●平成15(ワ)19002 商号使用差止等請求事件「成城調剤薬局事件」

 本日は、『平成15(ワ)19002 商号使用差止等請求事件 不正競争 民事訴訟「成城調剤薬局事件」平成16年03月05日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/FCC108DA69E0DE9049256EC3002925ED.pdf)について取り上げます。


 本件は、事案の概要に記載されている通り、原告表示「セイジョー」を使用してドラッグチェーンを展開する原告が,被告表示「成城調剤薬局」を使用して調剤薬局を経営している被告に対し,原告表示が周知であるところ,被告表示が原告表示に類似し原告の営業と混同を生じさせていると主張して,不正競争防止法2条1項1号,3条に基づき,被告表示の使用の差止め及び被告表示の抹消を請求するとともに,民法709条に基づき,使用料相当額の損害賠償を請求し、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点「(2) 被告表示と原告表示との類似性」と、「(4) 不正競争防止法12条1項1号の適否」について判断されており、これらの判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官  高部眞規子、裁判官 上田洋幸、裁判官 宮崎拓也)は、


1 争点(2)(被告表示と原告表示との類似性)について

(1) ある営業表示が不正競争防止法2条1項1号所定の他人の営業表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきである(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。


(2) 原告表示は,「セイジョー」の文字から構成され,被告表示は,「成城」及び「調剤薬局」の文字から構成されている。被告表示のうち,「成城」の部分は,被告薬局の所在地の地名であり,一般に何らかの営業の表示に店舗・営業所等の所在地の地名を付すことは経験則上頻繁に行われることが明らかであるから,当該営業表示中の地名部分には格別の識別力がない。


 また,「調剤」は,薬を調合すること,調薬を意味し(「広辞苑(第5版)」1741頁,特許法69条3項参照),「薬局」は,薬剤師が薬を調合する場所ないし店を意味するものであるから(「広辞苑(第5版)」2684頁,薬事法2条7項,同法第3章参照),「調剤薬局」は,薬剤師が薬を調合する営業を表す普通名称である。


 したがって,被告表示は,「成城」及び「調剤薬局」のいずれの部分からも営業主体の識別表示としての称呼,観念は生じず,「成城調剤薬局」全体として営業主体の識別表示としての称呼,観念が生じるというべきである。


(3) 両営業表示の外観は,原告表示がカタカナ表記され,「セイジョウ」ではなく「セイジョー」と語尾が長音となっているのに対し,被告表示が「成城」と漢字表記されて「調剤薬局」の文字が加わっている点において,異なっている。


 両営業表示の称呼は,原告表示が「セイジョー」であり,被告表示が「セイジョウチョウザイヤッキョク」であって,一部共通する部分があるものの,音数が異なり,全体としても異なる。


 両営業表示から生じる観念は,原告表示からは,「正常」,「性状」,「清浄」等のほか,地名の「成城」が生じる可能性もある(「広辞苑(第5版)」1469頁)。被告表示からは,「成城にある調剤薬局」という観念が生じる。


 原告は,ドラッグストアとして,新聞折り込み広告やダイレクトメール等の媒体により「セイジョー」という営業表示を需要者の視覚に訴えて宣伝し,医薬品や化粧品,日用品等を販売している(甲7ないし10)。また,医療機関の処方箋を受け付けて薬を調合する業務も行っている(甲6,8,12)。他方,被告も,被告薬局において医療機関からの処方箋を受け付けて薬を調合するという営業を行っているが,大部分は近接する成城ささもと小児科・アレルギー科からの処方箋に基づく調剤である(乙6,7)。


 このような取引の実情の下において,取引者又は需要者が上記のとおりの相違点が認められる両営業表示を観察した場合,両営業表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両営業表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるということはできない。


(4) 上記のとおり,取引者又は需要者が原告表示と被告表示とを全体的に類似のものと受け取るおそれがあるということはできない以上,両表示は類似しない。


 2 争点(4)(不正競争防止法12条1項1号の適否)について


(1) 前記1(2)のとおり,被告表示のうち,「成城」の部分は,被告薬局の所在地の地名であり,「調剤薬局」の部分は,被告が営む営業の普通名称である。


(2) そして,一般に,調剤薬局に限らず,ある地域に店舗等を開設して一定の営業を行う場合,当該営業の普通名称に当該店舗等の所在地の地名を組み合わせた営業表示を採用することは,経験則上頻繁に行われることである。現に,東京都世田谷区成城の地において,成城ファーマシー,成城外科,成城歯科室,成城コーポ等,それぞれの営業の普通名称に「成城」という地名を冠した営業表示を採用している店舗等が多数存在する(乙1)。


 そうすると,営業の普通名称に店舗等の所在地の地名を付した営業表示は,本来的に特定人の独占になじまないものであって,特段の事情がない限り,その使用は自由であるというべきである。


 その趣旨は,商品又は営業の普通名称を普通に用いられる方法で使用する行為を不正競争防止法2条1項1号に掲げる不正競争の適用除外とする同法12条1項1号の規定と同旨である。もっとも,かかる営業表示であっても,特定人がそれを長年にわたり使用し続けることにより,需要者において当該特定人の営業を表示するものとして広く認識されるに至っている場合においては,当該営業表示を当該特定人の独占にかからしめることが不当とはいえず,もはや同法12条1項1号の趣旨を及ぼすことができない特段の事情があるというべきである。


 したがって,上記のような特段の事情がない限り,営業の普通名称に店舗等の所在地の地名を付した営業表示を普通に用いられる方法で使用する行為は,同法12条1項1号の趣旨に照らし,同法2条1項1号所定の不正競争行為に当たらないと解すべきである。

(3) 本件において,被告は,調剤薬局を東京都世田谷区成城の地で開設し,「調剤薬局」という営業の普通名称に,被告薬局の所在地である「成城」の地名を冠した被告表示を使用しているものであり,上記のような特段の事情を認めることもできない。


 そして,証拠(甲1,6,乙6)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告表示を被告が経営する薬局の名称とし,店舗前の看板,店舗入口等に,普通に用いられる方法,すなわち一般取引上普通に行われる態様で被告表示を使用していることが認められる。


(4) よって,被告の行為は,不正競争防止法12条1項1号の趣旨に照らし,同法2条1項1号所定の不正競争行為に当たらないものというべきである。

 3 結論

 以上のとおり,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


  なお、本判決文中で引用している最高裁判決は、
●『平成19(ネ)2261 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟「ごはんや めしや」平成19年12月04日 大阪高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071205101515.pdf)や、
●『平成18(ワ)17357 不正競争行為差止等請求事件 商標権 民事訴訟オービックス,ORBIX」 平成19年05月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070601164529.pdf
 の判決文でも引用されいてる、本日記の1/31(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070131)で取り上げた『昭和57(オ)658 商号使用差止等 不正競争 民事訴訟「ウーマン・パワー」昭和58年10月07日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/17D16AF173CCBADB49256A8500311F87.pdf)のウーマンパワー最高裁事件です。


追伸;<気になった記事>

●『MSが欧州委を提訴 1400億円の制裁金不服』http://www.47news.jp/CN/200805/CN2008050901000856.html
●『「山中教授中心に協力を」 万能細胞で注目の研究者』http://www.47news.jp/CN/200805/CN2008050901000617.html