●平成19(行ケ)10321 審決取消請求事件 意匠権「包装用袋」

 本日は、『平成19(行ケ)10321 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「包装用袋」平成20年04月14日知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080415112453.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠法10条の2第1項の規定に基づく意匠登録分割出願に対する拒絶審決の取消しを求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、原出願にて補正により削除した意匠を、意匠法10条の2第1項の意匠登録分割出願にて復活させる補正は、意匠法10条の2第1項に規定する意匠登録出願の分割の要件を満たさず、本件原出願の時にしたものとみなすことができない、という特許庁の審決を支持した点で、参考になる事案で、特に、意匠の実務者は補正の際に注意しなければいけない事項です。


つまり、知財高裁(裁判長裁判官 田中信義、裁判官 浅井憲、裁判官 古閑裕二)は、


第5 当裁判所の判断(本件出願に係る分割要件の有無についての判断の誤りについて)

1(1) 本件原出願及び本件出願に係る各審査手続(以下「本件審査手続」という。)の経過は,前記第2の1(1)及び(2)に摘示したとおりである。なお,本件原出願に係る第1回拒絶理由通知(甲12)及び本件原出願に係る第2回拒絶理由通知(甲15)の具体的な記載は,以下のとおりである。

ア 本件原出願に係る第1回拒絶理由通知(甲12)

「この意匠登録出願については,次の理由で,意匠法第17条の規定により拒絶をすべきものとします。
・・・
                   理 由
この意匠登録出願は,経済産業省令で定める物品の区分又はそれと同程度の区分により意匠ごとにされているものとは認められませんので,意匠法第7条に規定する要件を満たしていません。
                    記
この意匠登録出願の意匠は,願書(及び添付図面)の記載によると,第一形態として表された包装用袋と第二形態として表された包装用袋との二つの物品に係るものと認められます。」

イ 件原出願に係る第2回拒絶理由通知(甲15)
「この意匠登録出願については,次の理由で,意匠法第17条の規定により拒絶をすべきものとします。
・・・ 
                   理 由
この意匠登録出願の意匠は,下記に示すように,意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当しません。
                    記
この意匠登録出願の意匠は,意匠登録を受けようとする部分とそれ以外の部分の境界が不明確ですので,意匠登録を受けようとする部分の形状が特定せず,具体的な意匠を表したものと認められません。」


(2) 上記(1)によれば,本件審査手続の経過は,以下のとおりであると認められる。

ア 原告は,意匠登録を受ける意匠を別紙1のとおり第一形態の意匠及び第二形態の意匠とする本件原出願をした。


イ 審査官は,本件原出願に,意匠登録を受けようとする意匠として,二の意匠(第一形態の意匠及び第二形態の意匠)が包含され,意匠法7条に規定する要件を満たしていないものと判断し,原告に対し,本件原出願に係る第1回拒絶理由通知を発した。


ウ これに対し,原告は,本件原出願に係る第1回拒絶理由通知に係る拒絶理由を解消するため,本件原出願について,意匠登録を受けようとする「【意匠の説明の項】」及び図面全図を別紙2のとおり(「【意匠の説明】」の項においては,部分意匠であることを明示し,図面については,別紙1における第一形態の意匠に係る全図を削除して第二形態の意匠に係る図面7枚と同一のものとした。)とする本件第1次補正をし,さらに,本件第1次補正において記載漏れのあった「【部分意匠】」の欄を追加する本件第2次補正をした。


エ 審査官は,本件第1次補正による補正後の意匠について,意匠登録を受けようとする部分とそれ以外の部分との境界が不明確であり,意匠登録を受けようとする部分の形状が特定されていないため,意匠登録を受けようとする意匠が,意匠法3条1項柱書に規定する意匠に該当しないものと判断し,原告に対し,本件原出願に係る第2回拒絶理由通知を発した。


オ これに対し,原告は,本件原出願に係る第2回拒絶理由通知に係る拒絶理由を解消するため,本件原出願について,意匠登録を受けようとする「【意匠の説明】」の項及び図面全図を別紙3のとおり(「【意匠の説明】」の項においては,図面における各線の意義を明確にし,図面については,本件第1次補正における図面7枚(うち4枚には必要な修正が施された。)に,斜視参考図,正面参考図及び本件参考図を加えたものとした。)とする本件第3次補正をした。


カ しかしながら,審査官は,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠(第二形態の意匠)が,先行意匠に類似することを理由として,原告に対し,本件原出願に係る第3回拒絶理由通知を発した。


