●平成18(ワ)11664補償金請求事件「半導体ウエハの面取方法」(3)

 本日も、『平成18(ワ)11664 補償金請求事件「半導体ウエハの面取方法」平成20年03月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080415162155.pdf)について取り上げます。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節,裁判官 國分隆文、裁判官 間明宏充)は、


3 争点2(超過売上高の割合)について

(1)超過売上高の割合の認定方法

 本件においては,上記1(2)のとおり,使用者等の独占の利益を算定するため,使用者等が競合他者に特許権の実施を許諾したと仮想する方法によるところ,そのような方法において超過売上高の割合を認定するには,使用者等が,当該発明を用いた製品を製造,販売し得る競合他者すべてに実施許諾して(以下,この実施許諾を受けたと仮想される競合他者を「仮想ライセンシー」という。),現実に享受している独占の利益をすべて捨象したものとし,自らには,通常実施権に基づいて当該発明の実施製品を製造,販売することによって得られる利益のみが残存する状態を仮想する必要がある。


 そのような仮想の下,使用者等が獲得し得る当該発明の実施製品の売上高が同実施製品の市場全体における売上高(使用者等による当該発明の実施製品による現実の売上高を用いる。)に占める割合がどの程度になるのかを,仮想ライセンシーのそれとの比較による使用者等の技術力及び営業力の程度,市場全体の規模,性質及び動向,当該発明の実施品の性質及び内容等の諸要素に基づいて認定することにより,使用者等が仮想ライセンシーから取得すると仮想される実施料を算定する基礎となる超過売上高の割合を求めることが相当といえる。


 なお,当該発明の特許権に無効理由が存し,かつ,その存在を競合他者すべてが認識していると想定されるような場合においては,使用者等は,競合他者が当該発明の実施品の製造,販売を行うことを阻止し得ず,そもそも,独占の利益を取得し得ないはずであるから,そのような場合においては,例外的に,超過売上高の割合が零となる,あるいは,その程度に応じて当該割合を減少するというべきである。


(2)本件において超過売上高の割合を認定するための要素に関し,以下の事実が認められる。

ア 面取機市場の状況
イ 被告グループの技術力及び営業力の程度
ウ 被告グループの面取機市場における占有率の状況
エ ヘリカル研削装置の位置付け
オ 先行技術・代替技術等の状況
カ 宣伝広告の状況

(3)検討

 本件発明は,溝付砥石の砥石軸を傾斜させるという単純な機構でありながら,研削面粗さ精度を向上させ,半導体ウェーハ面取部の鏡面加工という近年のニーズにもこたえる技術であり,被告もその旨を宣伝広告していたものであるが,このような技術自体は公知技術であり,本件発明は,新規性ないし進歩性を欠くとして,本件特許権には無効理由が存在するとの指摘もされている(乙18,19 )。ただし,本件では,そのような無効理由の存在について競合他者がすべて認識しているといった,独占の利益の否定につながる事情を認めるに足りる証拠が存しない以上,超過売上高の割合の認定において,上記の指摘を重視することはできない。


 他方,被告グループは,上記(2)イのとおり,総合的な技術の蓄積,顧客の改良要求に対する対応,アフターサービス等において表れる技術力及び営業力の面において優れた実績を有し,少なくとも,人的,物的規模においては,唯一の仮想ライセンシーであるエムテックを大きく上回るといえる。


 また,被告グループの面取機市場におけるシェアの変遷を示す的確な証拠はないが,300ミリウェーハ用面取機市場で100パーセント近いシェアを獲得するに至ったことについても,被告グループが,面取りの直前の工程で用いる切断機でも国内において高いシェアを占めていたことや,面取機の顧客である半導体ウェーハ製造業者自身の再編等により,●(省略)●企業体が高いシェアを占めるに至ったことをも,その要因として挙げることができる。


 以上のことからすれば,被告グループが,本件発明の通常実施権に基づいて本件面取機を製造,販売し,仮想ライセンシーであるエムテックと本件発明の実施品の市場を分け合っていると仮想した場合,その売上高の比率は,被告グループの方が優れているものと考えられる。


 もっとも,競合他者において,ヘリカル研削装置と同程度の研削面粗さ精度を持つ代替技術を利用していることを認めるに足りる的確な証拠がないこと,ヘリカル研削装置は,ヘリカル研削に特化したオプション仕様の装置であること,被告グループは,本件面取機のヘリカル研削機能が被告の保有する特許であると宣伝広告するなどしていたことを考慮すると,ヘリカル研削装置に係る本件特許権は,本件面取機の売上に一定の寄与を及ぼしたものといえる。


 以上の事情を総合的に検討すると,エムテックに対する実施許諾を仮想した場合に被告グループが通常実施権に基づいて獲得できる売上高の割合は,市場全体の売上高の60パーセント程度であると考えることができ,したがって,超過売上高の割合は,40パーセントと認めるのが相当である。


4 争点3(実施料率)について

 原告は,本件面取機の利益率や,砥石のロイヤリティを根拠として,実施料率は10パーセントを下回らないと主張するが,上記1で示した相当対価の額の算定方法に照らせば,本件発明の実施製品の利益率や,同製品に用いられる砥石のロイヤリティを,直ちに本件発明の実施料率の根拠とすることはできない。


