●平成19(ネ)10076 損害賠償請求控訴事件 その他 民事訴訟

 本日は、『平成19(ネ)10076 損害賠償請求控訴事件 その他 民事訴訟 平成20年03月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080401111512.pdf)について取り上げます。


 本件は、一審原告である控訴人が、その元従業員兼取締役であった被控訴人Yが取締役在任中及び退任後に取締役としての忠実義務競業避止義務に反する行為を行い,また控訴人の取引先であった被控訴人シャトルはこれに加担した共同不法行為(民法719条)であると主張して,被控訴人Yに対しては債務不履行又は不法行為として,被控訴人シャトルに対しては不法行為として,連帯してその損害賠償金等の支払いを求め棄却された一審判決の取消しを求めた控訴審で、その請求が棄却された事案です。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官中野哲弘、裁判官今井弘晃、裁判官田中孝一)は、


『1 当裁判所も,控訴人の被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,次の2において説示するほか,原判決記載のとおりである。

2 控訴人の主張に対する判断

 控訴人は,前記第3,2, ア・イにおいて,原判決の事実認定の誤りを主張する。
上記主張に沿うかのごとき証拠として,控訴人代表者尋問の結果及び同人の陳述書(甲5,16,17,23)等があるが,これを否定する当審証人Aの証言及び同人の陳述書(乙4 ,同じく被控訴人Y本人尋問の結果及び)同人の陳述書(乙5)等に照らすと,上記の供述等はただちに措信し難く,控訴人主張の他の書証を併せ考慮しても,他に控訴人の上記主張を認めるに足る的確な証拠はない。


 次に控訴人は,前記第3,2,において,取締役たる被控訴人Yが競業会社設立の企図をもってなす意思行為そのものが不法行為に当たる等と主張するが,これを認めるに足りる証拠がないことは,上記 記載のとおりである。


 控訴人は,被控訴人Yの手紙〔甲34の1〕によれば,被控訴人Yは控訴に在職中から独立の意思を有していたとするが,仮にそのような事実が認められるとしても,独立の意思を有すること自体をもって法的に違法ということはできず,かつ,被控訴人Yにおいて,忠実義務違反,競業避止義務違反行為が認められないことは上記のとおりである。
 

 また控訴人は,前記第3,2,において,会社の従業員は使用者に対して労働契約上の債務を忠実に履行し,使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない信義則上の義務を負っており,この義務は退職後も存続する等と主張する。


 しかし,被控訴人Yが控訴人会社在職中及び退職後に使用者たる控訴人会社の利益を侵害する行為をしたことについての的確な証拠がないことは,原判決及び上記 において説示したとおりであり,控訴人の上記主張は採用することができない(なお,控訴人が当審に至り提出した甲32〔会社の勤務に関する規定〕にも,退職後の競業を禁止する旨の規定は置かれていない。)


ア また控訴人は,原審において営業秘密に関する主張を行っているのに原判決はこの点を判断していない等と主張する。


 本件記録によれば,一審原告たる控訴人は,平成19年6月22日の原審第7回弁論準備期日において,不正競争防止法の主張は撤回したことが認められる(原審第7回弁論準備手続調書。なお,甲30〔原告代表者の平成19年6月22日付け陳述書〕の7頁には「原告は不正競争防止法,の主張を,判例等を考え取り消し,…」との記載がある)から,原審がこの点について判断しないことは何ら違法でないと解されるが,控訴人の上記主張に鑑み,当審においてその判断を示すこととする。


イ控訴人は,控訴人の得意先に対する優先的商権が営業秘密に該当するとし,被控訴人Yは,控訴人在職中に取得ないし窃取したこの営業秘密を侵害するものであり,また信義則上の義務にも反するとも主張する。


 しかし,控訴人主張の上記優先的商権なる概念の法律的意味付けは明確でなく,また本件各証拠によっても,控訴人においてこれら得意先についての情報が秘密として管理されていた事実も認められないし,被控訴人シャトルと控訴人との取引は被控訴人Y退職後の平成14年6月ころまで継続しており,そのほか原判決認定の事実関係を併せ考慮すると,被控訴人Yが控訴人の取引先ないし得意先を奪ったものとは認め難く,控訴人の上記主張は採用することができない。


 さらに控訴人は,サン・ルックを通し,被控訴人Yが控訴人在職中に得た営業情報により退職後にセラビから受注しているとも主張するが,ケイアンリミテッドないし被控訴人Yがサン・ルックを通してセラビと取引をしているとの事実を認めるべき証拠はなく,またケイアンリミテッドとサン・ルックが取引をするに当たり,被控訴人Yが控訴人の営業秘密ないし信義則上使用が制限される情報等を使用している事実も証拠上これを認めることはできないから,控訴人の主張は採用することができない。

3 結語

 以上のとおりであるから,その余について判断するまでもなく,控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。

 よってこれと結論を同じくする原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。