キ そこで,原告は,第一形態の意匠について意匠登録を受けるため,本件原出願を分割するとの形式をとり(すなわち,本件原出願の出願日及び本件優先日をそのまま維持する目的で),本件出願をした。


(3) 上記(2)のとおりの本件審査手続の経過に照らせば,原告が,本件原出願に意匠登録を受けようとする意匠として二の意匠が包含されており,意匠法7条に規定する要件を満たさないとの本件原出願に係る第1回拒絶理由通知を受けたため,これに係る拒絶理由を解消するため,すなわち,本件原出願が,意匠登録を受けようとする意匠として一の意匠のみを包含するものとなるよう,本件第1次補正をしたことは明らかであるから,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,本件第1次補正により,第二形態の意匠のみとされ,第一形態の意匠は,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠から除外されたことにより放棄されたものと認めるのが相当である。


 また,原告は,本件第1次補正によって意匠登録を受けようとする意匠とされた第二形態の意匠(部分意匠)が,意匠登録を受けようとする部分とその余の部分との境界が不明確であり,意匠法3条1項柱書に規定する意匠に該当しないとの本件原出願に係る第2回拒絶理由通知を受けたため,これに係る拒絶理由を解消するため,第二形態の意匠に係る必要な手続補正として,本件第3次補正をしたものと認めるのが相当である(なお,本件第2次補正は,本件第1次補正において記載漏れのあった軽微な事項の追加に係るものである。)。


(4) そうすると,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,本件第1次補正によって,本件原出願時から第二形態の意匠のみとされ,本件第3次補正も,第二形態の意匠についてされたものであるといえるから,本件出願の時点では,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,第二形態の意匠のみであったと認められる。


 したがって,本件原出願は,本件出願の時点では,「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」ではなかったものであるから,本件出願が分割要件を欠くものであったことは明らかであり,その他,本件出願の時点において,同出願が分割要件を満たしていたものと認めるに足りる証拠はない。


2 原告の主張について

 原告は,種々の根拠を挙げて,本件出願が分割要件を満たすものであったと主張するので,以下,順次検討する。

(1) 本件出願の時点における本件原出願の内容(意匠登録を受けようとする意匠)を本件原出願の出願時のものと解すべきであるとの主張について


ア 原告は,「原告は,本件第1次補正により,第二形態の意匠について,審査手続の継続を要請したものであり,同補正により,『図面全図を変更し,第一形態の意匠を削除して,第二形態の意匠を残』す旨の意思表示をしたものではない。また,原告は,本件第3次補正により,本件第1次補正及び本件第2次補正において意匠登録を受けようとする部分意匠の内容を明確にするべく,新たに訂正・補充をしたものであり,本件第3次補正により,『願書の意匠の説明の項及び図面全図を変更』する旨の意思表示をしたものでもない。」と主張する。


 しかしながら,前記1(3)のとおり,原告は,意匠法7条に規定する要件を満たさないとの拒絶理由を解消するため,すなわち,本件原出願が,意匠登録を受けようとする意匠として一の意匠のみを包含するものとなるよう,本件第1次補正をし,同補正により,第一形態の意匠は,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠から除外されたものであるし,また,本件第3次補正は,第二形態の意匠に係る必要な手続補正としてされたものであるから,原告の上記主張を採用することはできない。


 また,原告の上記主張を前提とするその余の主張についても,すべて,その前提を欠くものとして失当である(なお,付言するに,意匠法7条に規定する要件を満たさないとの拒絶理由を通知した審査官が,当該拒絶理由が解消されないまま,二以上の意匠のうちの一の意匠についてのみ審査を先行させるなどという審査実務が行われているものとは到底考えられず,また,そのような審査実務が行われているものと認めるに足りる証拠もない。)。


イ原告は,「『意匠登録出願の願書の記載又は願書に添付した図面について補正があり,その補正がこれらの要旨を変更するものでないとき,書類等は出願当初から補正後の状態で提出されたものとして取り扱われる。』との審決の解釈に根拠はなく,まして,手続補正により,当初の出願時にさかのぼって,当初の出願手続書類等が手続補正書類等と差し替わるものではないから,本件各補正があっても,本件原出願の内容は,留保された状態にあるというべきである。」と主張する。


 しかしながら,適法な手続補正がされれば,意匠登録出願の内容がその出願時にさかのぼって当該手続補正の内容のとおり変更されることは,意匠法9条の2,17条の2第1項及び17条の3の各規定から当然に導かれる解釈であるから,原告上記主張は,独自の見解であるといわざるを得ず,採用することができない。


