●平成18(ワ)11664補償金請求事件「半導体ウエハの面取方法」(2)

 本日も、『平成18(ワ)11664 補償金請求事件「半導体ウエハの面取方法」平成20年03月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080415162155.pdf)について取り上げます。


 特許権を放棄した場合における、被告の売上げに対する影響について判断等が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節,裁判官 國分隆文、裁判官 間明宏充)は、


2 争点1(本件発明の実施品の売上高)について

(1)被告が受けるべき利益を算定する基礎とすべき製品

 原告は,本件発明により被告が受けるべき利益を算定する基礎として,本件面取機のうちのヘリカル研削装置部分の売上高ではなく,本件面取機全体の売上高自体を用いるべきであると主張する。


 しかしながら,ヘリカル研削は,本件面取機を用いた面取工程のうち,外周の精研仕上工程でのみ使用され,外周の粗研,ノッチ又はオリフラ部の粗研・精研には使用されない(乙33,45の1ないし3)。また,本件面取機のセールスポイントとして,スピンドル回転速度を従来のほぼ2倍としたことや,スピンドル回転精度向上による加工粗さの改善,高処理能力,加工前ウェーハの非接触測定等も挙げられている一方で,ヘリカル研削装置は,本件面取機のオプション仕様として提供されており,必ずしもすべての顧客が購入するとは限らないし(甲5,14,15,28,44,乙20の1ないし乙24),後記(2)のとおり,ヘリカル研削装置付きの本件面取機全体の価格のうち,ヘリカル研削装置の価格が占める割合は,9.53パーセント(W−GM−5200)から13.33パーセント(W−GM−4200)程度にとどまっていると認められる(弁論の全趣旨)。


 そうすると,上記第2,1(3)ア(ア)のとおり,ウェーハ面取部分の鏡面化が必須となりつつあり,ヘリカル研削装置がそのための加工技術を提供するものであることを考慮しても,ヘリカル研削のみが本件面取機の本質的機能であるということはできない。


 したがって,本件発明によって被告が受けるべき利益を算定する基礎とすべき製品は,ヘリカル研削装置を構成する砥石,その砥石駆動スピンドル部分及びその制御部のみというべきである。なお,ヘリカル研削装置を搭載しないで本件面取機を販売した後,顧客の要望により,同装置を付加する改造を行った場合には,当該改造に要する改造費は,本件面取機におけるヘリカル研削装置の売上高と同視すべきものといえる。


(2)平成17年度までの売上高

・・・省略・・・

 したがって,平成17年度までのヘリカル研削装置の構成部分の売上高(改造費を含む。以下同じ。)は,合計10億1044万3876円(1円未満切捨)となる。


(3)平成18年度以降の売上高

ア 本件特許権放棄の影響

 上記1(2)のとおり,改正前特許法35条4項における「使用者等が受けるべき利益の額」については,使用者等が,当該発明に係る権利を承継した後に,当該発明により実際に受けた利益の額に基づいて算定するのが合理的な算定方法の1つであるといえる。


 そして,使用者等が,特許を受ける権利を承継した後に実際に受けた利益の額に基づいて「使用者が受けるべき利益の額」を算定する場合には,承継後の一切の事情,例えば,当該発明を実施した製品の実際の売上額の推移のみならず,使用者等が特許権の登録を受けたことや当該特許権を放棄したことなどの事情をすべて考慮すべきものといえる。また,上記の算定方法においては,承継時に予想された以上に使用者等が利益を上げることができた場合であっても,通常,その利益の額が相当対価の算定の基礎とされるのであるから,特許権が放棄され,それ以降,使用者等が独占の利益を享受し得なかった場合には,そのことも算定の基礎として考慮するのが,衡平かつ相当であるといえる。


 そして,使用者等は,当該権利を放棄することによって,以後,当該発明の実施を独占することができなくなる一方,競合他者が当該発明を実施するに至るまでの相応の期間内は,事実上,引き続き当該発明による独占の利益を受けることが可能であることにかんがみれば,当該発明の実施製品の売上高は,上記相応の期間内を限度として,相当対価の算定の基礎とすることができると解するのが相当であり,当該期間は,当該発明の価値や実施の容易性,当該特許権の残存期間,競合他者による特許発明の実施の意向,市場の動向等を総合考慮して算定すべきである。


 後記認定のとおり,ヘリカル研削技術によって,研削面粗さ精度が向上することは本件発明以前から公知であったところ,本件発明は,砥石軸を傾けるという単純な機構であって(上記第2,1(4)),砥石も一般に広く流通しており(甲22),競合他者が本件発明そのものを実施することは容易であると考えられること,本件特許権の放棄当時,その残存期間は約5年間であったこと,競合他者において本件発明を実施したい旨の強い要望を示す証拠は認められないことなどにかんがみれば,上記相応の期間は,約6か月間と認めるのが相当であるから,平成19年3月31日までの売上高等を相当対価の基礎とすることとする。


 この点,原告は,使用者等は,相当対価の支払をすることによって,初めて職務発明にかかる特許権を放棄することができる旨を主張する。


 しかしながら,使用者等と発明者との間において特許権や特許を受ける権利の処分を制限する合意が存するような特段の事情がある場合を除き,一般的に使用者等が取得した権利の処分が制限されるような法的根拠は認められず,本件においても上記のような特段の事情は認められないから,原告の上記主張は理由がない。

 ・・・省略・・・

ウ なお,被告は,本件取扱規定によれば,職務発明の実施により被告が利益を得た場合には,実績補償金として毎決算期末にこれを支払うこととされていることを根拠に,将来の売上高を算入することはできないと主張する。


 しかしながら,本件取扱規定第9条が,重複して実績補償金の支払をする条件として,「一度実績補償金を受けた後に,さらに当該発明の実施により会社の業績に著しい貢献があったと認められた場合」と定めていることからすると,同条は,当該決算期の実績に比例した補償金を各決算期末に支払う旨を定めたものとは必ずしも解されないし,前示のとおり,改正前特許法35条3項及び4項は,特許権等を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益を基準として相当対価の額を算定すべきことを定めていることからすると,平成18年度の売上高も基礎として,相当対価の額を算定すべきものといえ,被告の上記主張は採用できない。


(4)小括

 よって,本件発明により被告が受けるべき利益を算定する基礎とすべき製品の売上高は,13億0071万0890円と認められる。


(5)砥石売上高及びロイヤリティ収入について

 原告は,ヘリカル研削専用砥石の売上高や,被告が砥石業者から得ている当該砥石に係るロイヤリティ収入も,本件発明の実施による独占の利益であると主張するが,当該砥石そのものは,本件発明を実施した製品ということはできないから,この点についての原告の主張を採用することはできない。 』

 と判示されました。


 明日に続きます。


 追伸;<気になった記事>

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●『LG電子が携帯電話向け音声コーデックの特許技術をDTLからライセンス(GPCI)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3284
●『NokiaNECら大手通信企業、LTE/SAE特許ライセンス料の上限設定で合意』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/15/news046.html
●『中小企業の知財戦略構築を支援するマニュアルの公表について』http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/puresu/press_chusho_manual.htm
●『中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアルについて〜はじめてみよう!知財経営〜』http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/chushou/manual_tizaikeiei.htm
●『紙おむつ特許侵害、王子ネピアに高裁も賠償命令』http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/index.cfm?i=2008041707244b3
●『「青森」と類似の商標、中国に異議申し立て・青森県など』http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/index.cfm?i=2008041705353b3
●『青森の「森」は水3つ? また中国で類似商標申請』http://sankei.jp.msn.com/economy/business/080417/biz0804171449008-n1.htm