●平成14(ネ)2776 特許権 民事訴訟「コンクリート埋設物」

  昨日からの分割絡みということで、本日は、『平成14(ネ)2776 特許権 民事訴訟「コンクリート埋設物」平成15年02月27日 大阪高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/99F18E381FDF9C6049256D39000E304D.pdf)について取り上げます。


 本件は、親出願を分割して子出願をし、その子出願を分割して孫出願をした場合において、子出願が分割の要件を満たさなない場合および満たさなくなった場合は、孫出願の出願日は親出願日まで遡及しないとした特許庁の判断および一審判決が支持された控訴審です。


 つまり、大阪高裁(第8民事部 裁判長裁判官 若林諒、裁判官 小野洋一、裁判官 黒野功久)は、


『イ 被告は,子出願に係る特許を無効とする本件無効審決が確定したことにより,子出願は不適法な分割出願として親出願との関係が遮断され,出願日の遡及の利益を享受できなくなったから,子出願を原出願とする孫出願の出願日は,当該分割出願が適法であった場合でも,子出願の出願日とみなされる平成5年10月29日であり,親出願の出願日(昭和59年1月17日)まで遡ることはあり得ないと主張する。


 そこで,検討するに,子出願に係る特許を無効とする本件無効審決が確定したことは前記のとおりであるから,子出願に係る特許権(特許第2562698号)は初めから存在しなかったものとみなされ(特許法125条),このことは何人も争えないところである。


 しかしながら,被告が本件無効審決について主張している子出願の出願日に関する事項はあくまでも本件無効審決の理由中の判断事項に過ぎず,本件無効審決が確定したからといって,子出願とは別個独立の出願手続である孫出願の出願日につき,本件無効審決の判断が拘束力を持つと解すべき根拠はない。また,子出願の特許が後に無効とされたからといって,子出願から分割された孫出願が当然に影響を受けるということもない。したがって,被告の上記主張は採用できない。


ウ さらに,被告は,本件無効審決の拘束力が孫出願の出願日等に及ばないとしても,実体上,親出願から子出願の分割は分割要件を満たしていないから不適法であり,子出願は出願日の遡及の利益を享受できず,その出願日は手続補正書を提出した平成5年10月29日とみなされ,子出願を原出願とする本件出願1(孫出願)の出願日も上記平成5年10月29日であり,親出願の出願日まで遡及しないと主張する。


 そこで,以下,本件無効審決の拘束力から離れて,本件出願1(孫出願)の分割出願に関する手続の経緯に即して,本件出願1(孫出願)の出願日について検討する。


(ア)特許出願の分割について定めた平成6年法律第116号による改正前の特許法44条1項は,「特許出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定していた(なお,上記改正後の特許法44条1項は,特許出願を分割できる時期を「明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り」としている。)から,分割出願が適法であるための実体的な要件としては,(i) もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,(ii) 新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること,が必要である。さらに,分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという効果を有する(特許法44条2項)ことからすれば,新たな出願に係る発明は,分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されているだけでは足りず,もとの出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要すると解される(逆に,もとの出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項であれば,分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されていない事項であっても,補正が可能であるから,分割の要件を満たすことになる。)。


 ところで,特許法には,分割出願に関する規定は同法44条以外に存在しないから,分割出願(子出願)をもとの出願として更に分割出願(孫出願)を行う場合についても同条が適用されることになる。


 したがって,孫出願の出願日が親出願の出願日まで遡及するためには,子出願が親出願に対し分割の要件を満たし,孫出願が子出願に対し分割の要件を満たし,かつ,孫出願に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要するというべきである。


 これを本件についてみると,本件出願1(孫出願)は,親出願からの分割出願である子出願を更に分割出願し,本件出願2(玄孫出願)は,本件出願1(孫出願)を更に分割出願した曾孫出願を更に分割出願した出願であるから,本件出願2(玄孫出願),曾孫出願,本件出願1(孫出願),子出願の各分割出願がそれぞれ特許法44条1項の分割要件を満たし,かつ,本件出願1,2に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内である場合には,本件出願1,2の出願日は,親出願の出願日まで遡及することになる。


(イ) そこで,まず,子出願の分割出願についてみると,子出願は,平成5年3月19日付け手続補正書(甲40の2)により補正された後,平成5年10月29日付け手続補正書によりさらに補正された。平成5年3月19日付け手続補正書による補正後の発明は,親出願の出願当初明細書又は図面に記載されており,子出願の出願当初明細書又は図面にも記載されており,その他の分割要件を満たすといえるから,子出願は,親出願から適法に分割されたものといえることになる。


 しかしながら,平成5年10月29日付け手続補正書による「線状の支持部材」を「支持部材」とした補正は,親出願の出願当初明細書又は図面に記載されておらず,子出願の出願当初明細書又は図面にも記載されていない事項を含み,上記補正後の子出願の明細書は,親出願の出願当初明細書又は図面の範囲内でない事項を含むものであるから,子出願は,親出願から特許法44条1項に基づき適法に分割されたものといえないことになる。


 そして,子出願は,その後,特許登録され,本件無効審決を経て確定し,もはや,手続補正や訂正審判により上記平成5年10月29日付け手続補正書による内容を是正する余地はなく,上記補正後の内容で確定したから,子出願は,親出願から特許法44条1項に基づき適法に分割されたものとはいえず,親出願の時に出願したとみなされることはない。