 社団法人発明協会作成の「実施料率(第5版)」(乙50)によれば,本件発明が属する金属加工機械分野における,平成4年度から平成10年度のイニシャルペイメントがある特許に関する実施料率の平均値は4.4パーセント,最頻値は5パーセント,イニシャルペイメントがない特許に関する実施料率の平均値は3.3パーセント,最頻値は3パーセントであることが認められ,上記2及び3で認定した諸事情,特に,本件発明の価値の程度を考慮すると,本件発明の実施料率は,5パーセントと認めるのが相当である。


5 争点4(使用者等の貢献度)について

(1)総説

 改正前特許法35条4項は,従業者等が支払を受ける対価の額は,その発明がされるについて「使用者等が貢献した程度」を考慮して定めるものと規定するが,当該対価の額を使用者等が実際に受けた利益に基づいて算定する場合には,この使用者等が貢献した程度に,使用者等がその発明がされるについて貢献した事情のほか,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した事情等も含まれるものと解するのが相当である。


(2)事実認定

 本件発明の承継に係る相当の対価の額を算定する際に考慮すべき被告等の
貢献度に関し,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


ア 被告グループにおける技術的蓄積
イ 被告による育成
ウ 出願手続

 原告及びBは,被告技術研究所管理室に特許出願を申し出たが,公知技術の調査及び発明の社内向け説明資料等の作成は,Bが行った。出願に要する作業は,すべて被告の施設内で,被告の従業員の労働力を使用する方法で行われ,出願に要する費用も被告が負担した。(弁論の全趣旨)ただし,優先権を主張しての外国出願については,原告が出願国の選定を行った(当事者間に争いがない。)。


エ 本件発明の実用化・事業化の過程(甲36,乙33,43,弁論の全趣旨)


(3)検討

 ヘリカル研削装置は,本件面取機にオプション仕様として付加されるものであって,単体で多く販売されるとは考え難く,その売上には本件面取機そのものの有用性や顧客吸引力に依存する部分があること,本件発明が方法の発明であって,その方法を実施するための具体的な装置の開発が必要であったこと等にかんがみれば,本件発明を具現化するヘリカル研削装置の開発及びそれを装着する本件面取機の開発,ヘリカル研削が不具合なく有効に行われるためのノウハウの蓄積,営業活動,サポート体制等に関し,資金,設備及び人材の点において,被告らに多大な貢献があったというべきである。


 また,本件発明当時,原告が面取機部門に配属されていなかったとしても,半導体ウェーハ製造工程において,面取りは切断工程の直後の工程であり,顧客との打合せも,切断機及び面取機の両担当者が同席してされることがあったというのであるから(乙33),本件発明と原告の業務内容との間には職務上の関連性が存するものと認められる。


 以上の諸事情に加え,被告グループの事業内容,研究発明に関する人的物的体制等を総合考慮すると,本件における使用者等の貢献度は,90パーセントと認めるのが相当である。


 被告は,本件発明を含む一連の発明の実質的共同発明者は,原告及びBに,C及びDを加えた4名であり,このことは,被告の貢献度として考慮されるべきであると主張するが,本件発明の発明者は,上記(2)ア,イ及びウのとおり,原告及びBの2名であり,これを左右するに足る証拠はないから,被告の上記主張はその前提において誤りがあり,採用できない。


 また,被告は,原告に支給した給与や退職金,被告内における待遇などを使用者等における貢献度として考慮すべきであると主張するが,これらの給与等が本件発明の対価として支払われたと認めるに足る証拠はなく,そうであるとすれば,これらの給与等の支給を,原告に対する一般的待遇として考慮する以上に重視することはできないものといわなければならない。


6 争点5(共同発明者間の貢献度)について

 原告及びB作成の書面(甲24)によれば,本件発明について,共同発明者である原告及びBの貢献割合は,原告80パーセント,B20パーセントと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる証拠はない。


7 争点6(相当対価額)について

 原告が受けるべき相当対価の額は,上記1ないし6において検討したとおり,本件面取機のヘリカル研削装置の構成部分の売上高に,超過売上高の割合を乗じ,さらに,本件発明の実施料率を乗じて,独占の利益を算定し,そこから,使用者等の貢献度を控除し,すなわち,発明者の貢献度を乗じ,共同発明者間の原告の貢献割合を乗じて算定することとなる。


 具体的に,本件発明の特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の額を計算すると,13億0071万0890円[売上高]×0.4[超過売上高の割合]×0.05[実施料率]×(1−0.9[使用者等の貢献度])×0.8[共同発明者間での原告の貢献度]=208万1137円(1円未満切捨)となる。


 上記第2,1⑶オ(イ)のとおり,被告は,原告に対し,本件発明の出願補償金及び登録補償金として合計6000円を支払っているから,上記208万1137円から6000円を控除した207万5137円が,未払の相当対価の額となる。


第4 結論

 以上の次第で,原告の請求は,207万5137円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年6月16日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。