●平成18(ワ)11664補償金請求事件「半導体ウエハの面取方法」(1)

 本日は、職務発明の『平成18(ワ)11664 補償金請求事件「半導体ウエハの面取方法」平成20年03月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080415162155.pdf)について取り上げます。


 本件は、被告の元従業員である原告が「半導体ウエハの面取方法」に関する特許権を有する被告に対し,被告在職中に当該特許権の対象である職務発明を行い,その特許を受ける権利を被告に承継させたとして,改正前特許法35条3項に基づき,上記承継の相当な対価等の支払を求めた事案で、その一部が認められた事案です。


 本件では、職務発明の対価の判断などが参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節,裁判官 國分隆文、裁判官 間明宏充)は、


1 相当対価額の算定方法

(1)本件発明は,原告が発明者の1人である職務発明であるところ,被告が,平成4年1月13日ころ,本件特許を受ける権利の譲渡を受け,その特許出願をし,特許登録を受けたこと,原告に対し,本件特許を受ける権利の承継の対価として,平成4年1月,出願補償金として3000円を,平成11年1月22日の特許登録後に,登録補償金として3000円をそれぞれ支払ったこと,本件発明を専ら被告グループに属する東精エンジニアリングのみに無償実施させ,被告グループ以外の企業に実施許諾をしていないことは,上記第2,1(2),(3)及び(4)のとおりである。


(2)原告は,本件特許を受ける権利について,当該承継時点で被告に対する相当の対価の請求権を取得したものであり,相当の対価の額を定めるに当たっては,改正前特許法35条4項が適用されるところ(平成16年法律第79号附則2条1項),勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。


 そして,改正前特許法35条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該職務発明に係る特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことから,使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の額ではなく,当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)の額と解すべきである。


 例えば,使用者等が,当該発明を他人に実施許諾せずに,本件のように自らが当該発明を実施している場合においては,これにより実際に得た売上高から通常実施権を行使することにより得られるであろう売上高を控除したもの(超過売上高)に基づく収益をもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益」というべきである。


 この超過売上高に基づく収益の具体的な算出方法としては,(i)当該発明を他人に実施許諾したと仮想し,その場合に得られるであろう実施料収入を算定するという方法や,(ii)使用者等が超過売上高から得るであろう利益を直接算定する方法などが考えられるところ,本件においては,当事者双方の主張,立証の内容にかんがみ,(i)の方法によるのが相当と認められる。


 なお,改正前特許法35条3項及び4項の規定は,職務発明についての特許を受ける権利の承継時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにすることを趣旨とする規定と解される。


 もっとも,特許を受ける権利自体が,将来特許登録されるか否か不確実な権利である上,当該発明により使用者等が将来得ることができる利益を,その承継時において算定することは,極めて困難であることにかんがみればその発明により使, 用者等が実際に受けた利益の額に基づいて,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を事後的に算定することは,「利益の額」の合理的な算定方法の1つであり,同条項の解釈としても当然許容し得るところというべきである。


(3)以上のようにして,使用者等が受けるべき利益(独占の利益)の額を認定した上で,次に,当該発明がされるに至った経緯等において当該発明者が果たした役割を,使用者及び他の発明者との関係における貢献度として数値化,割合化して認定し,これを利益の額に乗じて,職務発明の相当対価の額を算定することとなるが,本件においては,その算定に当たって,当事者双方とも,被告単体ではなく,被告グループ全体についての利益の額及び貢献度を問題として主張をするので,以下の当裁判所の判断も,それを前提に行うこととする。 』


 と判示されました。


 明日に続きます。