ウ 原告は,「審決は,『意匠登録出願の願書の記載又は願書に添付した図面について補正があり,その補正がこれらの要旨を変更するものでないとき,書類等は出願当初から補正後の状態で提出されたものとして取り扱われ,手続の補正があった時からその効力を有するものであり,手続は暫定的な状態にあるものではない。』と判断したが,手続補正により,当初の出願時にさかのぼって,当初の出願手続書類等が手続補正書類等と差し替わり,前者が取り下げられたり,放棄されたりするとの効果が生じるわけではない。そもそも,手続補正は,『一連の意味を持った手続経緯を有するもの』として,当該手続補正の内容につき『時系列的に出願当初からの効力を持つ』ものであるから,当初の出願の目的及び範囲において,以後も手続補正は可能であり(先行の手続補正は,後行の手続行為を拘束するものではない。),その意味で,手続補正は暫定的なものである。」と主張する。


 確かに,適法な手続補正がされても,その後に,再度,適法な手続補正がされれば,前者の手続補正によって変更された意匠登録出願の内容は,後者の手続補正の内容のとおり変更されるのであるが,これは,適法な手続補正の効果として意匠登録出願内容が出願時に遡及して変更されることがあり得ることを意味するに止まり,このような可能性があるからといって,出願内容自体が未確定ないし浮動的なものであることを意味するものとしての「暫定的」なものであるとするのは相当ではない。


 そして,原告の上記主張は,結局は,適法な手続補正がされても,当初の意匠登録出願の時点にさかのぼって,その内容が変更されるものではない旨をいうものであるから,上記イにおいて説示したとおり,これを採用することはできない。


エ(ア) 原告は,「本件拒絶査定は,『二の意匠を包含する意匠登録出願を一の意匠を包含する意匠登録出願とする手続補正は,当該二の意匠を包含する意匠登録出願の分割の手続によらずに意匠法7条違反を回避するという,要旨変更の例外的取扱いとしての特別のものであり,当該手続補正の内容は,以後の手続の内容を拘束する』との見解に立ち,『当該手続補正の後は,当該手続補正によって限定された一の意匠とは異なる他の意匠(当初の意匠登録出願に包含されていたもの)については,当該意匠を[意匠登録を受けようとする意匠]とする旨の手続補正や,当該意匠に係る新たな意匠登録出願を当初の意匠登録出願の分割としてすることは許されない』と判断し,審決も,この判断を容認した。しかしながら,意匠法には,本件拒絶査定及び審決の上記判断の根拠となる規定はないから,本件拒絶査定及び審決は,本件出願が『審査経過矛盾行為の禁止』に該当するものと判断したと考えられる」と主張する。


(イ) 本件拒絶査定(甲24)には,次の記載がある。

「意見書において,本願の意匠は原出願・・・からの適法な分割出願であ・・・る旨主張されました。

 しかしながら,・・・一般的には,手続補正が要旨の変更となるか否かは出願当初の願書及び図面の記載に基づいて判断すべきであったとしても,二以上の意匠が含まれる出願について,一つの意匠を残し他の意匠を削除する補正が要旨の変更と取り扱われていないことは,出願人が他の手段を取りようがないための規定である・・・ことを考慮すると,二以上の意匠が含まれる出願について,一度一つの意匠に限定し他の意匠を削除した場合には,出願当初の記載内容から自由に何度でも他の意匠に限定する補正ができるものとは認められず,最初に限定した意匠にのみ,意匠登録を受けることができるものと考えられます。

 原出願の平成17年3月17日付けの手続補正(判決注:本件第3次補正である。)は,意匠法第7条の拒絶理由通知がなされたことに対して,出願当初に含まれていた二つの意匠を一つの意匠に限定したものであることから,その時に選択しなかった他の意匠について,出願当初の内容に遡って分割をすることは,認められません。」


(ウ) そこで,検討するに,本件拒絶査定の上記記載中,第2段落については,原告が主張するところとの関連でみれば,要するに,本件出願が分割要件を満たすようにするための,すなわち,本件原出願が二の意匠を包含するようにするための手続補正は認められない旨をいうものであるところ,そのような手続補正が,要旨変更に当たることは明らかである上,意匠法7条の規定にも違反する不適法なものであることは明らかであるから,同段落の記載は,少なくとも結論において相当であるというべきである。


 また,本件拒絶査定の上記記載中,第3段落については,要するに,本件第3次補正の際に選択されなかった他の意匠について,本件原出願の当初の内容にさかのぼって出願の分割の対象とすることは認められない旨をいうものであり,これが相当であることは,上記アないしウにおいて説示したとおりである。