 そして,親出願の時に出願したとみなされないことから,子出願は,本来の出願日である平成元年11月24日が出願日となるはずであるが,上記補正後の明細書の特許請求の範囲は,子出願の出願当初明細書又は図面の範囲内でない事項を含むから,子出願の出願日は,特許法40条に基づき,平成元年11月24日から繰り下がって上記補正書を提出した日である平成5年10月29日とみなされることになる。本件無効審決の結論もこのような判断に基づくものと認められる(乙61)。


  この点に関し,原告は,子出願が特許法44条により適法に分割された分割出願であり,上記平成5年10月29日付け手続補正書による補正により,特許法40条に基づき,出願日が平成5年10月29日に繰り下がったに過ぎず,子出願の分割自体が不適法,無効となるものでない旨主張するが,上記のとおり,そもそも子出願の分割は分割要件を具備しておらず不適法であることは明らかであって,原告の上記主張は採用することはできない。


 (ウ) 次に,本件出願1(孫出願)についてみるに,本件出願1(孫出願)に係る発明は,子出願を親出願とする分割出願としては,平成5年3月19日付け手続補正書により補正された後の明細書又は図面を対象とすると,平成7年7月10日付け手続補正書による手続補正が適法と認められるから,子出願に係る発明と同一でないといえるので,平成5年10月29日付け手続補正書により補正された後の明細書又は図面を対象とすると子出願に係る発明と同一でないことが明らかである。


 したがって,本件出願1(孫出願)は,子出願を親出願とする分割出願としては,その他の分割の要件も満たしているといえるから適法といえる。


 しかしながら,親出願との関係では,前記のとおり,子出願が親出願から適法に分割されたものとはいえない以上,本件出願1(孫出願)も親出願の時に出願したとみなされることはなく,子出願の時に出願したとみなされることとなり,子出願の出願日とみなされる平成5年10月29日に出願したとみなされることになる。


 この点に関し,原告は,本件出願1(孫出願)は,原出願(親出願,子出願)の最初に添付した明細書(親出願の明細書)又は図面に記載した事項の範囲内であり,かつ,分割直前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるから,適法に分割されたものであり,その後になされた独立した子出願の平成5年10月29日付補正書の補正内容に左右されるものではなく,本件出願1(孫出願)の出願日は親出願の出願日まで遡及する旨主張する。


 しかしながら,親出願,子出願及び孫出願はそれぞれ別個の出願手続であり特許要件の具備の有無は別個独立に審査されるものであるとはいえ,孫出願の出願日の遡及の利益の享受は,あくまで子出願の出願日の利益の享受であって,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われることを前提とするものであり,孫出願の出願日が子出願と無関係に本来の分割可能な時期から離れて無限定に親出願のときまで遡及するものではない。


 そして,特許法は,特許の出願などの特許に関する手続をした者がその補正をすることを原則として許容し,かつ,補正がその手続の初めに遡って効力を有することを認めており,特許に関する手続はこのような補正の遡及効を前提に運用されている。


 現に分割出願においても,出願の分割時には原出願に係る発明と分割出願に係る発明が同一であったが,その後に原出願の明細書又は図面が補正され両者の発明が同一でなくなった場合は,分割出願は適法なものとされ,他方,出願の分割時には原出願に係る発明と分割出願に係る発明が同一ではなかったが,その後に原出願の明細書又は図面が補正され両者の発明が同一となった場合は,分割出願は適法でないものとされており,しかも,このような補正の遡及効により分割不適法の事態などが生じる場合でも,補正を行った者はさらにこれを修正する補正を行うことにより不適法理由の解消を行うことなどが可能である。


 これらの点を考慮すると,親出願,子出願,孫出願と順次分割がされた場合において,子出願から孫出願への分割が分割要件に欠けるところがなかったとしても,子出願についての補正の有無,内容いかんにより,子出願の親出願からの分割がその要件を具備するか否かの帰趨が変動し,そのために,子出願の出願日が変動し,さらに孫出願の出願日が変動するような事態が生じることもやむを得ないところであり,原告の前記主張は採用することができない。


(オ)なお,原告は,本件特許1についての無効審判請求事件(無効2000−35598号)の審決(甲36)が請求不成立とするものであり,被告の分割不適法の主張を理由がないと判断していることによれば,本件出願1(孫出願)の出願日が親出願の出願日まで遡及しないことにはならないと主張する。


  しかしながら,本件特許1についての前記無効審判請求事件においては,請求人は,本件出願1(孫出願)に係る発明が親出願の出願当初明細書に記載されていない事項を含むこと等を理由として本件出願1に分割要件違反があること等を主張しており,子出願についての補正の点に関しては主張しておらず,審決中でもその点の判断はしていないから(甲36),同審決があったことで上記判断が左右されるものではない。そればかりでなく,同審決は,本件無効審決が確定する前(本件無効審決と同じ平成13年8月31日付け)のものであり,この時点では,審決取消訴訟の提起により本件無効審決が取り消される可能性,若しくは,訂正審判の請求により子出願の分割不適法理由が解消される可能性が残っていたのであるから,同じ審判合議体のした審決であっても,補正に伴う子出願の分割不適法についての判断を示さなかったことも,首肯し得るところである。原告のこの点の主張も理由がない。」 』

 
 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。