曜日に、市立図書館で特許のコーナーに行き、米国での均等侵害事件であるフェスト事件を題材にした日経BP社の「特許のルールが変わるとき」(著者 高岡亮一 弁理士)を見つけたので、早速借りて読みました。


 本書は、前々から読みたかった本であり、また当然に興味のある内容であったので、一気に読んでしまいました。出版は2002年11月です。


 フェスト事件最高裁判決の内容もかなり頭から薄れてきていたので、米国均等侵害判断のリフレッシュにもなりました。


  本書よりフェスト事件最高裁判決の要点をまとめると、フェスト事件最高裁判決では、均等のコンプリートバーを否定し、フレキシブルバーを採用し、クレームを補正したときには禁反言が推定されるが、特許権者に反証の機会を与えると伴に立証責任を課し、特許権者と第三者とのバランスを図ったとのことです。


 もう少し具体的にまとめると、
 
(1) 特許を受けるためにクレームを補正した場合には、補正された構成要素に関しては禁反言が推定され、補正された構成要素に関して均等論の主張はできない。「特許を受けるための補正」とは、102条や103条の拒絶を回避するためだけでなく、112条の拒絶を回避するための補正も含まれる。スペルを修正する等の「字面を整える」程度の軽微な補正は対象にならない。


(2) 禁反言は推定であるので、権利者は次の3つの条件のうち1つでも立証できれば反証可能で、均等侵害を主張できる場合がある。


(i) その均等物が出願時に予測不可能(アンフォーシアブル)であったとき。
(ii) その補正の理由が争点となっている均等物とほとんど関係がないとき。
(iii) 争点となっている置換物を特許権者が記載できなかったであろう合理的な理由があるとき。

 とのことです。


 フェスト事件最高裁判決の詳細な内容は、本書や、判決文、他の論文などを調べて下さい。


 なお、参考のため、日本のボールスプライン最高裁判決で判示された均等侵害の5要件と、第1要件の本質的部分の内容は、本日記で何度も取り上げていますが、以下の通りの内容です。


『2 特許権侵害訴訟において、特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、


(i) 右部分が特許発明の本質的部分ではなく(均等要件(i))、
(ii) 右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(均等要件(ii))、
(iii) 右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(均等要件(iii))、
(iv) 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく(均等要件(iv))、かつ、
(v) 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(均等要件(v))は、


 右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(前掲最高裁平成一〇年二月二四日判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。そしてこの理は、実用新案権についても妥当するものと解される(ただし、要件(iv)は「きわめて容易に推考できたものでなく」と読み替える。実用新案法三条二項参照。)。


    そして、右各要件のうち、(i)ないし(iii)は、特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一であるというための要件であるのに対し、(iv)及び(v)はこれを否定するための要件であるというべきであるから、これらの要件を基礎付ける事実の証明責任という意味においては、(i)ないし(iii)については均等を主張する者が、(iv)及び(v)についてはこれを否定する者が証明責任を負担すると解するのが相当である。


 均等要件(i)について

(一) 前記のとおり、均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分でないことを要する。


 右にいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付け、特有の作用効果を生じるための特徴的部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。


 そして、右の特許発明における本質的部分を把握するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された一部を形式的に取り出すのではなく、当該特許発明の実質的価値を具現する構成が何であるのかを実質的に探求して判断すべきである。』


 なお、上記日本の均等論の5要件は、先日紹介した『平成7(ワ)1110 実用新案権 民事訴訟「蝶番」平成12年05月23日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/029DE913524C646D49256A77000EC32D.pdf)の判決文から引用しました。


 追伸;<気になった記事>

●『日本の特許黒字、世界2位・06年、過去最大の5358億円』http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080512AT3S0902411052008.html
●『日本の特許など知的財産収支は46億ドルの黒字、世界第2位に浮上(ITI)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3444
●『マイクロソフト、制裁金の取り消しを求め提訴--欧州独禁問題で』http://japan.zdnet.com/news/ir/story/0,2000056187,20373006,00.htm
●『塩野義、相同組換え技術の特許侵害で訴えられる(Cellectis)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3448
●『「iPS細胞」国際シンポ始まる・米、新しい作製法で成果』http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080512AT2G1100411052008.html