 したがって,本件拒絶査定の上記記載に意匠法上の根拠がないことを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものとして失当である。


オ 以上のとおりであるから,本件出願の時点における本件原出願の内容(意匠登録を受けようとする意匠)を本件原出願の出願時のものと解すべきであるとの原告の主張は,すべて理由がない。


(2) 本件参考図の存在により,本件第3次補正後の本件原出願に二の意匠が包含されているとの主張について


ア 原告は,「意匠法24条1項の規定によれば,登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定めなければならないのであるから,本件参考図に,意匠登録を受けようとする意匠とは別の意匠が記載され,開示されていることが認定できるのであれば,当該別の意匠は,意匠法6条の規定に基づいて意匠登録を受けようとする意匠の広義の範囲に属し,分割の対象となる意匠であると解すべきである。」と主張する。


 確かに,本件参考図は,図面としては,本件原出願に係る本件第1次補正前の図面(別紙1の「【使用状態を表す参考正面図】」と題する図面。その記載位置からみて,第一形態の意匠に係る図面であると認められる。)と同一のものである。しかしながら,前記(1)アにおいて説示したとおり,原告は,意匠法7条に規定する要件を満たさないとの拒絶理由を解消するため,すなわち,本件原出願が,意匠登録を受けようとする意匠として一の意匠のみを包含するものとなるよう,本件第1次補正をし,同補正により,第一形態の意匠は,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠から除外されたものであるし,また,本件第3次補正は,第二形態の意匠に係る必要な手続補正としてされたものである。また,本件参考図は,別紙3のとおり,第二形態の意匠に係る図面9枚が記載された後に,10枚目の図面として,かつ,その表題を単に「【一実施類型の使用状態を示す参考図】」として記載されているものであり,これが上記9枚の図面に現された意匠と異なる意匠をすものであるとの記載は,本件第3次補正に係る手続補正書(甲16)には,一切みられない。


 そうすると,本件第3次補正に係る手続補正書に記載された本件参考図が,たまたま,図面としては,本件原出願において第一形態の意匠に係る図面として添付されたものと同一であるとしても,そのことをもって,本件参考図が第一形態の意匠を現すものと認めることはできない。


 したがって,本件参考図に第二形態の意匠と異なる意匠が現されていると認定することができることを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものとして,失当である。また,上記説示したところに照らせば,そのように認定することができ,又は認定すべきであったとの原告の主張についても,これを採用することはできない。


イ 原告は,「手続補正によりいったん削除した記載であっても,その後の手続補正(回復補正)により,再度,当該記載を加えることは可能であると解され,したがって,本件参考図を,当初の出願書類に添付されていた一組の図面(意匠登録を受けようとする意匠)に補正することも可能であると解されるところ(これは,当業者にとって自明である第一形態の意匠の他の部分の構成態様を念のために補正・補充するものである。),本件出願に当たり,当該手続補正を行った上で,出願の分割(本件出願)を行うというのは,審査官にとっても出願人にとっても迂遠な方法であり,手続経済的合理性を欠くから,本件においては,当該手続補正を経ることなく,出願の分割が可能であったと解すべきである。」と主張する。


 しかしながら,前記1(2)のとおりの本件審査手続の経過に照らせば,本件原出願について原告が主張するような手続補正を行うことは,要旨変更に当たるものとして許されない上,意匠法7条の規定にも違反するものであって不適法であることが明らかであるから,当該手続補正が適法に行えることを前提とする原告の主張は,その前提を欠くものとして,失当である。


ウ 原告は,「意匠法施行規則3条に規定する様式第6の備考14においては,願書に添付すべき図面として,意匠登録を受けようとする意匠を十分表現することができないときに加える必要な図と,意匠の理解を助けるために必要があるときに加える参考図とを峻別せず,同列のものとして扱っている。」と主張するが,当該主張は,本件参考図が第一形態の意匠を現すものと認めることはできないとの上記アの結論を何ら左右するものではない。


エ以上のとおりであるから,本件参考図の存在により,本件第3次補正後の本件原出願に二の意匠が包含されているとの原告の主張は,すべて理由がない。


3 結論

よって,審決取消事由は理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 意匠法における手続補正は、出願当初の明細書等の記載の範囲内で補正ができると明記されている特許法における手続補正と異なり、いったん図面や物品などを削除する補正をすると、削除した図面を戻す補正は、要旨変更なり、認められないので、意匠法7条(一意匠一出願)違反で拒絶を受けた際に権利化を望む意匠については、その出願に残す補正か、その時点で分割出願する必要があることになります。


 詳細は、本判決文を参照してください。